第168話 Re:Re:効果測定

「やったぞ!」

 武装短艇の中隊長の一人がさけんだ。


 今回涼井が用意したのは、以前に開拓宙域においてカジノ惑星といわれた惑星モルトの武装短艇隊を参考に改良したものだった。


 高速・高機動はそのままに質量弾をそれぞれが4発積んでいる。

 自衛火器としてはむしろ口径を小さくし、反物質構造体も減らした。

 これで行動半径は減ったがもともと普段は空母に格納されて輸送される短艇だ。問題はないと涼井は思っていた。


 各空母につき20隻の武装短艇。地球でいうところのちょうど中隊スコードロンクラスだ。それでも500隻はいる空母から発艦すれば500個中隊10000隻となる。

 それぞれが4発、質量弾を放つことができれば40000発撃てる計算になる。


 もちろん空母に機関し補充が間に合えば何度でも積んで攻撃できる。

 

「ぬうううう! とにかく撃ちまくれ!」

 グリッテル中将の指示でニヴルヘイム艦隊は火器を動員した。

 虚空に無数の小口径の質量弾と光線が放たれる。


 武装短艇はその火力をかいくぐるようにして、抱えた質量弾を宇宙空間での戦闘にしてはかなりの至近距離で放った。光学照準も可能な距離だ。


 次々に武装短艇は抱えた質量弾を放った。

 それらは巨艦に次々と命中する。高速で飛来する質量弾が巨艦の障壁に干渉する。

 支えきれなくなった質量弾は装甲にめり込む。


 共和国や帝国の艦と違い、すぐには効果は出ないが何発も当たれば破壊される。


 また一隻、ニブルヘイム艦隊の巨艦が青い光を放ちながら破壊された。

 爆発の衝撃で武装短艇が数隻消滅する。


 メインモニタを眺めながら涼井はどっかりと腰をおろした。

「まだ読めないが……どうやら勝ったな」

「ですか?」

 とリリヤ大尉。


「あぁ……たぶんな」


 ニヴルヘイム艦隊の態様は不明だったが、もともと銀河間を航行できるほど加速をし続けることができる艦となると、きわめて巨大な艦なのではないかとは予想していた。そして示威のためにやってきたグリッテル大佐(当時)の艦のサイズは予想通りだったのだ。

 

 その際に気になったのは砲塔だ。

 非常に巨大なサイズで、大口径砲から放たれるのが質量弾だとすると、下手をするとこちらの艦は一撃で破壊される可能性があった。そのように共和国の"技術者"たちは分析した。


 そしてもしもニブルヘイム銀河の襲来の時期が予想よりも早かったとしたら……

 

 当時、涼井は戦慄した。

 この世界の技術は発展や革新のためにあるのはなく、現状を維持するために存在していた。

 地球の技術とは比べ物にならない巨大な構造物を惑星に作り、テラフォーミングを行い、そして恒星間を悠々と移動する。しかし人間はその実務能力のほとんどをAIにゆだね、研究による技術の向上はほとんどなかった。

 そのためこの世界では軍事技術の発展もほぼなかった。


 ゆえにこちらも巨大な艦を新規に設計するという施策は難しかった。

 そこで涼井は逆を行くことにした。


 正面からぶつかれば破砕されてしまう巨大な艦艇が相手なのであれば、こちらはむしろより小さく当たりにくくしてはどうか。目標が小さく相対的な価値が低ければ相手の大質量弾はかえって無駄弾になる。


 地球の戦艦の主砲で漁船を改造した監視船を攻撃するようなものだ。

 

 そして新規の設計や開発は難しくとも多少の改良や改造はどうやらこの世界の住人達でもできるようだった。最初は駆逐艦を大量に準備することも考えたが、いくら駆逐艦や哨戒艇といってもそこそこの大きさがある。

 

 そこで涼井はローカルフォルダのオフィスソフトに打ち込んだ様々な戦果や戦績を何度もひっくり返し、最終的に目をつけたのが開拓宙域での戦いの際に、傭兵艦隊ヤドヴィガに対する戦果をあげていた惑星モルトの傭兵隊……武装短艇隊だった。

 

 これまでも空母に乗せた武装短艇隊は牽制や追撃、時には偵察などで使われることはあったが艦隊戦上はあくまで補助的な装備だった。

 

 涼井は武装短艇に攻撃力を与えるべく質量弾を搭するよう改造し、惑星モルトの傭兵隊の生存者たちのうち希望者を共和国軍に編入、主に訓練を担当させた。

 

 もちろん通常の駆逐艦や巡洋艦は機動力も高く。そう簡単に効果が出るわけではなかったが、巨艦には特に効果があるのではと涼井は考えた。相手が巨体を生かした攻撃をしてくるのであれば、逆にもっと小さくなってしまえばよい。

 元寇で押し寄せる元軍に対して小舟で夜襲と奇襲で競り勝った鎌倉武士が念頭にあった。



 さらにもう1隻巨艦が四散した。

 グリッテル中将は叫んだ。

「て、撤退! いや反転だ……!」

「では第3フェーズに移行」

 グリッテルの声が聞こえたわけではなかったが、涼井は冷然とそう伝えるのだった。

 

 

 



 

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る