(4)
日曜日になった。今日は私の誕生日だ。宣言通りお昼までまったりした後は、二人でお台場までデートに出かける。
東京にたくさん(多すぎるくらい)ある電車の中でも、ゆりかもめは特別だ。いつでも人で賑わう都心から出発して、湾岸沿いを進むわくわく感、そして海上に飛び出してからループする線路の圧巻さといったら。
「このループ、楽しいよな」
ぼんやり窓の外ばかり見ている私の様子に気づいたのだろう。悠輔くんが言って、私はハッとした。
「わかる?」
「うん。次々に景色が変わっていって、面白いし」
夕暮れどきが始まっていた。車両の左側に座る私たちは、まず太陽を背に浴びる品川方面のビル街を眺める。そしてオレンジ色に染まる、ここまでに通ってきた芝浦方面のマンションたちにお別れをする。もうすぐ、お台場が見えるはずだ。
私は、後ろから夕陽に照らされる。ふと、眼鏡の縁がきらりと光る。それはあまりにもか細いけれど、確固とした意思を持った光で、そして、信じられないくらい綺麗だった。
「志保?」
涙がこぼれていた。
今朝、一人で早起きしてからずっと思っていた。そうか、あのときから、もう干支が一回りするくらい生きてきたんだと。十二歳のとき、田舎の片隅で希望を失った私は、十二年後、眼鏡越しにこうしてまだ光を観ることができている。
あのときからかけ始めた眼鏡で反射して見えた光を、今の私は感じている。
悠輔くんに、背中をさすってもらいながら、私はほとんど見えない目で幸せそうな暖色のお台場の街を眺めようとしていた。
でも、頭を下げていると、角度的に、私の目はほとんど窓の外を捉えてくれない。
涙のせいじゃなくて、今は本当に、全然、窓の外が見えていない。
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