第167話 Re:効果測定
武装短艇隊。
それは空母から発艦する小型の戦闘艇の群だ。
これまでは20mmの光線くらいしか積んでおらず、いざという時の牽制くらいが任務だった。
しかし高速で機動し、身軽であるという点に涼井は目をつけていた。
21世紀の地球でも空母から発艦する戦闘機・戦闘攻撃機などは戦力投射の要といってもいい存在だ。
涼井はこれに目をつけ、ベースは通常の短艇と変わらないが、20mm機関砲に加え、質量弾数発を撃てるようにし、リアクト機関も多少強化して機動性を増した。
この世界の住人たちはあまり新しいものを作ろうとはせず、帝国などとの戦争も数次にわたり行われてきたが、あまり兵器そのものの改良や戦術の進化などは起きていなかった。しかしそのように依頼すると案外素直にやってくれる。
「本当に不思議な世界だ」
涼井の目の前のメインモニタには発艦準備を整えつつあるリシャール艦隊の空母群が視覚化され表示されていた。
空母群は態勢を整え、側面についた発着口をニヴルヘイム艦隊のほうにむけつつあった。そのため空母群はいつも発艦の際に陣形と違う動きをしていた。
これも改良の余地がありそうだったが、今はそこまでの準備はできない。
「リシャール艦隊の武装短艇隊、発艦準備できました」
オペレーターが声をあげる。
「公爵のタイミングで発艦してくれと伝えてくれ」
「了解!」
リシャール公の艦隊は囮として前進した10000隻ほどの艦艇の背後で準備を完了したようだった。空母側面の発着口から次々に武装短艇が吐き出された。500隻ほどの空母から10000隻ほどの武装短艇が出撃する。空母1隻につき20機ほどで編成された1個武装短艇中隊が搭載されていた。
「経過がよければ、その他の艦隊からも空母からの武装短艇隊発艦準備と伝えてくれ」
「はっ」
ニヴルヘイム艦隊の全面に立つリシャール艦隊の背後で、
アリソン中将、リアン中将のそれぞれ17000隻、ササキ中将の第2艦隊、オーズワース中将の第4艦隊も隊形を変更する。
いまのところは囮艦隊がそのまま防壁となっている。
ニヴルヘイム艦隊も予想外の事態にパニックに陥っているように見えた。
攻撃は続行しているのだが、重流体金属を
時折大質量弾が直撃するが、艦体をつらぬいても破壊しきれず、威力が弱まり明後日の方向へと弾体が浮遊していく。
「いったい何が起きているんだ」
ニヴルヘイム艦隊のグリッテル"中将"は焦った声を出した。
彼はすっかりパニックに陥っていた。
大質量弾で攻撃し、明らかに相手の前衛を破砕したはずだったが、その陰から引き続き相手の攻撃が飛んでくる。
「閣下……」
ニヴルヘイム艦隊のオペレーターがおそるおそる発言を求めた。
「ええい、何だ!」
「大質量弾の残段数が各艦10発を切っています。光線での攻撃に変えますか? 小口径の質量弾はまだありますが……」
「な、何だと!」
グリッテル中将はこめかみに血管を浮かび上がらせ、吐き捨てるように叫んだ。
「馬鹿な馬鹿な!」
「しかし……ご命令通り撃っているとこうなりますが……」
「何ということだ!」
ニヴルヘイム艦隊は補給艦を伴っていない。
ひとつひとつが全長10000mに達する巨艦であり、兵装や推進剤はそれぞれの艦に収められている。しかしさすがに銀河を往復するに足る推進剤を積んでいると、弾薬などが割りを食ってしまう。
そして攻撃力の高い大質量弾はさすがにそうたくさん積むわけにはいなかなかったのだ。
「やむをえん、まだ小口径の質量弾はあると言ったな?」
「それはまだかなりあります」
「それも撃ちまくれ!」
「しかし……いざというときに脱出する際に使いませんか?」
「我々に敗北はない、とにかく撃て」
「閣下!」
別のオペレーターが声をあげた。
「今度は何だ!」
「敵の……小型の艦隊が高速接近中!」
「小型の艦隊とは何だ」
「おそらく降下艇レベルの小型船です」
「どういうことだ」
「わかりません……重力子の分析によると、おおよそ10000ほどかと……」
「意外に多いな……ちっ、そちらにも撃ちまくれ!」グリッテル中将が叫ぶ。
「はっ」
ニヴルヘイム艦隊にむかって囮艦隊を迂回するように武装短艇隊は殺到した。
そちらにむかって小口径の質量弾が放たれる。
数百の武装短艇が破壊されたが、残りはそのまま向かってくる。
「効果があまりありません!」
ニヴルヘイム艦隊のオペレーターが叫ぶ。
「ちっ」
グリッテル中将は舌打ちした。
武装短艇のように小型で高機動の目標に質量弾は効果が薄かったのだ。
かなり近距離まで接近した武装短艇隊はさらに迂回機動を行い、ニヴルヘイム艦隊に向かって一斉に抱えていた質量弾を放った。
その直後、巨艦のうち1隻が凄まじい爆発を起こした。
それはリシャール艦隊からみて、下手をすると肉眼でも観測しうるほどの大きさだったのだった。
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