さ夜ナラのchi

エリー.ファー

さ夜ナラのchi

 暮れなずむ町の中で、自分の生き方だけを少し哲学的に考えてみる。

 大事なことは、何なのか、と誰かに問われたが、残念なことにそのことに関して、僕は決して思いを持っている訳ではない。

 答えることすらかなわない。

 自分の人生に何の思いれもなければ、このままどこかに置き去りになってしまったところで、困りもしない。

 そういうものだ。

 僕は僕を捨てている。

 既に、僕はもう僕ではない。

 六年も前に、この戸籍を買った。

 そして。

 顔も同じにした。

 この戸籍を持っていた前の人間がどのようなことを考えて生きていたのか。今の僕を見てどのようなことを思うのかなど、何の興味もない。

 僕の知る限り、これらが、一つの結論として、僕の罪悪感を刺激することはないと言っていい。

 この戸籍でさえ、結局は金によって交換されたものでしかないからだ。そこに、モラルは当然ないし、僕も、そして交換された側の人間にも必要とされていない。

 ここに、持ち込めるものには限度がある。

 それは、人によっては、生き方であり、自分の作り出したものでもあるのだろう。

 僕は。

 僕たちは。

 それらを踏みにじって生きている。

 逆に言えば。

 それ以外の生き方を僕はできないのだ。

 このまま、この場所で。

 この世界で。

 この常識で。

 生きていくというのなら。

 僕は僕をこのまま誰かの借りものの中に沈ませて生きていくほかない。

「どうするのさ。」

「何がだ。」

「いつか、妹の戸籍も買うんだろう。」

「その予定だった。」

「どうしたんだ。」

「妹なら、昨日死んだよ。肺炎だった。」

「可哀そうにな。」

「そんなことはない。結局僕のしていた仕事をしなくて済んだ。ある意味、幸せといっても過言じゃない。」

「良いと思っているのか。」

「血の繋がらない妹のことなんて、それが本音だ。」

 死体の回収には多くの人員が割かれることになっている。それもそのはず、状況は決して良くはない。環境が悪いまま、子供たちは生まれて死んでいくし、大人は放置している。

 数年前もこのような状況から持ち直したのだから、今度も大丈夫だと高をくくっている人間たちがいる。

 しかし、あの時は、この状況をそのままB地区に押し付けただけだったのだ。今や、B地区は壊滅的。

 つまり。

 もう、押し付け先すらないのだ。

 こんなことを地球の上でもう何年も何世紀も行っている。

 誰も止めようとしない。

 結局。

 自分の代でその責任を取らなければいいと本気で思っているのである。

 人間が学んだ、そして人類が叡智を絞って作り出したどんな問題にも答えを出す最高の手段が、先送りだった、ということである。

 そもそも、人類というジャンルに問題を解決させることに無理がある。

 まず、人類が問題を作り出し、後は、自然に解決してもらう。

 これが自然だろう。

 このあたりのことを間違えてしまうと、人類は静かに自然というものを理解しようと始める。最初に行わなければいけないのは、もとい、行うべきだったのは、自然に人間を理解してもらうことだったのである。

 自然に理解してもらえるような。

 そんな人間になることだったのである。

「どうするんだ。」

「何がだ。」

「地球が滅亡するという噂もあるけど。」

「噂だろう。事実じゃない。」

「随分、ポジティブだな。」

「ネガティブだよ。まだ滅亡しないんだぞ、僕ら。」

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