これもお仕事 相手を知らないと出来ない仕事ですから

 「では早速、ヤルダンマさん。あなたはどんなお仕事に就きたいのでしょうか?」


 一応、私達人事さんの仕事は、相手の望む仕事に出来るだけ就いてもらえるように取り計らう事です。


 だから最初に希望は訊いておくのが基本です。ただ、それを実現してあげられるかは別。ただ、全力は尽くします。


 「いえ、あの、地に足の着いた仕事であれば、私は良いのです。この星は素晴らしい。どの仕事も魅力的で、正直目移りしてるんですが」


 嬉しい。自分の星を褒められた。しかも、目移りするとまで言ってくれた。


 やる気がいつも以上に出た!絶対喜んでもらおう。


 「でも、この手じゃ難しいんでしょうねぇ。」


 手?


 「手が、どうかしましたか?それは、お怪我ですか?」


 シノギ星とシノギ星の人のデータはある程度皆斗君から貰っていた。


 星の大半が恐ろしく硬い鉱物で出来ていることが挙がってたけど、大気や気圧は地球環境とあまり変わらない。食事も似たようなもの。元々好戦的過ぎる民族と言われていたけど、それは昔の話で今は違うって言ってたな。


 でも、手に特殊な性質があるなんて言ってなかったと思ったんだけどな。


 「あぁ、ご存じありませんでしたか……。では、先ずコレを確認してください。傷やヘコミ、小細工の無い金属の塊です。確かめてください。」


 そう言って彼は金属の塊を懐から取り出す。


 それは綺麗な金属だった。金属というよりガラスに近い光沢。光が当たって虹のように反射する、まるで宝石みたいな金属だった。これって確か………


 「これって、シノギ星の金属のシノギ金属ですよね?」


 手の中の宝石の塊を返しながら言う。本物は初めて見た。綺麗だなぁ。


 「よくご存じで。はい。宇宙でも類を見ない軽量で頑丈な金属。シノギ金属です。」


 これは知ってた。軽くて異常に丈夫。宇宙船の部品に使われていた筈。


 「これは宇宙でも指折りの丈夫な金属なんです。」


 そう言って片手にシノギ金属をとり、もう一方の手袋を器用に外した。


 「シノギ星の人間の手はこうなっています。」


 そう言って右腕のカバーを外す。


 え!


 目の前のシノギ金属が二つに割れた。


 違った。断面が綺麗だ。切れたの?


 凄い!マジック?違う?あれ?右腕が……


 「僕達シノギ星の人間は両腕がこうなっています。」


 手袋を外した手が太陽に反射する。


 手袋の中から出てきた腕は地球人と同じくらいの太さだった。あの腕カバー。凄く厚かったんだな。


 でも、その手は地球人とは違った。


 光ってた。


 太陽光に照らされて金属みたいに光り輝いてた。


 「両腕が刃物のように斬れる人間。それが我々シノギ星人です。」












 「すいません。勉強不足でした。」


 一応の知識が入っていたけど、結局私のはデータ。データじゃどうにもならないのは知ってたのに。


 「いえいえ、シノギ星の人間を知っているなんて滅多に無いですよ。シノギ金属について知っていたのもびっくりしたんですから。」


 そう言いつつ腕をカバーで覆い始める。腕に触れても斬れない所を見ると特別製なのだろう。


 「話を戻します。僕達は基本的に直に触れたものをなんでも斬ってしまう腕を持っています。正確には肘から先だけなんですが、基本的にどの角度からでも不思議と斬れてしまうんです。」


 だから手袋をしているんですが、と続ける。


 「腕は普通に動かせてもこの通りの厚さの手袋をしているとどうしても手が簡単には動かせないんです。だから手を使った職業は難しいかな?と思ってるんです。」


 なるほど。手っていうのはそう言う事だったの。


 手袋をして指先が殆ど動かなくても出来る仕事。


 どうしよう?








 「ヤルダンマさん。」


 やることは決まった。


 「はい?」


 「散歩をしましょう。」


 「はぃ?」








 仕事をしていて分かった事がある。


 それは、この仕事は頭を使ったところでどうにもならないって事。


 この仕事は宇宙を相手に一人で闘うって事。つまり、地球人一人の頭で考えたところで敵いっこない。


 だから歩くのが一番。


 歩いているうちに色々見て、自分も相手も発見があるから。


 歩いているうちに名案が浮かぶなんて都合の良いことがこの仕事にはあるんだから。


 「あの、秋野さん?本当に散歩しているだけで良いんですか?」


 「えぇ、でも、只の散歩じゃ面白く無いですから気になった事が有ったりしたら訊いてください。」


 「解りました。にしても、この国は素敵ですね。」


 辺りを見回してヤルダンマさんは大きく息を呑む。


 「そうですか?私はここで生まれ育ってきたので分からないんです。」


 辺りにあるのは芝生と数本の木。あとは花が少し咲いていた。特に面白い景色ってあるかな?


 「僕の星は見渡す限りシノギ鉱で出来ている風景でした。」


 「それってどういうことですか?」


 「そのままです。地面がシノギ鉱で出来ていて、シノギ鉱の塊を自分の手で斬った建物が有って、で、動植物もシノギ鉱の影響で少なからず似た色になるんです。だから夜は月明かりを反射したシノギ鉱が光って綺麗だなんて呼ばれて、観光客も来るんです。」


 今度はこっちが息を呑んだ。


あんな綺麗なので出来た地面と建物と生き物。そして、夜は天然のイルミネーション。凄い素敵。


「素敵じゃないですか。羨ましいです。」


 「皆そう言うんです。だけど、僕はこっちの方が好きだなぁ。色んな色が有って、それぞれが個性的で、それで皆違って綺麗だ。」


 キラキラした笑顔でそう言った。


 ここまで自分の星を褒められるとくすぐったい。


 それと同時に私は心に決心をした。


 「ヤルダンマさん。私頑張ります。絶対。あなたがこの星で幸せに暮らせるように。頑張ります。」


 「 有難う。」


 ヤルダンマさんは少し面喰っていた。


 「それよりヤルダンマさん。色んな色が有って綺麗って言ってましたよね?私、良い場所を知っているんですけど。」


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