第13話 元引きこもりは武器を持つ
「雪、ふわふわしててひんやりしてて、楽しかったなぁ〜」
「私は正直、寒くて怖いだけのあそこにはもう行きたくないわ」
「あーうさぎ! 可愛いなぁ〜」
私はあの寒いだけの階層でうさぎを見つけた。真っ白で雪のように美しい。
抱きかかえようとすると、
「だめっ」
って言って私を止めようとするの。
抱くのがだめなら私はその子を撫でようとした。
「だめっ」
胡桃ちゃん……なんでだめなの……せめて理由を……。
「……んっ」
胡桃ちゃんはいきなりそのうさぎを自らの手刀で刺し殺した。
ブシュッ! という鈍い音とともに、胡桃ちゃんの手がうさぎの体を貫通した。血で紅く染まるうさぎの体。その血は地面へとつたり、足元の雪を紅く染め上げた。ピクピクと動き、必死に生きようとしていたうさぎだったが、なすすべもなく絶命した。
「酷い、私に殺意を向けたわけじゃないのに……」
私の頬を涙がつたって落ちる。
ひどすぎるよ……。
「……違うの……茉莉を殺そうとしてたから……」
手を向きながら胡桃ちゃんが言う。刺していた手は、低温火傷をしているようだ……。
――ん? 低温火傷!?
どうして……?
……もしかして……あのうさぎ……本当に私を……。
「ね、ねえ胡桃ちゃん……わ、私、なんだか体が震えてきちゃったんだけどなんでかなぁ……」
「雪姫は寒くないよ―?茉莉、温めてあげようか?」
「胡桃ちゃん、あのうさぎ……本当に私を殺そうとしてたのね……助けてくれてありがとう」
「……ん、茉莉が死ななくてよかった」
人から体温を奪うさぎって怖いよ……可愛い見た目で近寄ってきて、抱いたらアウト。撫でてもアウト。恐ろしすぎるわ……。魔物でさえも智慧を持ってるこの世界本当に何なの?トラウマになりそう……イヤもうなってるかもしれないんだけどさ。
――とまぁこんな感じのことがあったわけ。
思い出すだけで震えてきたよ……。
そんな私達がやってきたのは何もない空間。
階段を下りたらここに出たんだけど、何をすればいいんだろう。とりあえず階段を探して歩いて見たんだけど何も無かった。
あったことといえば魔人に襲われたことくらい。
全部私が撃退したんだけどね。
【
これは【機械殲滅】と同じで、魔人への与えるダメージが増えるスキルね。
それから更に半日ほど経つと、 ガシャンッ!! っていう音がして私は次の階層に落とされた。
「いったぁ……っ」
正直言ってこの階層はなんで作られたのかとずっと疑問だった。
考えても仕方ないんだけどね。
この世界は楽でいいなぁ……いつか始まる(かもしれない)戦争は怖いけど、その怖さ分の面白さがある。
家に帰りたい気持ちは揺らぎはしないけど。
帰れるようになったら誰を連れて帰ろうかな……せめてモントと雪姫と胡桃ちゃんは連れて帰りたい。
今はそんなことを考えても仕方がない。
楽しいことを考えよう。
私は落とされた階層を見回して思う。「うへぇ……」と。
この階層は、暗闇に包まれていて、音が何も聞こえない。不気味なほどに静かだった。
幸い、雪姫と胡桃ちゃんが明かりを作ることはできるのでなんとか進めそうだ。
ちょっとここで休憩したい。やってみたいこともあるし。
「ねぇ雪姫、胡桃ちゃん、ちょっと休憩しない?」
「うん、いいよ、茉莉!」
「……ん……わかった」
「ありがとう」
さてこれで試したいことが試せる。
私は武器がない。短剣しか。でもそれももう使っていない。
ということで、【錬成】と【鍛冶師】を使って、私の武器を作ろうと思う。
剣がほしいんだよね。刀でもいいんだけど。うーーーん……どんなやつがいいかな……。
とりあえず色から。
これはすぐに思い浮かんだ。
水色だ。薄く発光するように作っていく。
色を決めると形も想像できた。
少し細めで振り回しやすく作っておく。
「……んっ」
これでよし。刀身が出来上がった。
次は柄の部分。
これは握りやすければ問題なし。
そして私は最後の作業に入る。
「雪姫、胡桃ちゃん、ちょっと手伝って」
「いいよ!」「……ん、わかった」
「この剣にね、私のユニークスキルを移し替えてほしいの」
私は、自信の所持しているユニークスキルを入れ替えることを思いついた。
これを試したかった。
「おっけー、やるよ、胡桃!」
「まかせて……茉莉」
二つ返事で承諾してくれた。
二人の中には中級精霊が憑依している。中級精霊ならこれは可能ではないのかと考え、聞いてみたが正解だったようだ。
「移し替えてほしいのは【
「それくらいなら簡単だよ、やるよ胡桃!」
「りょーかいっ」
そう言って胡桃ちゃんは剣に手を触れさせ何かの詠唱を始める。
やがて私の胸に、そして剣の刃に、魔法陣が浮かび上がる。
雪姫は働かないのね……。まあいいんだけど。
そう思い雪姫を見ると、雪姫は胡桃ちゃんに魔力を流し込んでいた。
「働いてたんだ……」
「茉莉、今失礼なこと考えてなかった?」
雪姫さん怖いっす!!ごめんなさい何も思ってませんから!!ほんのちょっとしか!!!
「まぁいいけど〜」
そして胡桃ちゃんの詠唱が終わった。
いつの間にか私の胸から魔法陣が消えていた。
剣の魔法陣も消えているのかと言うとそうではなく、刃の部分に残っていた。
「……ふぅ〜」「……はぁ」
「ありがとう、二人とも」
これで剣が完成した。なんだかあれに似てる……日本にいたときに見てたあのライトノベルの……何だっけ。
まぁいいや。
剣の名前を決めてあげなきゃね。
水色……花……
紫陽花は好きだしいっか。
私の誕生日は6月なんだけど、毎年綺麗な紫陽花が見れるんだよね。
ということで銘は『
これからどんどん活躍してもらいたいね。
次は杖。
魔力の流れが良くて、運びやすいのが理想かな。
10分後。
できた。魔力の流れは想定してたのよりちょっと悪いけど、形も重量もいい感じ。先端に魔法石をはめ込んである。この魔法石で魔力の流れをコントロールできるんだ。
移し替えたいスキルは【
雪姫と胡桃ちゃんを呼んでまた手伝ってもらう。
先ほどと同じように私に魔法陣が浮かび上がる。
当然だが杖にも魔法陣が浮かび上がっている。
やがて魔法陣が消えた。
「ありがとう」
「どういたしましてー!」「……ん」
朱色の魔法石が先程よりも輝いているように見える。
名前が浮かんでくる。
「『夕焼け』」
この杖の名前は『夕焼け』。よろしくね。
紫陽花は雪姫に普段から預けておく。雪姫なら筋力も有るし、紫陽花みたいな大剣でも軽々と振り回せそうで怖いけどね。
「よーっし、休憩終わろっか!」
「探検探検!!」「……ワクワクする」
夕焼けを構えて私達は次の階層へと進んでいった――。
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ユニークスキル:【
ノーマルスキル:【
夕焼け(杖):【
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