おもしろい家具

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おもしろい椅子

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 おもしろい椅子が手に入ったから見に来いと松村からメールが届き、俺はいそいそと出かけた。

 一時間も経たずに着いたのだが、部屋のドアを叩いても全く返事がない。電話をかけると松村は出た。

「今、お前の部屋の前にいるんだが」

「いや悪い悪い。例の椅子にうっかり座ったらそのまま窓から飛び出してしまってね」

 松村は、あははははとのんきに笑う。

「じゃあ、戻ったら連絡してくれ。無事を祈る」

 椅子ごと俺の部屋まで来ると言い出されないうちに、俺は電話を切った。





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おもしろい箪笥

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 おもしろい箪笥が手に入ったから見に来いと松村から電話がかかってきて、俺はいそいそと出かけた。

 松村はうれしそうに俺を出迎えた。部屋にあがると、やけに立派な桐箪笥が壁際に置かれていた。一見して年代物だ。さして広くもないこの部屋には似合わないこと甚だしい。

「場違いだなぁ。何でまたこんな物を?」

「まあ聞いてくれ。先だって骨董屋でな」

 松村はこの箪笥を手に入れたいきさつから、箪笥の来歴、どこがどうおもしろいのかを一気にまくしたてた。

 話を聞き終え、俺は思わず松村を指差す。

「それで、お前そんな派手なシャツを着てるのか!」

 まるで振袖のような柄だ。松村にしては珍しいと思っていたのだが、この箪笥が原因だったのか。引き出しを開けて見ると、数少ない松村の服が全部派手な柄に変わっている。

「どうだ、いいだろう」

 松村は自慢げに言う。しかし俺は首を振った。

「俺の趣味じゃないから全くうらやましくはない」

 そう断言してやる。俺がうらやましがったら箪笥を押し付ける気だったに違いない。松村は泣きそうな顔になった。





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おもしろい炬燵

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 おもしろい炬燵が手に入ったから見に来いと松村からハガキが届き、俺はいそいそと出かけた。手土産に蜜柑を買おうとしたがまだ売っていなかった。

 松村はうれしそうに俺を出迎えた。部屋にあがると、大きな炬燵が真ん中に置かれていた。ふんわりと柔らかそうな布団も掛けられている。

「ほう、これはこれは」

「お、わかるか」

 松村はにやりと笑う。俺もにやりと笑い、うなずく。

「まだ秋なのに、もう根付いているじゃないか」

 俺は炬燵に手をかけ、軽く揺らす。びくともしない。早速足をつっこむと何とも言えない幸せな気持ちになった。

「この調子だと、春も夏もこのままなんじゃないのか?」

「それがな、実は、先だって骨董屋で」

 松村は語り始める。俺は蜜柑の代わりに買った柿を炬燵の上に並べた。秋の夜は長い。



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2010年10月 発行「東京グルタミン」

テーマ「家具」

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