第6話 元引きこもりは迷子になる
何ここ……怖すぎるんですけど……。
私、
なんではぐれちゃったの私……迷子になりそうなのは誰の目にも明らかだったのに……どうして一人で行動しようと思ったの? どうして休憩時間に枯渇再生なんて馬鹿なことしたの? 馬鹿なの? 死ぬの? あはははは。
「……はぁ」
思わずため息が漏れてしまう。自分のせいなのに。
現在の持ち物は、
リュック、携帯食料約10日分、短剣(普通のやつ)、水晶(なんで持ってきたとかそういう質問は受け付けてないからね。想像におまかせするよ)である。
――詰んだ?
「うぅ……どうしよう」
ちなみに明かりは無い。精霊さん……私を導いて……。
私に魔法が使えれば…… はぁ。
悩んでても仕方がない。
とにかくここから脱出しなきゃ。
早くも滅茶苦茶になり始めた思考を無理やり断ち切り、私は出口を探して必死で歩き回った。
「……家に帰りたい」
私の言葉は誰の耳にも届くことはなく、迷宮の闇に吸い込まれるように消えていった――。
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遡ること約5時間前。
私は迷宮に実技の授業受けに来ていた。
「――攻撃手段が欲しい」
心から私はそう思った。
攻撃手段はあるにはあるんだけど(短剣がね)、勝てるわけ無いじゃん?
日頃からトレーニングしてるって言っても魔力と体力の枯渇再生ループだけだし、体が強いってわけじゃないのよね……。
いざとなったら無駄に鍛えた逃げ足や【
でもまぁみんながいるし大丈夫だよね。信用はしてないけど。
「どうしたの、三雲さん、深刻そうな顔して」
おっ、アランじゃん、久しぶり(※毎日教室で会っています)。
「……いやーほら、私ってさ、攻撃手段がないわけじゃん? もし一人になっちゃったらどうしようかな―って思ってね……」
「大丈夫、三雲さんは僕の後ろに居て。僕が守るから」
そんなので私が惚れるわけ無いでしょう? と心の中でフラグを折り、
「あらありがとう。頼もしいわね」
と言っておいた。
途端にアランの表情は明るくなり、オーラを放ち始めた。私に褒められたことでやる気が出たようだ。
【ユニークスキル、
おっとぉ? なんか増えたよ?
士気高揚……?言葉の意味的に味方全体へのバフみたいな感じかな?
使ってみようかな。
「……んっ」
みんなが淡い光りに包まれていく。
これがバフの特徴なのかな?
「……ふぅ」
結構な量の魔力を持って行かれたよ。
でも効果範囲がすごく広いね。
効果が出てるのかは確かめられないけどね……。
それにしても何がスキル獲得のキーになったんだろう。
とりあえずこれでスキルは4つ目。
「よーし、ここらで休憩するぞ」
前衛のみんなが低級魔人を倒し終えたようだ。お疲れ様。
休憩の間は自由だし枯渇再生で魔力を底上げさせたいな。どうせ使う場面も無いだろうし使い切ろうかな。
私はリュックから水晶を取り出す。
水晶を安定してる場所に置き、手をかざす。
日本に住んでいたときに好きだったものを思い浮かべる。
同時に【
10秒ほどで私の魔力は空になる。
八割ほどなくなったところで思考を中断させる。
そしてぼーっとする。(そうすると魔力の回復が早かった)
15分ほどで魔力が回復する。これを永遠と繰り返す。
普通ならすぐに飽きてしまうんだろうが、そこは茉莉クオリティー。集中力を途切れさせずにしっかりとループにつなげる。スキルを使用するまでもない。だって邪魔するやつは居ないんだから。
何度繰り返しただろう。
そろそろ休憩は終わるだろうと思い、周りを見回し私は絶望する。
――周りには誰一人居なかった。
「……い、家に帰りたいよぉ……」
……あ、あははははは……はぁ。
完全に置いて行かれちゃった。
た、助けてぇ……。
【ユニークスキル、
……おい。
何この悲しいスキルは……。
英雄(笑)であるこの私をあざ笑うかのようなタイミングで獲得するなんて……。
何もできないしとりあえず出口目指そ……。
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あっれれぇ〜〜〜〜?おっかしいぞ〜〜〜?
三雲さんが消えちゃった〜。
ごめんちょっとふざけすぎた許して三雲さん。
僕はちょっと焦ってる。
そう三雲さんとはぐれた。
違う。三雲さんがはぐれた。
僕は悪くない。
三雲さんは攻撃手段が無いからすごく不安だ。
いつの間にか置いて行かれて困っているかもしれない。泣きそうになているかもしれない。
何としても助けてあげなきゃ。
低級魔人しか出ないって言っても強いやつは強いんだから。魔人は人間族5人でやっと一人倒せるくらいなのに、三雲さんが勝てるわけがない。いくら英雄でも能力がなかったらただの人間と変わらないんだから。
果たしてこんなに冷静に状況を解説していていいのだろうか。
答えはNo。
そんなことしている暇はない。
三雲さんとはぐれて30分は経過した。
時間が経てば立つほど三雲さんの生存確率は低下していく。
一刻も早く戻るべきだ。
先生に言って引き返してもらおう。
「……先生」
「なに?アラン」
「三雲さんが居ません」
「――えっ?」
「三雲さんが居ません」
「誰も繰り返せなんて言ってません」
聞き返したと思ったんだよ。ごめんって。
「本当ですか?」
「はい、さっきの休憩のときは居ましたが、多分ついてきいてません」
「……」
「引き返しましょう」
「だめよ。今戻っちゃうとあなた達が帰れなくなるのよ?」
そんなことはわかっているんだ。
「でも、仲間を見捨てるのは違うと思わないんですか?先生はそれでも人間ですか?」
クラスのみんなから声が上がる。みんな先生を責めている。
「……わかったわよ、みんな言い過ぎ……じゃあ戻って三雲さんをみんなで迎えに行きましょう」
クラスから歓声が上がる。
「ありがとうございます。先生がまともな人間でよかったです」
「だから言い過ぎだってば。三雲さんにはそんなこと言わないくせに」
何を言ってるんだ、僕は紳士だ。紳士は女の人にそんなことしないんだぞ。だから先生にもそんなことは言ってないはずだ。
「さぁみんな、今歩いて来た道を引き返すわよ」
三雲さん、待ってて。必ず助けに行くから。だから……だから絶対にそこから動かないでね――。
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