[(extra) キタキツネ] デパートの狭くて素敵な冷蔵庫 <長>






 お話、また聞きに来てくれたのね。

長いけど付き合ってくれると嬉しいわ・・・。





 お手伝いのため、菜々と街まで来た。

ちょっとハメられた形だけど、久しぶりに二人で出掛けられて本当は嬉しかったんだ。



 デパートの買い物で、休みたくて菜々から離れてしまった。自分勝手なことに、断りも入れず黙ってね・・・


   これがイケなかった。


 休憩所を探すうち妙な空間へ辿り着く。

入って前方に二階と地下への階段、ただそれだけある寂しい空間。



 なにが妙って此処、背中を向けた先が別の何かになっていくの。菜々と居て、少しはお利口になれたと自分でも思っていたのにな......。



  本当にごめん、もう少しがんばる・・・。



 ┈┈

 ┈──


 二階を見上げ後ろの出入口に目を移すと、火の点く黒いロウソクが立っていた。

"アレに近づくな" とわたしの感が言う



 周囲も見てしまい、周りの壁はトロトロと臭い泥が流れ、二階からは刺さるような痛い寒気


   それと磁場で感じる妙な気配。



 二階を見上げた異常は出入口だけじゃなく、床にも赤い花びらの様なものが散らばってて・・・



  「(な 何これ・・・──ヒッ!?)」


 下を見ると花びらなんかではなく、血がついてる剥がれた爪だった。

短く悲鳴を出して後ずさると──



    ┈┈ポスッ


 その時に小さなモノが頭に当たった。髪に絡まったようで、床に落ちてこない



  「やっ なんなのよ!!」


 泣きべそで髪を掻き分けると、指に固い物が当たった。それを掴んで確認するも・・・


    ......!!

  あったのはヒト(?) の黒い "前歯" 。


 ゾッとして思わず放り投げる。黒い丸三角、千切れた神経らしきものが一瞬だけ見えた・・・



  つまり床や上を見ても逆側が変になる。


 でももしかしたら背中と言うより、頭か首の後ろを向けた先だったのかも。だって下を見た時、動かしたのは頭だけなのに。

 

 身体を動かすのはマズいと思い、目で周りを探る。すると前方斜め右に┈┈地下への階段。



 見通しが悪いおかげで、あの先は背を向けてない。ただ気になるのはこのデパート・・・地下があったのかが分からない。

でもそっちしかもう行けない......。



  さびしいよ、菜々に会いたい・・・。


 泣きそうなのを我慢し、まず階段へ向かう。地下に背を向けないように (つまり左を向かないよう)


 前の壁へ近づくと右に階段が見えた。

その壁は泥が吹き出し、粘つく空気を出してカビ臭い。鼻がモゲそう・・・


 吐きそうな思いをしつつ、どうにか気持ちを落ち着け、せーので右を向く......



  「──ぅ!? 」


 火が点くような熱さを背中に感じた。

びっくりして足を踏み外しそうになって、でもどうにか手すりを掴む・・・。



 汗と過呼吸がなかなか止まらない。

後ろに何かある、それか居る・・・でも振り向けない。地下の道も別の何かになってしまうから


   ・・・見えないって、怖いわよね。


 急ぎたいけどそれもマズい。ケガを含めて、転がったりしても空間がどうなるか想像もつかない。慎重に降りる。



   ──カトン  カトン....

       カトン...


 「(舌噛んだみたい...痛い)」


 過呼吸の時にヤッたらしく、今ごろ痛みに気づく。通路は明るいけど狭くて急で、二人通れるかも怪しい。幸いにも妙な "磁場" は感じない。



 この時わたしは、何故かこう思ってた

"白いたい焼きと…きなこ餅が食べたい"



 人ってね、緊張してる時こそ関係ない事を考える傾向があるんだって。(わたしフレンズだけども)


 餅はお正月に食べて好きになった。

 むせたけど



   これも重要ではないけどさ・・・


 背中に熱を感じたやつ、あれロウソクの火が当たったんだと思ってた。でも考えてみるとわたしの姿的に、しっぽ辺りが熱くなるはず

 別の何かだったのかな・・・?



「(何だろう、口と喉がすごい乾く・・・)」


 ゾッとしててか、お水を飲みたく思う。

20段ほど降りると右へ折り返し、また15段ほど下り階段が。奥は薄暗く、緑色の淡い光と右へのカーブが見える。



 下を向きながら降りる。

 静かな中に足音だけ響いて不気味。


 さっきから何かさびしい気分だ。菜々どうしてるだろう、わたしを探してくれてるかな・・・




 不安をよそに奥へは順調に辿り着いた。目の前にまた鉄扉が一つ、取っ手は右側にある。


 非常口看板が扉の上にあった。

緑と白に光ってさっき見えた光で間違いない。

つまり...


  「(ここから・・・外に出られそう!)」


 どうなるかと思ったけど、迷子はもうコリゴリ。帰ったら菜々に謝って、肩でも何でも揉んであげよう 


 ──とか思ってた。

 もうとにかく安心したい・・・けれど

 


  ┈─チャリーン 

      カラン カラン カラ......


 目線を扉に戻す瞬間、遠くでコインの転がるような音が聞こえた。他に誰か居るとは思えない。

半笑いのまま、一瞬固まるわたし。


 人は急に驚くとね、ギャア!とか声はあげないの。その顔のまま硬直するって今知った。



「・・・行こう、ヤバい気がする」


 振り向かないように。 "わたしの後ろ" を非常口に向けると、下手したら別次元に挟まれる。

後ろで何が起きてるかは分からない



 扉を押すけど開かず・・・引く扉だった。

怖くて焦ってるけど変な気配はない、大丈夫。なのに寒気が収まらない

 

 重い扉は程なくして通れるくらいに開く。

 けどその瞬間── 


    「がぁッ!? 」



 ボウンッと何かと激突するような衝撃が全身に走った。その際に薄目で見たけど何もない・・・・・・

当たったのはただの冷たい突風。


 それだけなのに一瞬気を失いかけた

 寒さで意識は覚め、改めて先を見るも…



 「え・・・?  何これ・・・」


 ここまで内心で言葉を吐いてたけど、どうせ誰もいないのと・・・・・・期待を裏切られて声が出てしまった。 もちろん悪い意味でね



  扉の向こうは出口ではなかった。

まず見えたのは "真っ青" よく見たら青い空間。



 何かの調理場・・・みたいだった。

床や壁から天井まで真っ青で、蛍光灯も青い光を出している。



 あと、少し難しい例えするわよ......

"包丁を研いだ時の湿った鉄の匂い" がする。物が散らかってるけど青くてよく分からない。

 閉塞感がすごい


 それとこの空間の天井が恐ろしく低い。

頭スレスレで、さっきの鉄扉の高さにも合ってない。蛍光灯も目の高さで光って眩む。



 部屋の中心に分厚い奥長の金属テーブル。

 腰の高さ程で、ここも物ごっちゃ。


 さらに印象強いのは、テーブルを挟んで左右にある金属の "冷蔵庫" 。


 空間に似合わないほど巨大で、上下に分けて扉がある。それぞれ取っ手が真ん中にあって、両手で掴み左右に開く形。冷気が漏れている。



  寒い理由はこれか ・・・って

  もたついてる場合じゃないわね。


 後で知ったけど、給食作るとこに似てる。

空間の真っ直ぐ先に左への道があった。この先が出口と思い、後ろを気にしつつ急ぎ足で向かう。


 テーブルの左側を、散らかる物を踏んで転びそうになりながら歩く際・・・


 「(もう 歩きづらい─)─ん・・・・・・?」



  ──ガロロロ...   ガロロ....

        ガトンッ..


 けもの耳が、足音とは違う音を捉えた。

さっき聞こえたコインの音でもない。鉄棒を擦って引きずり、合間に打ち付ける音が聞こえる。


 急に気配が湧いた感じだ。姿は見えないけど、何かがこっちに向かってる。

マズい気しかしない


 なのに "イけない事" をわたしはすでにヤッていた。前を向くと、出口の先に妙な物が



   ・・・山積みのダンボール?


 さっき無かったのに、何故かある。

ロゴのない箱に小さな穴がわたしに向いて1つ。中から見られてるような


  心の底から近づいちゃダメだと感じる


  

 こうなった原因はすぐ分かった、鉄棒の音がした時に後ろを向いたから。出口が別の何かで塞がってしまった


 

  ──ガロロ.... ガロロロ....

      ガトンッ  ガトンッ.... 



   「あっ...... あぅ......」


 情けない声を出し、恐怖で震えてへたり込むわたし。挟まれた感覚にどうすればいいか分からなくなっていた


 ・・・さっき2階から感じた気配だ。恥ずかしいけどおもらししそう。神さま助けて たすけて



   だけど・・・


 神さまなんて居ないのよね。

 でも見捨てられてはいなかったみたい。



 『おねしゃん、こっちだよっ・・・・・・』


 舌っ足らずな声が微かに聞こえた。子供が出す温かいような・・・でも "こっち" が分からなくて思わず見回すも、前や後ろからでは無い。


 ちなみに一瞬おねしょと聞き違えた。

"お姉ちゃん" と呼んでる。見回すうちにすぐ右側の冷蔵庫から変な違和感が


    ──ん!?



 下側の小さく開いた扉の先、何かと目が合った……最初は見間違いと思ったけど確かに合った。


 驚くことに、それは小さな手を上下に

"おいでおいで" している。空間の青で顔が分からないけど姿は…けものの耳がないヒトに見えた。

 段ボールでの嫌な雰囲気はない



『こっちならだいじょぶ、早く......』


 やっぱりさっきの声だ。「おいでおいで」が優し気で何か楽な気分になる。他人のマッサージって、見ててもぽわーんってならない?

それに似た感じ。


感覚が麻痺してたのかもしれないけど



 ((何か取り合えず・・・入るわよ!?))


 少なくとも此処に居るのはヤバい。小声で断りを入れ、屈んで頭を突っ込む。この子が誰とか後のこととか、考える余裕はなかった。





  ┈┈

 ────ぱたん......

  ┈┈


  「はぁ... はぁっ......」


 まだ不安で息が上がる。内部ではわたしの右側で小さな姿が背を向け、お座りで扉の隙間から外を見ている。


 その子は向き直り、また声を掛けてきた。


『ふー おいしょ。もうだいじょぶだよ。

おねしゃん怖い?泣いてもイイから!我慢はダメだよっ』


 言葉にも思いやりのある子。内部も青い光で満ちて、でもやっと目が慣れて姿が見えた。


 女の子だ、舌っ足らずだし幼稚園児くらいかな。何故かフカフカのパジャマ姿をしてる。


 因みに菜々のお話に居た、サーバル顔のポシェットとヘアバンドをしたピンクの娘ではない。

他にも出会った娘が、いるらしいけど。


  だけどわたしは失礼をしてしまう



「とりあえず助かったわ・・・どうもね。

けどあんたは誰?まさか背中から来た幽霊で、今までのもあんたの仕業じゃないわよね!?」



 息も整い頭が働き出し、ここまでの状況へ怒りを覚えだす。そのイライラをあろうことか、匿ってくれたこの子へ当てつけてしまった。


  わたしって嫌なやつだ、本当に・・・。

 

 一方その子はわたしの言葉に戸惑ったのか、一瞬止まってハッとした様子で返してきた。


「おねしゃん、ちょびっと怖いよ・・・。

あと "なーちゃん" だよ、あんたぢゃないの。お化けでもないし後ろ?? 分かんない・・・」



 彼女は自分の事をなーちゃんと言った。

幽霊ではないそうだけど、この子も逃げ隠れてたのかな?



でも何か引っかかる・・・

けどそれはまず置いとく。


 あとわたしも彼女に何言ってるんだろう、今までの とか 背中 とか。急に言われてもワケ分からないわよ・・・。謝ろうと思った、その時



    ──バゴンッ!!


 冷蔵庫内に突然大きな音が。驚いて心臓と身体が跳ね、屈んだ格好のまま天面に頭をぶつけた・・・。



「ってて......これ 来たよう だわね・・・」


 階段を下りてきたヤツがどうやら上段を開閉してる。何か潜んでる可能性もあったけど、やっぱわたしは緊張すると感が鋭くなるみたい。



  『あっ おねしゃん──』

((こっち居て!さっきは悪かった。いい?

わたしがあんたを守ってあげる!! あ、後ろへ来ないでよ!))


 背中を壁につけ、小声で彼女に訴える。冷蔵庫の扉はわたしから見て右にあり、なーちゃんを左隣へ。つまり扉から遠ざけた。


 恩着せがましいけど、守ることが謝る代わりになればと思ったの。

彼女は何か言いかけてたけど気づけなかった。



 そういえば菜々も新人だった当初...

"キタキツネは私が守る!" と言ってくれたっけ。わたしが崖から落ちそうになったときだ、懐かしい。何でかそんなことを思いだす。


  「……よし」


 外の様子を見るため、首を右へ向けて隙間から覗く。・・・何もいない 



──とその瞬間 ブンッ と何かが前を掠めた!

驚いたけど声を殺し、屈んだまま扉から離れ退く



  ・・・下りてきたやつの足元だ!



 またこの冷蔵庫上段を開いたらしい。

ドクンドクンと自分の心臓の音が耳にも届くほど

 すごい怖かった。



 けどよく見ると靴履いた人の足だ。迷子のアナウンスで、菜々や従業員が探しに来たのかも? と少し期待した



 ・・・けどダメだった。

 下から覗くと ソレの姿は異様で。



 コック帽とエプロン姿。それは良いとして、体が風船みたく異様に膨らみ姿はボロボロ。姿は男性、かな一応は。

 何故か麻袋を被って顔は分からない。


 今更だけども──

 正体不明にはアレとかソレって呼ぶわ。



 覗いて来ようものなら、発情したように爪立てて暴れてやる! と一度扉を離れ、構える。ところが


  何故か急に涙があふれてきた・・・


 もう出られないかもって、急に思った。意外と心が折れかけてる、自分こんな弱くて泣き虫だとは


  『おねしゃん、怖いの⁇』

・・・? 意外にもアレは下段(こちら)を覗いてこない。気づいてないらしい。


 わたしも、気づけないでいた。

 なーちゃんの声が遠くなり始めてる



「(とりあえず助かった・・・?でも──」

『キツネのおねちゃん・・・・・・』



 一旦安堵するも、ジリ貧ってやつだ。

下りる時から防戦続きで焦れたか、情緒が不安定だったのかな。何故か "なめんな" って思い始める



泣き虫で見えっ張りなんだわたしは。改めて隙を見てどうかしてやろうと考え出す──けれど



   ──ドズッ ドスッ ドズッ

      ドチャッ...... ドチッ....


 何か気持ちの悪い音が聞こえ、ビクッとする。また音を出さずゆっくり外を見て、意識せず内心から言葉がでる


「( !? また何やってるのよアレ・・・・・・)」



 こっちに背を向け、狂ったようにナタみたいな物をテーブルへ叩きつけていた。上段から取り出した何かを叩いてる・・・のかな


  肉の塊に見えるけどよく分からない。

  分かりたくもないけど。


 やっぱ怖くて変な汗が出てくる。

 でもやはりこちらを探す様子ではない。


  『キツネのおねちゃんー......』

 どうしたものか、このままだと帰れない。いつこっちに手が伸びるかも分からない。むしろそこを狙ってヤろうと思いつつ


  ......ここである事を思いつく



  背中を向けるとどうなるんだろ。

   ・・・アレに対して


 さっきも言ったけど、此処は何故かわたしの背中を向けた先が別の何かになる。

何処かへとアレを飛ばせるかも。


・・・だけど何が起こるか分からない。でもそうしないとこのまま抜けられないし、この子も──


『..ぇってば キツネのおねちゃんっ!!』

   ┈──!!?



 オコジョのクリスマス勉強会の時より必死に考えてると、なーちゃんの強い声がした。

何度呼んでも反応なかったとの事。

呼ばれてまた頭ぶつけそうになったけど


 ・・・何かに引き込まれてた?

途中、外のアレから目を離せなくなっていた気がする。気づけなかったら・・・ヤバかったのかも。


  ただ、彼女に対しても妙に思った



 この状況なーちゃんが全く怯えてない。わたしに無視されたという感情が強いようで、思いっきりむくれている。思わず聞き返す──


 ((・・・あんたこの状況、怖くないの!? ))


『もー あんたぢゃなくてなーちゃんっ!

あのおぢさん(?) どーしてか分かんないけど、しゃがめないの。だからだいじょぶっ』


 わたしの質問にこの子は堂々と答えた。



    ──ドズッ 

        ドチャッ......


 ペースは落ちてるけど、まだ振り下ろしている。しゃがめないって事は、こちらへは手が伸びてこないのか。足は分からないけど。


 『ほら、どうー?だいじょぶでしょ』


    まぁ確かに。


 すると少し安心したわたしの興味は外のアレから、また左隣の なーちゃんへと移っていく。


 ・・・この子、幼いから怖さに疎いのか?

外へ出ない辺り、危ないのは分かってるようだけど  ......何か違う気がする。


 今わたしは "冴えてるモード" のようで、ある心当たりが浮かんだ。 もしかして──



 なーちゃんは "座敷わらし" なのでは?

それも自覚してないタイプの。前に本で読んだ話だけど、幸運を運ぶ・・・幽霊なんだって。



 わたしを助けてくれて、お化けではないと言ったけど・・・冷蔵庫にいるのがかなりおかしい、空間も含めて。彼女はフレンズでもない。


 と言うか今更だけど、ここ寒くない。

むしろぽっかぽかに暖かい。わたしが幽霊になった可能性も──


  とは考えなかった。頭おかしくなるから


『ねぇーキツネのおねちゃん。さっきおぢさん(?)に背中を向けるとか言ってたけどー──』


 考え事にも構わず、なーちゃんは話掛ける。そういえばまだ背中の事を伝えてなかったけど、独り言を聞かれてたらしい



 ここでやっと背後やここまでの事を説明した。『ふーん 面白いー!!』と返すなーちゃん。

 信じてるのかそうじゃないんだか・・・。

 わたしが信じられてないし仕方ないけど。


 ただ実を言うと、なーちゃんに呼ばれた時にもうアレに背中を向けていた。


 だけど・・・何でか全然変わってない。何度やっても変わらない。思えば彼女を左隣へ移した時に背を預けた壁、あの時も変化なかったようだし。


 また扉から様子を見ると、アレもテーブルの向こうから "多分" こちらを見てた。

麻袋を被っていて分からないけど多分。


  ┈┈待ち構えられてる感じだ。


   思わず言葉こぼす......


「正直かなり困った・・・さっきも言ったけど、わたしの背中をアレに向けてどうにかしたかったのよ。でもあれじゃ出られないし帰れない・・・」


 だけどもなーちゃんは変わらず平気そうにしてた。状況を理解してるのか不安だったけど・・・


『だいじょぶだってば、帰れるよ。

さっきからそれを教えたかったの。でもその前に・・・なーちゃんのお願い聞いて欲しいんだ──』



  彼女の雰囲気、何か変わった気がする。


 変な気を察し屈んだまま身構える。

けども、なーちゃんの次の言葉は何だか・・・切なさを感じるものだった



『やさしいキツネのおねちゃん。

なーちゃんの、最初の "おももだち" になって欲しい。今日まですごく、さびしかったんだ・・・。』



 わたしの守ってあげる行動が嬉しかったのか、舌っ足らずに "お友達" の誘いをしてくれた。

 ・・・けども



 わたしが切なく思ったのは、彼女が寂しがってることに対して・・・ではない。



 なーちゃんは自覚のない座敷わらし。

つまり、自分が死んだことに気づいてない幽霊と言うことになる。


 この子が何でこうなのかは分からない。多分ずっとここに居て、本人もきっと分かっていない。寂しい理由もきっと分かってない。

それでわたしを初めのお友達に選んでくれて・・・


  分からないのが切なくて仕方ない。


 今この事は本人に言えないけど、何度目だろう。また泣きそうだ、わたし



   続く

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