第14話 紫藤さんの素顔
「私は疲れたから駅前のカフェで休んでるわ〜。二人共、この後カップリングの相手と食事に行くといいわよ〜」と朱理先輩がアドバイスをくれた。
「はぁい」
「はい、ありがとうございます」
「今度どんな顔だったか教えてね〜」
そう、これから相手の素顔を見るんだ。緊張する。
逆に向こうが私の顔を見てガッカリするかも。覆面に隠れてる分、想像は美化されてるかも。ガッカリするのも、されるのも嫌だ。せっかくカップリングしたのに。
会場に入り係員に覆面を返した。
「女性の13番の方ですね。男性の12番の方はこちらです。」と案内してくれた。
覆面を外した男性が3人、こちらに背を向けて椅子に座って待機している。椅子には番号がふってある。間隔は2メートルくらいずつ離れている。
左に座ってるブルーのスーツは蒼さんかな。顔面は分からないけど後ろ姿はイケメンだ。姿勢がいい。さくらさんとカップリングしたんだな。
真ん中はゴリマッチョの
右に座ってる、1番座高の高い人が紫藤さんだな。12番の札が椅子に貼ってある。そこに案内された。
由黄ちゃんも、さくらさんもそれぞれお相手のところへ案内された。由黄ちゃんはスキップしそうなくらいルンルンしてる。
さくらさんは、あんまり嬉しくなさそう。もしかして、蒼さんは第1希望じゃなかったとか? 勝手に想像してしまう。
「カップリングのお相手が来られました。」
と係員が紫藤さんに笑顔で伝える。
紫藤さんが振り返った。
「あ、藍さん」
「どうも……」
紫藤さんは綺麗な名字に劣らない美青年だった。隠れていた鼻も肌も綺麗だった。
立ち上がって頭をかきながら
「えーっと、選んでくれてありがとうございます」と言ってくれた。
「こ……こちらこそ。ありがとうございます。紫藤さん、覆面外してもかっこいいですね」
こんな目が大きくてまつ毛バッサバサの顔の濃いイケメン、普段話す機会ないよ。どうしよう、覆面無しで目を合わすのキツイ。
「ありがとうございます」さすがイケメン。かっこいいを否定しない。
「藍さんも、きれいです。」
「えええ? そんなことないですよ! あっ、でもお世辞でも嬉しいです!」
私は紫藤さんの顔をチラッと見て、視線を合わせることに耐えきれず、また下を向く。紫藤さん、目ヂカラ強い。ガン見してくる。
「いや、お世辞じゃなくて。こんなに綺麗な人と話してたなんて……、緊張します」
「またまたあ! お上手ですね!」
再び、チラッと紫藤さんを見るがまた視線を外してしまう臆病な私。ああ、覆面かぶりたい。覆面かぶれば話せるのに。
「いや、ホントに。さっきと違う」
「そ、そんなに私の覆面姿、ブサイクでした?」
「あっ、そういう意味じゃなくて! あのう、連絡先交換しませんか?」
「はっはい」
チャットアプリのQRコードの出し方をど忘れしてワタワタしたので、IDを紙に書いて交換した。
「藍さんはこの後あいてますか? よかったらお茶しませんか?」
「そ、そそそれが、今日は友達と用事があるんです。す、すすすみませんっ」
こーんなイケメンと二人っきりなんて!
目を合わせられないのに、お茶なんて無理無理! 今日はこのまま帰らせてください。用事があるなんてウソです。ごめんなさい。
「そうですかあ……」
ああっ、紫藤さんガッカリしてるよね。
「すみません。私、緊張しちゃって下ばっかり見てすみません。紫藤さんが想像以上にかっこよかったので!」
「ああ、あんまりこっち見てくれないなって思ってました」
「すみません、緊張してるだけなんです! メッセージ必ず送ります!」
「はい。よろしくお願いします」
紫藤さんと一緒に会場を出た。
「藍さん、来週の『覆面プロレス祭り』は行けそうですか? 今日みたいに覆面かぶって観戦できるんですよ。」
「えっ、覆面かぶれるんですか?」
「はい、覆面は自分で用意するんですけど。覆面で参加すると割引券の金額より、さらに割引になります」
覆面かぶってデートできるんだ! そしたら紫藤さんの目を見て話せる!
「行きたいです! 絶対に行きたいです! 一緒に観に行きましょう!」
「じゃあ細かい待ち合わせはまた後で」
「はいっ! 必ず連絡します!」
念の為、その場で紫藤さんのスマホにスタンプを送って、ちゃんとメッセージ交換できるか確認した。
私の送った覆面レスラーのキャラクターのスタンプが瞬時に紫藤さんのスマホに届いた。ちゃんと好意があるんですよという意味を込めてハートの絵柄のスタンプにした。
「あっ、届きました。かわいいですね、このスタンプ」
「はい、覆面レスラーのスタンプかわいいのいっぱいあっておもしろいですよ」
「じゃあ、またかわいいスタンプいっぱい送ってくださいね」
「あっ、はい。送ります。よかった、このスタンプ送れる相手いなくて困ってたんです。覆面レスラーのスタンプ、かわいいって言ってくれる人あんまりいなくて」
「確かに送る相手を選びますね。僕にどんどん送ってください」
「はいっ。ありがとうございますっ」
「じゃあ、今日はこの辺で」
…………やっと紫藤さんと解散した。
つ、つ、疲れたよ。イケメンと話すの疲れたよ。でもただのイケメンじゃない。自分に好意を持ったイケメンだ。がんばれ私。負けるな私。
「藍さぁーん……」
「あっ、由黄ちゃん」
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