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「らっしゃい!なににいたしやしょうか!」
俺たちは会社の最寄り駅の高架下にある少し狭い居酒屋の暖簾(のれん)をくぐって比較的奥のテーブル席に座った。ぐるぐるさせた白いタオルかハチマキを頭に巻いて、腰のエプロンには、この居酒屋のマークであろう丸印に夢と入っている。これらを身に着けた大男が俺たちの注文を取ってくれた。とりあえず俺はビールとねぎまを頼んだ。彼女もビールと野菜と肉のマリネを頼んだ。
注文を終えてから「それで、どうした?」と俺は彼女に本題についての疑問を投げた。そうすると彼女は少し言いにくい表情をしたが、俺には言わなければならないと覚悟を決めたような顔になり俺に告げた。
「すぐる先輩・・・。実は、後輩が全然私の指示したことを聞いてくれないので、その対処法に困っているんです。」
「同じ部署の子か?」
「そうですね。今年新しく入られた加藤さんと吉川さんが最近私のいう事を聞かずに休憩している時間が長いように感じるんですよね。注意をしても仕事に身が入っていないというか、何のために会社に来ているのかというような態度が多々見られます・・・。」
俺が勤めている会社はフレックスタイム制を導入している。コアタイムは昼勤でも夜勤でも4時間指定されているが、その前後は時間を報告すればいつ出勤や退勤しても良いという他の会社より、ゆとりが持てる制度だと個人的には思う。だがそれを利用してあまり仕事が進まない人は休憩ばかり取って残業代を多くもらっている人も多い。そこは社会人としてのマナーということで1時間くらいを目標にしてほしいくらいだ。しかし、彼女によるとこの二人は他の社員と違い3・4時間も、ただただ休憩だけをして仕事の成果を全く出していないということだった。あとは俺が会議にいることが多くてあまり社員の進捗状況がわからないときに各務が助言をしてくれる担当なのだ。何かがあればこのようにお酒を飲みながら愚痴交じりに今の部の進捗状況と今後のことについて俺と二人で相談をしている。俺は大きく息を吸い込んで、その息を全部吐き出す勢いで溜息をつきながら、
「またあいつらか。いつになったらあのプロジェクトを進めてくれるのやら。」
「あの子たちは何がしたいのでしょうか。ただ単にバイトの延長線上だと思っているのなら今すぐにでも辞めていただきたいと思うくらいです。私のストレスもかなり限界に近いです。」
「でもうちの人事部は履歴書と面接を3回やって合格を出しているから、人材を見込んで入れてはいるんだよな。それが何にしろ、会社の上司などの上の者に認めてもらえるように努力するのが新人の仕事なのに。」
この言葉を出した時彼女は少し長い溜息をついた。やはり見た目以上に彼女は相当なストレスがあったのだろう。
「仕方ない、俺も香に教育係任せっぱなしは悪いから手伝うよ。注意くらいなら仕事の合間を見計らってしてみるからさ。」
そう言って、もう少し俺も部の全体を見渡していかないと、そう自分に思った。面倒くさいばかり言っているけど少しは俺を頼りにしてくれれば後々役に立つことだってあると考えた。そして今俺は部長なのだ。部長である俺が怠けていたら部下も怠けてしまうからな、俺がしっかり誠意を見せないと。
「ありがとうございます。私だとやっぱり至らない点は多いかと思いますが・・・。」
「あぁ、いいよいいよ。本当は自分がやらなきゃいけないことだし。」
「さ、食べましょ。これで注文したものが来たことですし。」
すでにさきほど注文をとってくれた大男がテーブルに頼んだものを並べてくれた。この後は普通に世間話をして俺たちは食べ終わった。
「ごちそうさまでした。私が誘ったことなのにおごってもらうなんて。」
「んじゃあ今度はおごりな。」暖簾をくぐりながらまだ肌寒い外へと出て俺は言った。
「えー、・・・まぁ仕方ないですかね。」
彼女は膨れた顔をしていった。この後はあまり話さずに駅まで道路の歩道をひたすら歩き、各務と別れた。ふと空を見上げると月が出ていた。三日月か・・・ふいに口にしていて駅構内に入りホームに止まっていた電車に乗った。
家に着いた時には日付が越えていた。ふと携帯をみると妹からメールがあった。妹からはこんな感じに送られてきていた。
「突然友達の家に泊まることになっちゃってしまったの!ごめんねー( ;∀;)
明日の朝くらいに帰るね」
急に泊まりになったのはいいが、着替えとかどうするつもりなのだろうか。まぁそこら辺はしっかりやってくれるかなと思った。
「そうか、急なお泊りで迷惑かかっているから注意してな。
こっちは何とかしておくから」
と返信して部屋でゆっくりして寝た。
目が覚めた。隣に温もりを感じると思ってふと横目で見ると気づいたら妹がいた。なぜか泣いている。あれ?なんでお前泣いているんだよ。そしてここはどこだ。俺は情報を整理するために周りを見回した。四方真っ白の部屋だ。隣にはベージュ色のカーテンがついている。そしてこの白いパイプに白いベッド。ご丁寧に赤いバラまで花瓶に添えられている。そうか、ここは病院か。なぜ俺は病院のベッドで横たわっているのだ。あれ、もう行ってしまうのか。おい、行かないでくれ紬・・・。
そしてまた俺は目を閉じてしまった。
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