僕と昼寝

またたび

僕と昼寝

 涼しい野原に来て、一人横になる。


 風を浴び、ぼんやりと空を見上げながら昼寝をする。


 最高なんだな、これが。


「君は本当に昼寝が好きなんだね」


 一人の少女が喋る。麦わら帽子を被りワンピースを纏う無邪気な人だ。


「悪いかい?」


「いえいえ、悪くないですよ」


「ここはいい、とてもいい。昼寝には最適な場所だ。人も少ない」


「私は邪魔?」


「そうは言ってないだろう」


「なら嬉しいけれど」


 ぼんやりと寝心地がよくて意識が曖昧になっていく。空は僕を優しく包んだ。





 § § §





「貴方は本当に昼寝が好きなのね」


 一人の姫が喋る。活発なようで上品で、ドレスが似合う女性だ。


「姫様……貴方はご身分の高いお方です。僕のような卑しい身分の人間と出会ってはいけません」


「またそういう意地悪を言う!」


「別に言いたくて言ってるわけじゃないですよ……」


「なら貴方はそんなことなど気にせず、いつも通り私とたくさん喋っていればいいのです! 貴方は私の知らないことをたくさん知ってますから!」


「王城の図書室の方が知らないことを多く学べると思いますが」


「あそこは堅苦しい知識しかないから好きじゃないの。やっぱり貴方が語る生きた経験こそ、意味があるわ」


「買い被りすぎですよ」


「お世辞なんて自分より下の身分には使わないわよ?」


「……ありがとうございます」


 ぼんやりと寝心地がよくて意識が曖昧になっていく。空は僕を優しく包んだ。





 § § §





「勇者様は本当に昼寝が好きなんですね」


 一人の僧侶が喋る。まだまだ未熟だが努力や探究心はパーティー随一の、誇るべき仲間だ。


「たまにはいいだろ? こうやってのんびりするのも」


「たまには、じゃないから怒ってるんです!! みんなで明日のルートについて話し合わないと!」


「まあまあ。怒るなよ、僧侶。それより空を見てみてよ」


「そらぁ? 空って言ったってなんにもな……わあ、きれい……」


「星空ってなんでこんなにきれいなんだろうなあ」


「……理由は分かりませんけど、とてもきれいです」


「ああ、僕もきれいだと思う。ところでさ、僧侶」


「……なんですか?」


「魔王はさ、空を雲で覆い隠すんだよ」


「……」


「僕は決して人類が好きなわけじゃない。醜い争いばかりをする。多くの命を奪い生態系のバランスを崩す。ろくなことをしないからね」


「……」


「でも魔王が人類を滅ぼしてこの星を支配してしまったら、あの星空をもう二度と誰も、見れなくなるんだ。それは少し……寂しいと思わないか?」


「……思います」


「だから僕は諦めないんだよ、この昼寝の時間がとても好きだからね」


「私も守りたいです、この星空を」


「それで十分だよ」


「じゃあ行きますよー勇者様!」


「悪いけど僧侶、僕はもう少しここで寝ていたい。後で行くから先に話し合っててくれないか?」


「ダメに決まってるでしょ!」


「この星空をしっかり頭に焼き付けておきたいんだ」


「……」


「頼むよ、僧侶」


「……はいはい、分かりましたよ。あっ、一ついいですか?」


「いいよ」


「星空を眺めながら寝るのは昼寝じゃないですよね?」


「ははっ、僧侶は細かいところを気にするなあ」


「笑って誤魔化さないでくださいよ!」


 ぼんやりと寝心地がよくて意識が曖昧になっていく。空は僕を優しく包んだ。





 § § §





 涼しい野原に来て、一人横になる。


 風を浴び、ぼんやりと空を見上げながら昼寝をする。


 最高なんだな、これが。


「君は本当に昼寝が好きなんだね」


 一人の少女が喋る。麦わら帽子を被りワンピースを纏う無邪気な人だ。


「悪いかい?」


「いえいえ、悪くないですよ」


「ここはいい、とてもいい。昼寝には最適な場所だ。人も少ない」


「私は邪魔?」


「そうは言ってないだろう」


「なら嬉しいけれど」


 ぼんやりと寝心地がよくて意識が曖昧になっていく。空は僕を優しく包んだ。


 ふと気付く。


 こんな場面が何度もあったことに。


 そして妙に現実味のあった、あの夢たちを振り返っていく。


「昼寝の前に一言いい?」


「どうぞ?」


「僕はどんな世界でも君と喋りながら昼寝をするのが好きらしい」


「へえ……新手の口説き文句?」


「いえいえ、本当のことを言ったまでですよ」


「……あっ、そう」


 ぼんやりと寝心地がよくて意識が曖昧になっていく。空は僕を優しく包んだ。


「ありがとう」


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僕と昼寝 またたび @Ryuto52

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