第11話 中級精霊は歩き続ける

 わたし、中級精霊のモントはトラップを確かめようとして、転移トラップに巻き込まれてしまった。

 茉莉まつりを残して……。あの子は【罠解除トラップキャンセル】のユニークスキルを持っていたはずだから、わたしが転移したあと、間違いなく気づいたはずだ。

 そしてきっとあの場所で待っていてくれるはず……いや、それはないでしょう。だって茉莉ですからね。ろくにコミュニケーションも取れない、弱音ばっかり吐いて何かにすがりついて、過去から逃げて生きている茉莉ですから。わたしは何百年の間人間を見てきていたと思ってるんでしょうか。だから絶対にわたしを探すはずだ。

 なんで茉莉のことをそんなに考えてるのかって疑問ですか?答えを聞いても納得しないと思いますけど……まぁいいでしょう。


『茉莉という人間が面白いから』


 これでいいですか? え、それだけ? みたいな顔されても困ります、やめてください。


 茉莉のことはとりあえず置いておきましょう。あの子はわたしがいないと攻略は無理かもしれないですけれど、最低でも生きることはできるはずですから。


 さて、そんなことを考えていたわたしですが、流石にわたしにも余裕があるわけではありません。

 わたしは精霊。攻撃手段が無いんですから。中級魔人に囲まれてしまったら流石に太刀打ちできません。まぁ精霊は人間と違い、死んでしまってもしばらくすれば、死んでしまった場所に戻ってこれるんですけどね。中級精霊としてまた戻ってこれるかは別ですけれど……。


 そんなことを考えている間にわたしはたくさんの魔人族に囲まれてしまっていた。すでに何人かは詠唱を始めている。

 なぜ精霊であるわたしを魔人族の方々は殺そうとするのでしょう。『理解に苦しむ』、という茉莉に教えてもらった言葉が使えそうですね。

 

 詠唱を終えた魔人族の魔法がわたしに飛んでくる。

 全くどうして後も血の気が多いのでしょう……わたしが何をしたというのですか。

 覚えているうちには、300年ほど前の英雄さんと一緒に、魔人族の方々の領地を襲って奪ったことくらいですけれど……。

 しかしあのときわたしは上級精霊だったはず。なぜ現中級精霊のわたしが……? まぁ魔人族の方々にとっては些細なことなんでしょう。下手すると精霊を根絶やしにすればいいなんて思ってらっしゃる脳筋思考の幹部が居るのかもしれませんし……。あ、ちなみに精霊は絶対に絶滅しません。誰かが死ぬと、新たな精霊が生まれるからです。精霊は殺してはいけません。増えてしまいます。


 とにかく、わたしに明確な殺意を向けたことに違いはありません。

 攻撃手段が少ないことで有名な中級精霊わたしたちですが、無いわけじゃないんですよ?


「――火の精霊、風の精霊、破壊の精霊たちよ、我に全てを飲み込む力を与えよ――」


 本当に詠唱なのかってくらい簡単。初級魔法なんですから。

 私が使えば中級並の威力が出るんですけどね……。

 手加減しておきますか……。


「『爆炎・一式』」


わたしの声が迷宮ダンジョンに冷たく響く。


 魔人族の魔法はわたしに届く前に爆炎に呑まれ、その魔力を取り込み私の爆炎・一式が巨大化する。


 かっこよく言ってるけれどこの魔法はただの爆発とほとんど変わらない。ただの爆発と違う点を上げるなら、それは炎の量だと思う。

 この魔法をわたしが使うと、鉄すらも焼き溶かすほどの高威力、高熱になる。


 そしてわたしの魔法が魔人族に到達した。 


 まさか中級精霊が攻撃に出るとは思わなかったのでしょう。

 魔人族が悲鳴を上げることすら許されずに灰となっていく。

 何人か防御結界を張って爆炎をしのごうとしたようですが無駄な抵抗です。魔力を取り込むのを見てもなお魔力で対抗しようとする。

 これを愚行と呼ばずして何を愚行と言うのでしょう。


 魔人たちが魔力となり消滅していく。

 

「過剰防衛だったかもしれませんね……」


 攻撃に移るまでが早すぎた。

 そんなことを思っても後の祭り? 後悔先に立たず? 

 どちらが適しているんでしたっけ……。


 わたしは周囲の魔力を揺らし、低級精霊と接触を試みる。


「少しだけお時間をいただけないでしょうか」


 わたしの今居る場所、茉莉の場所などを聞いてみた。

 わたしの居る場所は最下層の少し上。転移してこなかったらもっと上だったと精霊たちは教えてくれた。

 

 次に茉莉の居場所。

 茉莉はわたしよりも上の階層に居るとのこと。

 転移していないのだから当たり前だと判断を下す。

 待っていれば来るだろうと思ったわたしだったが、特にすることもないので探しに行くことにした。

 

 「ありがとうございます」


 精霊たちに礼を述べておく。


 そして上の階層への道を探してわたしは歩き出す――。


 

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