アップル
目が覚めると知らない部屋にいた。黒い天井。シルバーに光る床。丸みのある色とりどりの家具が雑然と置かれている。壁紙は海の写真。ずいぶんと落ち着かない部屋だった。
私は寝ていたベッドから降りる。冷たい床を歩くと、裸足の足跡がくっきりと残った。
ベッドの反対側の壁にドアがあった。赤と青と黄色と緑、きっちり四色に塗り分けられている。私はそれをそっと開く。
「あら。目が覚めた?」
隣の部屋には知らない女の人がいた。こちらの部屋は天井も床も壁も白い。家具は何もなかった。
「だれ?」
笑顔で近寄ってくる女の人に私はそう尋ねる。眠る前のことが全く思い出せない。さっきのカラフルな部屋が私の部屋なのだろうか。
「私はあなたのお母さんよ」
そう言って私の頭をなでる女の人から不思議な香りがした。知っている香りだ。でも思い出せない。
私のお母さんはこんな人だっただろうか。
「いいのよ、ゆっくり思い出せば」
お母さんは私を抱きしめる。お母さんの香りが私を包み込む。
「あ」
私は小さく声をあげる。
この香り。思い出した。新しいコンピューターと同じ匂いだ。
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2011年2月 発行「東京グルタミン」
テーマ「香り」
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