[オオセンザンコウ] 後ろ姿が見えるトンネル ─前編─ <中>

 






 初めまして、ここまでお疲れ様です。

 それか、ご無沙汰してた・・・ですかね。


 オオセンザンコウと申します。"セン" でいいですよ、堅苦しいのはナシにしましょう。普段は何でも屋を──いや、お話の中で説明しますか。


 私らの話を聞く時は、背景色を黒にすれば雰囲気が出るかもしれないです。



 トンネル、分かりますよね?

山を突き抜けて通るときの道。さて・・・これは私、いや私たちが巻き込まれてしまったお話。


 断っておきますが、怖い話を作れるほど柔らかい頭はしておりませんので私。

 ・・・何処かの誰かさんみたく。



 信じる信じないはあなた次第ですがね・・・。


   ┈┈┈


 ・・・これはある友人の依頼を完了し、新たな依頼主と出会った際のお話。


 日が高く昇る天気の良い昼。

周囲にはドーム状の住居が複数あるが、どうも依頼主の他にフレンズはいない様子。


 先の "ちほー" へ向かうか、それとも引き返して再度探索するか。パートナーと相談していました。


 先ほども少し言いましたが私たち・・・


   "ダブルスフィア"


 という名前で、何でも屋を私とパートナー2人でやっています。

 文字通り任されれば何事も一通りこなすお仕事。

 今回は依頼人の "ご主人(ヒト)" を探す任務


 ──タッタッタッ......



 パートナーが帰ってきたようで。



「センちゃーん、この先は深い森があった。誰か通った様子もないし行きたくない~。やっぱ戻るべきだよ!」



 ウロコの帽子と腕にプロテクター、オレンジのベストとネクタイ、黄色いスカートの毛皮と言う恰好をした娘。私も少し似た格好をしてますよ。


 彼女の名は "オオアルマジロ" 。

 愛称は──


  ・・・


「・・・・・・アルマーさんがそう言うなら仕方ない、引き返しましょう。今までの道のりで考えても、その方が情報を集めやすいはず。」


「むぁっは♪ そうだね嬉しいな~!」



 パートナーが喜んでいる。

と言うのも、して欲しい呼び方をするよう指示されたからです。ある理由で・・・。

 しかも "さん" づけ、アルマジロ...もとい有るまじきことに。



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 私達はパートナー同士、お互い上下関係はありません。その名目に則り、意見が割れたら何か勝負をして勝った方の考えに従うよう、決めていたんです。


 どんな勝負かはその時によります。

今回は第三者が適当に本をめくり、そのページに近い数字を予想すると言うもの。ここでの第三者は、依頼者のこと。


 ・・・してこの本 ふふ、全く。

私を主役にしたお話って言うね・・・。

 

 因みに私ら100までの数字なら分かります、何でも屋をやってるので。


 ──結果から言うと私が負けました。


 後ろで依頼主がページをめくり・・・


 私は "43"

 ォ..アルマーさんは "71" と予想。


 依頼主は "68ページ" をめくってました。

で、アルマーさんの指示のもと先へ向かうか戻るか決める。

ついでに愛称の呼び方まで注文、一日限りだけど。



 私が本来呼ぶ愛称は "オルマー" 。

彼女には山ほど借りがあるから、仕方ないか・・・ふふ。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



──「センさん、何かすみません・・・」


 こちらはイエイヌ、依頼主のフレンズ。

頭を下げてますが、正直特に不都合はない。


「いえ、では一度私たちは道を戻って探索しますので。

 仮にですが、要望の人物が引き返してくる可能性もある。貴方もまた探索者ですよ。」



「こっちでも見つけたら、きみの言うご主人は絶対連れてくるから!報酬用意しておいてね~」


 抜かりないアルマーさんだこと。

現金に思うかもしれませんが、こちらもタダ働きはしたくないので。


 


「──夕方..繋が..ある..気をつけ..ぇ~」



 イエイヌが見送る際に遠くで叫んでいた。

 ・・・よく聞こえなかったですが。



 ─

 ──


「戻ったら "ヒト" に関する聞き込みだね~」


 ──もぐもぐ...


「ですね、鼻が良ければとつくづく思いますこういう時。」


 アルマーさんと、ジャパリまんを食べながら話をしつつ歩く。

 ある程度整備された平地を私が左、アルマーさんは右。一度歩いた道は何だか安心感があります。


 道中聞き込みをと思ったけど、意外にも他にフレンズは見当たらず。

 歩くうち辺りも薄暗く、夕方になっていた。




  ──ん?



 オレンジに染まった前方に、一度降りた山を見つけた。

 けど、こんなのありましたっけ。


  ・・・トンネル?


「来た時こんなのあったけか?」



 アルマーさんも疑問そうだ。

見るとトンネルは、その山を突き抜け石造り。

天井は丸くなっている作りで、私二人分くらいの高さ。

 灯りはないけど、4人ほど横1列で歩けるくらいの広さがある。

 通路は長く、左に少しカーブしているようで向こうに出口なのか外の光が点で見える。



「前と違う道歩いちゃったのかな・・・?でも山を越えるより此処を歩いた方がすぐ着くね、行こうセンちゃん!」




 ──正直、私は少し寒気を感じていた。

 確かに歩いたことがある道だったはず。


 あと何て言うんだろう・・・。

先の出口に変な違和感を感じたんです、こっちと雰囲気が違うような。

 けども、先に決めた方針のことと依頼を早めに解決したいと考え・・・


「いいでしょう。日も暮れてます、暗くならないうちに行きますよ。」


 ──

 ───



 こうして歩くことになったトンネル。

入ってみると、ひんやりしていて暗くて。

 ジャパリまんのクズなども落ちてますね・・・綺麗とは言えない。



 ──ピション... スタ...スタ......

    ──ピチョン...  スタスタ...



 トンネル内は水滴が、足音もよく響く。

後ろの外光がないととても不気味に感じる。



「・・・ちょっとくっついて歩こうか、アツアツ♪

分かる?分かるかな~この気持ち!」


 

 肌寒い・・・気が。アルマーさんも少し怖がってる様子。



 ──だけど、確信に変わる。


 中盤くらいに差し掛かった時でしょうか。

 後ろからの光が見えなくなった瞬間、




   ──ズキィッ!!



 「う゛っ..ぶ!?」




 頭のてっぺんを針山で刺されたような激痛・・・

突然の痛みに意識さえ飛びかけた。

 倒れそうだったけど、何とか右脚を前に出してこらえ・・・吐き気もするけど、これも耐えた。


  ──ハァ...ぁ...ハァ......



「セン、ちゃん? ・・・!どうしたの!?」



 アルマーさんも私の様子を見てうろたえる。

続く痛みではなかった。だらしなくよだれを垂らしつつも、心配かけたくない一心で

「大丈夫です・・・!」

と伝えるけど・・・深刻に見えたのでしょう。


 アルマーさん、青ざめていた。

トンネルの暗闇でも分かっちゃうくらいに。普段冷静でいる私が思い切り体制を崩したのもあるんでしょう・・・。



「!あっ・・・向こうにフレンズがいるみたい!休めそうなところを聞いてくる、センちゃんはここで大人しく待ってて!」




 前を見ると、出口近くに二人組のフレンズがいた。あちらをむいている、ようだが・・・?


「ちょっ・・・こんな所で一人に──」 


 

 "一人にしないで" と言おうとしたとき、



 ─スタ スタッ...

  ─スタ スタッ...

  ─スタ スタッ...



  ──・・・あれ?

 2つ気づいた、おかしなこと。



 アルマーさんの足音が妙に響く。重なって・・・?

 後ろからも聞こえる・・・気配も?

 

 でも何だろう──



 絶対に振り向いてはいけない気がした。



 それに出口の距離が入る前と殆ど・・・?

真ん中くらいまで歩いたのに、まだ遠い。



 もう1つあった、おかしなこと。

 向こうの二人、よく見ると──



 2人とも "トゲトゲした帽子"

 片方は"イガイガした尻尾"



 という恰好・・・何だか見覚えがあるような。

けど会ったことあるとかではない、むしろ自分。もう片方に至っては普段から身近で見て──。



  ──悪寒がする!!



「オルマー、ダメ!戻りなさい!!!」



 暗い中、左カーブでオルマーが見失う前に叫ぶ。焦って本来の呼び方をしつつも、絶叫みたいな声を響かせ。



 けど、私にまだ足りない部分があった。




  "振り向かず" を付けず叫んでしまった。

 アルマーさんは左回りでこちらへ・・・



  ──顔半分振り向いていた。



 瞬間、彼女が "ビクッ" とした。

 私の方は見ていない・・・みたい。



 かと思うと、何故か右目を両手で覆いつつこちらにものすごい速さで戻り・・・ !?


 ──左目が異常に血走っている!




  ──ボフッ!! 「ぐぅっ!?」



 どういう訳か胸元に顔を突っ込ませてきた!

私もたまらず変な声を上げてしまう。オルマーの様子が・・・?



「...大変だセン...ちゃん。ごめんね、私間違え...ちゃったみたいだ。ごめんねごめんね......」



 突然アルマーさんが埋めつつ何度も謝りだした。やはり後ろに何かが・・・?


「アルマーさん一体なに──」


 意を決して確認しようと身体を右に捩る。

 後ろを──



「ぅひろダメぇぇェェェェ!!!!」



  ──!!!

 

 首を右に捻り石壁から目が反れる瞬間、腹にも響く彼女の絶叫。

後ろを向くな!?それに舌も回っていない・・・!?


 アルマーさんの状況も気になるけど、今度は前方に目を戻す・・・。



 ・・・! 何と出口付近にいる二人組も、片方がもう片方に顔をうずめて居る格好。



「・・・これ、もしかして──」・・・!!



 ──バサッ!



 突如、目の前が完全に見えなくなる。

目元に分厚い布の感覚、目隠しをされ・・・?

 いや、この触りは彼女のネクタイだ。



「ァ゛ぁ...センちゃん... "分かっちゃった" ?

後ろを見たときね、その後ろにもセンちゃんがいて、隣に私も・・・それで...分かったんだ...」



 意味が分からない。

・・・いや、分かってしまった。


 前方の二人組、動きや恰好が似ている。・・・もう一人の私たち?


 つまり、



  "会ってはならない別の自分"



 本で見た・・・ドッペルゲンガー。

しかもオルマーの言葉から、後ろにもいる。


 幸い、私がオルマーを呼びつけた時は彼女の事しか見てなかったからよかったけど・・・。別の自分と分かりアレらを見るとアウト。

 彼女は、 "分かってしまった" 時にソレを見たからおかしくなっているんだ。

 要するに、えっと、アルマーさんを振り向かせた私にも非がある......!!



 まぁ・・・もう私もダメでしょう。



  「ゔぅっ!?ぃ......あ、あ...」


  ──!?

私の右わき腹、つまりアルマーさんの左目辺りから暖かい液体の感覚が。


「アルマーさん・・・?」


「ぅぃ..くぁ..わらひは大丈夫..センちゃんの..ネクタイ、借りるね。

 それと、もう "アルマーさん" はいいよ..ごめんね、ごめんね...」


 左回りで振り向き、まず姿を見た左目に何かが・・・?目隠しをしていて見えないし......分かりたくもないっ!!



 ──シュルシュル... 

      スルスル...



 一度顔を放し、私のネクタイを解いて目に結んでいる・・・ようだ。

 後ろが見えないよう、私が壁にならないといけない。




 ・・・

 ・・・・・・?



「ぅぅッ・・・!ぅぶっ...ぐぅ!!

  ──ぶぇへッ、げぇッ!!!」



  ──バタッ...ボタタ...!! タタ..タ...

 ──ボタタッ..タタッ...



「・・・!アルマーさん!?な、大丈夫ですか!?」


 苦しそうな声と、何かが落ちる音。

目隠しで感覚が冴えるからか、嫌な予感も冴えてしまう・・・!

 確認しようと目を解こうとするが・・・



  ──バッ!


 下から目元を抑えられた、座り込んでいる?

 私の顔左側に太い指の感覚、彼女の左手・・・?



「ぺへ..ぅ大丈夫だって..ば、..呼び方も..戻していいのに..」



 一つ思った。

彼女はさっきから謝っているけど、実際は振り向かせた私のせいだ。

 ならせめて彼女だけは、元の場所へ帰らせないといけない。こんな時だけど改めて思い出したことがある。


 "行動で以て示す" ・・・!

それとある種、私も意地になってしまった。



「・・・今日一日は絶対アルマーさんと呼び、絶対ここを抜けます。

そして明日から呼び方を戻します、絶対!!」



 この先に進んでもダメだ、きっと。



  ──ぎゅっ......!


 目隠しをし直し、きびすを返しつつ私が前に立ち彼女の手を掴み引く。



「はぁぁ...ぅ..セ、センちゃ..ん?」



 ──元に引き返してやりますよ・・・!

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