魔王→人間
風の音が聞こえる、体が重い。周りの音が聞こえるが、目を開けるのが億劫だ。
が、いつまでも寝てるわけにはいかないだろう。
体を起こすとそこは森だった。俺が寝ていたのは木々の生えていない少し開けたところだった。
とりあえず魔法は成功したらしい。ただ、見まわしたところ全員同じ場所に飛ばすことには失敗したらしい。まぁ、いいか。空からサーチ&デストロイすれば一発だろう。
「ジュワッチ!」
光の戦士風掛け声と共に空が近くなっていく………筈だった。
「………………………………あれ?」
自身の飛翔能力+強化魔法の強化飛行で大空へ行く筈が、片手を上にあげた状態で直立不動する男が森にぽつん。
「飛べない?魔法が使えなくなった?」
というか、翼がまず動かない。感覚が無くなってしまったようだ。手で触ってみても感覚が無い。というかあれ?翼が無い。
「え?え?あれ?体が、あれ?」
体を見て重大なことに気付いた。
「人間になってる?」
魔王は異世界で人間になっていた。
あ、申し遅れた。
私は魔王、イヤ、「元」魔王のサタノフォビアさんだ。
今迄の経緯を説明すると、異世界転移しました。
元の世界でちょっとやらかし、そのままそこに居たら不味いので、元の世界に似た異世界にちょっと跳びました。
元の世界の俺の国の住人全員をまとめて。一緒に跳びました。
この規模のトンデモ魔法を使って失敗したらどうなるんだろうか?最悪失敗して爆死すんじゃないか?とも考えたんだが…。まぁどっかには跳んだらしい。
で、まぁよく似た世界に是認無事に辿り着いた筈なんだが…
「嘘だろ?失敗したのか…。ハァ、皆を探すのは直ぐには無理かぁ。」
青年…つまり俺だが、彼は森を出るために歩いていた。
あの後、人間になった俺は、純粋に飛行魔法を使おうとしたのだが、失敗した。翼だけでなく魔法も殆ど使えなくなってしまった。感じからして、初期勇者パーティーの魔法使いが使える魔法くらいしか使えまい。
多分人間化もこれも、トンデモ魔法の副作用だかの所為だろう。あー!メンドクサ!
と、いう訳で今まさに歩いて人の居そうな所へと向かっている。あーあーあー。
渋々歩いて森を抜ける。光が指してきた。やっと抜けるぞー。
視界が開けた瞬間、ダッシュした。急げ、間に合わなくなる。
いきなり何だ?と思っただろう。しかし、目の前の光景を見て誰もがダッシュの選択肢を選んだだろう。
地面に座り込んだ男が居た。そしてその周りを狼が囲んでいた。
つまりは…男が襲われていたってことだ!
「ウオォォォォォォォイ!待てコラァァァァァァァァァァァァ!」
重い体を無理矢理動かして駆ける。魔王時に比べて遅い。クソッ、間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇ!
狼の牙が男に迫る。あと10m、9m、8m、
足が前に出ない、飛び道具?生憎無い。魔法での牽制…無理だ、発動に時間がかかり過ぎる。クソ、クソ
クソ、クソが!
間に合わない。男の首に牙が掛かるその瞬間、
届いた。
自分でも気付かぬ間に届いた手。それを固く握りしめ狼に叩き込む。
「ぶっ飛べオォォルァァァァアアアアア!」
牙より先に拳が狼の横顔にクリーンヒット!狼が宙を舞う、「キャン」と小さく叫ぶ鳴き声。
「かかって来い!」
殴られた狼、それを見た他の狼は俺の気迫に押されたようで、すぐさま立ち去って行った。
「ドゥアイジョーーブ?御仁?」
「は、はい。ありがと…うございます。そちらこそ…大丈夫ですか?」
「エ?ナにが?」
男の怯えるような、戸惑うような眼は、俺に向けられていた。おかしいな。少し呂律が回っていないけど、今は人間の体な筈だ。そんな不味いものは………………………………あれ?
そう、間に合わないはずの魔王が男を助けられたのには理由があった。彼の、魔王の持つ固有スキル、『魔王スキル:王の速歩』が発動したからだ。
このスキルは単純。魔王が「フ、遅いな。」と言って高速移動する勇者の背後に回り込むためのもの。つまりはただの高速移動スキルだ。
ただ、あくまで体を速く動かすだけ、その際の肉体への衝撃は対策がされていない。つまり、
魔王ではない、人間の貧弱な体でやれば確実にボロボロ確定である。
狼から男を助けた見知らぬ男は血塗れのまま、倒れた。
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