第3話 祖母のこと
祖母は104歳まで生きました。
祖母の人生は波乱万丈でした。
若い頃、夫に愛人ができ、三人の子供を連れて家を追われるように出ましたが、下の二人は幼い頃に病気と事故で亡くして、残ったのが長女の母です。母はあまり身体が丈夫ではなかったので、随分、心配もし、大変だったようです。
幸い母は父と出逢って、祖母を引き取り同居して、わたしという孫も生まれました。
女性としての母は父に心から愛され幸せだったと思います。
わたしが夫と死別した後、しばらくして冗談で、男運の悪さは隔世遺伝しちゃったねぇ なんて言ってたものです。
祖母はしゃっきりとした気の勝った明治女でしたが、幼い頃に母親を亡くした父とは本当の親子のようだったのを覚えています。
だから、晩年の祖母は穏やかな日々を過ごしていました。
ただ そんな祖母も最晩年は老いと共に痴呆があらわれてきました。
夫の闘病生活の中で介護の真似事くらいはやってきたつもりでしたが、排泄の問題についてはまだまだわかっていなかったのだと祖母の介護の中で知りました。
排泄と入浴などの問題は綺麗事ではない、人間の尊厳など吹き飛ばしてしまう。
この頃、既に夫と死別していたわたしは、三人の子供たちを育てるので精いっぱい。週に一度ほど実家に顔を出して介護の手伝いをしていましたが、主な負担は両親にかかりました。
要介護認定を申請して、認定を受け…デイサービスを利用することができるようになったことで少しは負担が軽減したとしても、それはまさに老老介護です。
そして、それは数年続きました。
実家に帰って介護の手伝いをしながら、わたしは両親への申し訳なさと自分の情けなさでいっぱいでした。
結局、祖母は転んで足を骨折したのをきっかけに病院へと入院して、少しずつ少しずつ弱っていき……
お見舞いに行った時、わたしの手をぎゅっと握って、不思議にめずらしくはっきりした声で「ありがとね」と言ってくれた次の日、早朝だったといいます。
息をひきとりました。
できれば側についていて看取ってあげたかったと思いましたが、こればかりはどうしようもないことなのかもしれません。
対面した祖母の顔は眠っているようで、それが救いでした。
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