第9話 小柄でウブなカブ好き白田さん

 小柄な白の覆面の人が話しかけてきた。

 百六十センチの私より目の位置が低い。かわいいな。


「い、いいい一緒に杏仁豆腐食べませんかっ?」


「ありがとうございます。杏仁豆腐あるんですか! 私ケーキ楽しみで来たのにあんまり食べれてなかったんですよね。」


「は、ははははい、おいしいですよっ。」


 白の覆面の人、緊張してるのかな。声が震えてるし、さっきからずっと下を向いて話してる。


 一緒に杏仁豆腐を食べた。


「おいしーい。杏仁豆腐久しぶりに食べました!」


「そ、そそ、そそそれはよかったですっ。」


「お名前聞いてもいいですか?」


「し、ししし白田しろたですっ。」


「白田さんですかー。私は田中藍と言います。」


「あ、ああああいさんですね。ふ、ふふ、ふふふっ」


「何かおもしろかったですか?」


「ふ、ふふふ、覆面似合いますねっ。」


 笑ってたんじゃなくて、覆面って言いたかったのかー。


「えっ! そうですか! 私似合わないと思ってました! ありがとうございます!」


「は、はははい。ほ、ほんとに可愛いですー!」


「えー! うれしいですー。白田さんも白い覆面よく似合ってますよ!」


「あ、ああありがとうございますっ!」


 白の覆面の白田さんは、いつもこういう話し方なんだろうか。そんなに緊張しちゃうタイプなのかな。覆面取ったらどうなっちゃうんだろう。

 でもいい人そうだな。私よりも朱理先輩と合うかも。朱理先輩が引っ張ってあげたらいいんじゃないかな。


「白田さんは趣味はありますか?」


「しゅ、しゅしゅ趣味はカブです!」


「カブ? カブ料理が得意なんですか? 私はカブをクリームシチューに入れるのが好きです。」


「か、かかかっ株取引です。」


「ああっ! そっちの株ですね!」


「は、ははははいっ。」


「白田さん、緊張してますか? ヨーグルトでも食べてリラックスしましょう。」

 私も、もっとスウィーツ食べてから帰りたいし。


「こ、ここここのヨーグルト、生クリーム入ってておいしいですよっ。」


「あっ、もう食べたんですね。(パクッ)

 うん! ほんとだ。おいしいー!」


「かっ、かかか、株取引なんですけど、順調にいってまして、これが僕の預金残高です。」


 そう言って通帳を見せてくれた。白田さんはお金持ちだった。


「えっ、見慣れない桁数です。」

 あんまり人の通帳見ちゃいけないから、チラ見しかできなかった。いくらだったか分からないけど、 ❜ (カンマ)が、え〜っといくつあったっけ……。


「な、なななので、株取引は順調なので安心して僕と結婚して頂きたいと」


「あのう、人に預金通帳見せないほうがいいですよ。婚活サギもいるかもしれないし、危険ですよ。」

 まさか、女性参加者全員に通帳見せてないよね。


「そ、そそそそそうなんですかっ?」


「はい。それにまだ一緒に杏仁豆腐を食べただけです。これから付き合うかも結婚するかも分かりません。今日は、きっかけを作るだけなんですよ。」


「す、すすす、すみませんでしたあっ!」


 白田さんはペコリと腰を直角に曲げて謝ってきた。


「でもちゃんと結婚前提にお付き合いを考えてる、真面目な方なんだと分かりました。」


 こういう婚活パーティーは独身証明書を提出しないから、既婚者が独身のフリをして来てることもあるそうだ。


「ほ、ほほほほんとにすみません……。あいさんが可愛かったので」


「ええっ、そうですかあ? そんなに可愛いですかあ? あはは、うれしいです。」


 可愛いって言われちゃうとうれしくなっちゃうなあ。えーっと白田さん、婚活サギじゃないよね?


「き、ききき、緊張してます。あいさんが素敵なので」


「あはは。あのう、株主優待の話聞きたいです。おもしろそうなので。いろんな特典があるんですよね。」


「は、ははっははい。株主優待はうれしいですよ。」


 白田さんは自宅の近くの百貨店の、株主とその連れしか入れないカフェでよくお茶してるそうだ。


「へえー。そういうのがあるんですか。行ってみたいなあ。」


「よ、よょよょよかったら一緒に行きますか?」


「あっ、ごめんなさい。」

 連れていってって意味じゃなかったんです。


「す、すすっすみません!」

 白田さんがペコリと腰を直角に曲げて謝った。

 しまった。行ってみたいけど、うーん……。白田さんに興味がないのにデートしちゃまずいよね。私は男性に引っ張っていってほしいタイプだからなあ。白田さんだと私が背中を押してあげないといけなさそう。


スッ

 緑の覆面の人が近寄ってきた。


「失礼します。僕とも話してもらえませんか?」







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