1VS3 早くも決着

 馬鹿な男だ。3人相手に妙な木刀一本で挑むたぁ無謀すぎる。目の前の男にガンビーはがっかりしていた。あの数の狼から逃げ、しかも、鈍い筈の俺すら恐怖するほどの気迫を出していた。闘争心の強い俺には恐怖以上に滾るモノがあった。ここに来る男は俺に負けず劣らずの大男で強いのだろう、と。期待していた。しかし、来た男はどうだ?見るからに貧弱な男。しかも、考え無しに突進してきやがった。3人相手に単なる突進選ぶたぁ愚作の極み。さっきまでの警戒は杞憂だった。俺の一振りかシャートの一突きでお終い。リーリ姉さんが出るまでも無い。


 大男のガンビーはガッカリすると投げ槍に剣を振り下ろした。


次の瞬間、華奢男が手を前に出し何かしたかと思うと…


ブワッ。


目の前が真っ白になった。振り下ろした剣は真っ白な何か。空をを斬っただけ。手ごたえは無かった。避けたな。


白い何かの正体は煙…否、匂いは無い、霧か。魔法で霧を作ったのか。只の突撃馬鹿じゃなかったようだ、少しは楽しめるかもだな。


ガンビーの顔は笑っていた。






弱い者いじめだな。シャートは思った。自分たち三人は鬼のように強いとは思っていない。だからと言って有象無象に負けるほど弱くも無い。その程度。


最初に思っていたここに来る男のイメージは鬼だった。しかし、目の前の男は有象無象だった。警戒は無駄だったな。


目の前の男は木剣擬きを担いで突進してくる。しかし、木剣は特に細工が在る訳ではなさそうだし、突進も目で追えない速さではない。悪手以外の何物でもない。一撃で決まる。嗚呼、気が引ける。


ガンビーが剣を振り下ろす。次の瞬間男は老練な剣士の如き足裁きで剣を躱しつつ手から煙を出した。目潰しだ。しかし、意味は無い。焼け石に水だ。


嗚呼弱い者いじめは悲しい。








中々良い男だねぇ。リーリは男をそう評価した。でも、勝てないねぇ。


 突進に見せかけ火と水の混合魔法で霧を作って視界の悪い中一人ずつ倒していく。そういう戦法だろうねぇ。良いわねぇ、2つの魔法を混ぜる高度な魔法技術。ガンビーの一撃をギリギリで躱す体術と度胸。


最初のイメージとは違ったけれどぉ、中々強いのは確かだわぁ。


最初の感じは勝敗は分からなかったわぁ。でも、今わかった。アナタ、勝てないねぇ。アンタ、魔法使いじゃないねぇ。そして、経験値が足りないねぇ。残念だねぇ。


アタシ達の勝ちよぉぅ。




 そう、そうやって思ったんだろう。向こうの奴等はそうやって勝ちを確信しただろう。残念だ。最初の警戒其のままであったなら、その油断さえなければ君たちは非常に強く、俺を負かせただろうに。 








霧の中で三人は冷静だった。


「ガン、シャー!油断すんじゃないよぉ!集まって背中合わせなぁ!」


「オウ姉さん!」


「分かった。」




そう言いつつリーリは霧の中のある一点を指差した。二人は霧の中それを見ると集まるどころかその指の先へ走っていった。


残念だねぇボーヤ。視界を塞いだのはあの二人相手なら良かったんだけどぉ、アタシは魔術師。魔力が見える。


魔法を使うものなら誰でも持っているこの力。相手の場所を解り、魔力の昂りも見える。


アタシは端から魔法の使用を見抜き、敢えて使わせたのさぁ。


その結果、霧を作ったボーヤは自分に有意なフィールドを作った。と思い込んだ。


ただぁ、視えているアタシにはそれは無意味。ボーヤの場所は分かったわぁ。彼は、アタシの指差す先にいる。


 リーリの意図を察し、二人はそちらへ向かう。これで不意打ちを喰らうのは相手だ。


向こうも二人の気配を察知し、慌てて石を投げてきた。無駄だ。ガンビーとシャートの横を石は素通りしていった。


 前の二人には掠りもしない。躱すまでも無い苦し紛れの礫?


違う、狙いは私だわぁ。




すんでの所で体を傾ける。寸前まで頭のあった所に石が走る。石は空を切り…リーリの背後の木に当たった。


 ミシッ


「これはぁ、まぁ。」


 冷汗が出る。木が石に当たり、めり込んだ。当たっていたら無事では済まなかっただろう。


 苦し紛れに見せかけた本命。ただ、何とか躱せる。躱しつつ相手の居場所を確認する…よかった。場所は変っていない。このままいけば勝てる。


先程と同じ場所に石が投げ込まれる。前の二人には当たらない場所。かといって私はもう移動している。




『一体何のため?』




頭に考えがよぎった瞬間、同時に頭が揺れた、頭の後ろから強い衝撃が来たのだけは分かった。私の意識は真っ暗になった。










背後で誰かが崩れる音がした。姉さんがやられた。


『私がもしぃ、やられてもぉ、あなた達で倒せるなら私を無視して倒しなさぁい。敵わないならぁ、私を見捨てて逃げなさい。』


あの時、姉さんは俺ら二人にそう言っていた。しかし、次に二人のとった行動はその命令に背いたものだった。


「「姉さん!」」


後ろで倒れているであろうリーリを助けに向かった。


「姉さん、ねえさん!」


霧の中姉さんを見つけた。矢張り倒れていた。後頭部にこぶがあった。


いつの間に?俺達が前に居たのに…


リーリの介抱をしつつ、シャートは気付いた。彼女の頭の後ろに石があった。


そしてその後ろの木にはこれまた石がめり込んでいた。


………まさか!








片方は気付いたみてーだな。感が良い奴等だ。




ここで何をしたか、魔王が説明しよう。


魔法使いの彼女は投石で倒した。


しかも、後頭部に当てて…だ。




方法は簡単


まず石を相手の後ろの木にめり込ませる。


その後相手を移動させ、「投石が自分に向けられない。」と思い込ませる。


そうして油断したところでもう一度の投石だ。これを最初にめり込ませた石に投げつける。


それを反射させて彼女に当てたのだ。


意外と面倒だが、こういう手合いに対しては有効だ。なぁに、殺しはしていない。


さぁて、残る二人。どうするかーな。




よし、次はこれでいこう。


ガンビーもシャートも気の合うとは言い難い関係だった。リーリはその二人を結ぶ役割を果たしていた。


この二人の関係は破綻するであろう。と、お互いに考えていた。


 しかし、リーリが気絶したことで破綻する筈の二人の関係は絆と呼べるほど強固になっていた。


 いや、そんな訳無い。絆はそう簡単に出来はしない。彼らは彼女無しに十分に互いを信頼していたのだ。


 それが証拠に、ガンビーとシャートが次にしたことは、


背中合わせであった。


死角たる背後を相手に預ける。コレは相手に命を預ける行為と言って過言でない。ましてや今は魔王の作った霧の中にいる。視界が悪い中人に命を預ける。リスクが普段より高い中易々とこれをやった。この行為は背後の相手への最上級の信頼の証である。




 「「来な!この野郎!姉さんへの石の分以上にボッコボッコにしてやんよ!」」


霧の中、彼らの二重奏は木霊した。








カサカサと草を踏む音が聞こえる。だが、霧の中で正確な位置が掴めない。


が、しかし、関係無い。自分の目の前に奴が来た瞬間、持っている短剣で滅多刺しにしてやる。もし後ろから来てもガンビーがブッタ斬った後で自分が滅多刺しにしてやる。




 ブッタ斬る。ただ、それだけ考えていた。


眼前の白いもやには何も映らない。


俺には探知能力なんてものは無い。


 ただ、それでも、目の前に全てを集中し、リーリ姉さんに酷ぇ思いをさせたヤツが少しでも見えた瞬間に叩き潰すように斬るこたぁ出来る。もし後ろから来ても、シャートが滅多刺しにした後で俺がブッタ斬る。




『『許さない。』』




彼らは燃えていた。






だから、次の瞬間、目の前に現れた陰に対して、「彼ら」は思いっきり自分の業を振るった。




『『『喰らいな!』』』




次の瞬間、二つの斬撃が陰を切り裂き、二つの乾いた破裂音が…




ガンビーとシャートを眠らせた。








最初に仕込んだのは遠隔式の光魔法だった。二人の正面に。しかもその光源前に木の葉で人の影を作った。


 因みに、遠隔魔法とは遠隔操作で魔法を発動させるものだ。




 そして、両者の横にスタンバイすると、


『遠隔操作リモート:光源フラッシュ』


光を放ち、霧に人影を投影する。


一瞬のことで二人は狙い通り、影を俺と思い込んだ。勝機!


 一瞬、影を本当と思った、その一瞬。


 竹刀を二人目がけて振り下ろした。


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