5章:終わりが終わりの兆しを見せ、始まりの兆しも同時に見えた。
公園の滑り台の下。象の腹の中で僕たちは座っていた。モノクルは
「お前の持っているソレ、リバースじゃねぇか!」
衝撃の真実が目の前のモノクルから発せられた。あまりの荒唐無稽さに笑いそうになる。
「んな、馬鹿な。僕が何でリバースなんて持っているんだ?」
何より、リバースはそれ自体が本能的にリバースだと解る。日中に会った連中の持っていた物は直ぐにそれだと解った。
しかし、さっきも今も、何処からともなく現れたこの札。妙なものだとは感じたが、リバースだとは感じはしなかった。
「違う。これはリバースじゃない。だって解るだろう?これからはリバースの気配はしない。」
モノクルはそれを聞いて唸っていた。目をつぶり、眉に皺を寄せて首を傾げていた。
「うーーーーーーーーーーーーーーん…………。確かに、リバースの気配はしないんだが、しかし、なぁ、それはどう見ても例のリバースなんだよなぁ。」
僕の手の中の札を見て唸る。
「これ……、僕は知らないんですよ。僕の物じゃないんですよ。今日、寝ようと思ったら机の上に有って……、」
札の事を目の前の名前も知らない男に一通り喋った。
黙って聞いていたが、途中、目を丸くしたり、「んぅ?」と奇妙な唸り声を上げたり、はしていた。どうも彼は何かを知っているらしい。
「………、結論から言おう。俺の知る限り、それはとあるリバースに酷似している。そして、もし、それが俺の知るリバースなら、リバースの気配がしない事も説明が出来る。なにより……、もし、それが俺の考え通りのリバースなら、さっきの男がお前を狙った理由を説明が出来る。」
話を聴き終え、彼はそう言った。
わざわざ追手から隠れて話をさせたのだから何かあるのだろうとは思っていたが、予想以上に謎が解けそうだ。
「モノクルの……、名前は……あぁ、そう言えばお名前は?」
奇妙なタイミングだが、名前を尋ねた。あまりに新規で新奇な経験と情報が重なったあまり、順番が逆転してしまっていた。
「おっと、言い忘れてたな。俺の名前は刃。羽斗刃。刃と呼んでくれ。見ての通りリバースホルダーだ。」
彼はそう言って手を差し出した。
「僕、僕の名前は安倍晴明。見ての通り、万把一絡げに出来るような一般人さ。呼び方は好きにしてくれ。」
差し出された手をしっかりと掴んだ。
「あべの……はるあき?」
刃は僕の手を握りながら石化したように固まってしまった。
凄まじい衝撃を受けたような顔をしていた。変な事を言った覚えは無いのだが………。
「はるあき、お前、もしかしてお前の名前って、もしかして陰陽師のあの安倍晴明と同じ漢字とかじゃないよな?」
掴んでいた手を離すと両肩をがっちりと掴まれた。掴んだ手には力が入り、その顔は真剣な顔をしていた。
「あぁ、よく言われれるよ。あだ名が陰陽師だとか、萬斎だとか、色々言われてたものさ。」
それを聞いて刃は肩を掴んでいた手を地面に落とし、肩が小刻みに上下に動き始めた。
「ク、クク、クックックック、ククククク、ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!しょうもねぇ。マジかよ。流石純日本。ダジャレとはなぁ!」
大爆笑。何が何だか分からない。
「あぁ、お前の名前で、確信が持てた。お前のその札。リバースだ。」
腹を抱えて笑いながら、そう言った。え?今の何処でそんな確信が持てたんだ?
「お前のリバース。それは間違い無ぇ。『安倍晴明』のリバースだ。」
目が真剣なものに変わった。それ迄の爆笑どころか、逃げていた時よりも目が真剣だった。
「その札のリバース。それはリバースホルダーの間では有名なモノでなぁ。写真は出回っているんだが実物が長年行方不明になっていたんだ。色々な組織があの手この手で血眼になって探していたんだが、全然見つからなくてなぁ。どうも清明のリバースにはリバースとしての気配が無い。そして、何らかの方法で人の手を渡り歩いている。という話を聴いていたんだ。」
成程。さっきリバースとしての気配の無さを説明できると言っていたのはそう言う事か。
「で、どうしてこの札が安倍晴明で間違いないと考えたんだ?僕の名前位で確証が持てるような問題では無いだろう?」
リバースというのは特別なものだ。誰も彼もがそれを使える訳では無いし、そう簡単にお目に掛かれるものでもない。
名前ごときでどうにかなる問題では無い。
筈だ。
「お前の名前は安倍晴明。そして、俺の予想だとそれは陰陽師、安倍晴明の力を持っている。陰陽師にとって名前とは重要な物。「言霊」なんていう言葉が有るくらいだからな。
つまり、お前とそれの間には呪術的な縁が有る。漢字が同じだからって馬鹿にするな。特に陰陽師なんてものは命=名前と言っても過言では無いものだ。で、総括しよう。
安倍晴明という名前の人間が、安倍晴明のリバースと思しきお札で、リバース使いを吹き飛ばした。この状況で俺が考えられたのは一つ。お前は『安倍晴明』のリバースの適合者になったってことだ。」
強引だと思った。
あまりに強引。説得というには雑過ぎると感じた。
でも、次の一言は僕を納得させるのに十分であった。
「最後に、『安倍晴明』のリバースには死者蘇生の力が有る。だからこそ色々な組織が狙っているんだ。お前が自分に狙われる理由が見当たらないというのなら、お前がリバースホルダーに襲われる原因が他に見つからないんだよ。」
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