きっと今夜も、きらりきらめき
倉海葉音
(1)
小学六年生の秋、私は久しぶりにはっきりと夜空の星を見た。
秋の四辺形につながれた、ペガスス、アンドロメダ。郊外にある街では星たちがくっきりと見える。
手に入れたばかりの眼鏡のフレームの線と、少し曇ったレンズを間に挟んで、小さい光まで見えている。でも、少し視線をずらせば、もう何も見えない。
そのとき私は、もう二度と、自分の目で満天の星空を観ることができないんだ、という思いに強く心を刺された。
「どうしたの?」
空を眺めてばかりで、歩みの遅い私に、お母さんが話しかけてくる。
「……ううん、なんでもない」
でも私は、その感覚を上手く説明する言葉を知らなかった。だって私は口下手だし、何よりお母さんは視力がいいから、きっとちゃんとは伝わらない。
それにしても変な話だ。だって、しばらく前から、私の見る空はもうぼやけてしまっていたのだから。
学年が進むに応じて、私の目はくっきりとした世界を徐々に手放していった。低学年の頃は、通知表に「よくできた」が並ぶのと、視力検査で「A・A」を取るのは、同じくらい簡単なことだったのに。
当時の私にとって、きれいな夜空は一番好きなものだった。夜眠る前に窓を開けて、月や星空がちゃんと見えたならば、明日は最高にハッピーな一日が約束されたような気分だった。
ふと西を向けば、沈みかけの欠けた月が私を見ていた。
おやおや、大丈夫かな? と月は首を傾げている。
ううん、大丈夫じゃない、と私はしょんぼり返事する。
眼鏡が二つに分けていた空から、私はそっと立ち去った。それは十二歳になって、たった三日目のことだった。
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