魔王VS狼

「グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」


「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉりゃぁ!このぅ!フン!オラオラドラドラ!」


飛び掛かる狼を一匹一匹殴り吹っ飛ばしていく。ったくキリがない。










 夜。アリマの家を抜け出し、橋で待ち伏せをしていた。


したら、遠くから赤い光の点が幾つも近付いてきた。闇の中でそれは、それらは、整然として近付いてきた。一匹狼という言葉を完全無視した隊列を組んで、ぞろぞろと近づいてきた。


「ったく!多すぎんだろうがっ!」


予想外に多かった。マジかよ。


訳も解らず魔王から人間になって、そしていきなりの初陣がアリマを囲んでいた狼。次が狼の大群………。


「レベルいきなり上がり過ぎだろーーーーー!」


叫ばずにはいられない。




ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ狼ぞろぞろ狼ゾロゾロ


群れじゃねぇ。10匹規模だと思っていたのに出てきたのは100単位。大群勢だ。嘘だろー。


そうしている間にも狼は橋に近寄って来る。赤い目を異常にギラギラと輝かせ、牙を剥き出しにして、涎をダラダラと垂らし、目の前を行く者全てを食い荒らさんばかりの殺気。


 一晩これを相手にするのはきっついな。


「ウガッ」


先走る一匹が俺に飛び掛かってきた。


「でも、やるっきゃねえんだよな。」


そう言いつつ鼻に一撃かます。


「キャイン」


軽く一撃、傍からはそう見えただろう一撃は狼を数メートル先に吹っ飛ばした。




『魔法体術』




前の世界で使われていた技術だ。


魔力を体表ギリギリに留め、それを高速で循環させる技術である。魔法の応用でありながら己の肉体を強化する体術であり、身体能力より肉体の強度を上げる方に重きを置いている。


あくまで留め、循環する技術なので魔力消費はゼロに近い。


「つまり持久戦にピッタリの技術ってこった。」


殴り、蹴り、投げ、突き。橋に渡ってきた狼を一体一体確実に吹き飛ばしていく。


迫る爪を避けつつガラ空きの脇腹に蹴りをぶち込み、近くにいたもう一匹に当てて巻き添えを喰らわす。


しかし、そうしているうちにも匹が橋を抜けようとしていく。


「させるか」


蹴りで足を上げた状態のまま、つまり、片足のまま拳をねじ込む、が、片足故に浅かった。


「ウルギャァ!」


激昂した狼が牙を剥く


ザクッ


 咄嗟に腕で庇ったお陰で喉を掻き切られずに済んだ。が、魔法体術越しとはいえ右腕に噛み付かれた。


 「クソ、火球ファイヤーボール


 多いとは言えない魔力を使い、噛み付く狼の腹に向けて今日最初の魔法を使う。


火球ファイヤーボール。最もポピュラーな炎魔法。闇の中に赤い光が現れ、右腕から狼が離れていく。


「痛ッ、クソ、思ったより消耗が激しいな。」


魔法が使えなくもない。しかし、然程威力は出ない。まぁ、不幸中の幸い。狼は死んではいないようだが…。


 「さぁ!さぁさぁさぁ!ドンドン来い!」
















おかしい…。


今の俺は弱体化している。体術も魔法も最低限。間違いなく弱い部類だ。それが証拠に疲弊し、あちこちから出血している。「なるべく殺さないように」なんて考えるまでも無く、今の俺にうっかり殺すなんてことは無い。


一時間が経った。何匹も何匹も、倒し続けた。未だ減る様子は見えないが、狼の大群の流入は阻止している。


本来、これだけの戦力差で互角でいられるのは数分~十分。


それなのに、一時間経っても防げている。


その理由は簡単。こいつらが弱っているからだ。


先刻使用したファイヤーボールに照らされて見えた狼の体には無数の線状の傷や毛皮の焦げた跡があった。おそらく毎晩闘っている誰かから受けたものだろう。この場合あの村長を先ず思い浮かべた。


しかし、彼には魔法の素養が見られなかった。つまり、彼はおそらく魔法を使えない。


 それに何より、特徴的な糸のようなもので斬った傷に見覚えがあったのだ。


「なぁ、居るんだろ?出て来いよ。ドクジェイ」


後ろの草むらがガサゴソ音を立てて何かを出した。


「へー、お兄さん。鋭いんだね。どうして僕だって分かったの?」


「昼、お前はこう言ってたろ。『村を襲う狼は灰色だ。』なんで夜中にしか出ない狼の色を知ってんだよ?」


「村に来た狼をチラっと見たのさ。」


「夜の松明程度の明りの中、人間は灰色なんて色、見分けられねーんだよ。」


そう、人とは魔人に比べて不便な生き物なのだ。暗闇は人から目の全てを奪う。更に、


「さっきの狼、特徴的な糸状のキズがあった。糸の形状の魔法を使って出来たキズだ。俺は、それを見たことがある。」


 見たことがある魔法。そして闇の中、灰色なんていう目立たない色を判別できるのは…


「お前、俺と同じ異世界からの魔人だろ。」


「あぁ、やっぱりそうでしたか。お名前を訊いても?」


あっけらかんとしてそう訊いてきた。コイツ…。


「魔王だ。」


「へ?」


「魔王だ。」


「マオウさん。て言うんですね。変わった名前ですねぇ。」


「オイこら。何処のファストフード店員さんだよ?魔王だよ。お前俺の右腕だろ?なぁ?ドクジェイ、いや、魔王国国王補佐兼秘書のバトラー君。」


「え、なんでバレてるんです?え?右腕?え…本当に魔王様?」


「これを見て、まだ言えるか?」


『魔王スキル:魔王の刀匠ブラックスミス発動』


魔王の専用スキル。専用の武器作成の能力であり、使い手の精神を投影する。持っている人間の目印。まぁ、コ〇ラにとってのサイコ〇ン的なものだ。


 これによって出てくる俺の武器は………………竹刀だ。


 目の前の少年はそれを見て固まった。


「我らが王、マジすいませんでした。おひさしゅう御座います。」


「で、お前、何やってんの?そんなカッコして。」


右腕のショタ化に流石に目が点になった。


「イェ…、実は、私…人間になってしまいまして…………。」


バトラーよ、お前もか。


そうこうしている間に狼はまだまだ来るのだった。


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