綺麗に咲いてみせましょう

鳥ヰヤキ

綺麗に咲いてみせましょう

 只の水だったものが、薬缶にかけられてふつふつと沸き立ち、やがて焼けた豆を浸して黒い滴をポタポタと零した。貴方は朝食の用意の傍ら、頭を垂れて黙していた私の前に、コップに一杯の水を差し出して微笑む。

「綺麗に咲いてくれよ」

 そうして私の頭に、胸に、滴が跳ね回る。柔らかな土の寝床を通して、爪先にまで浸透する。私は微かに頭を上げる。朝陽よりも何よりも、貴方の笑顔が私の光。けれど、貴方はもう私を見ていない。

 私は貴方の生活風景の一部。けれど私は貴方を見ています。じっと、貴方の言葉を魂に刻みます。

 綺麗に咲いてみせましょう。貴方の目に焼きつくように。貴方の今際の時にさえ、思い出してもらえるように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

綺麗に咲いてみせましょう 鳥ヰヤキ @toriy_yaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ