【決算】三カ国会戦
アルテミス宙域から侵入した帝国艦隊25万隻は怒涛のような進撃を開始した。
ミッテルライン公カルヴァドスの率いる6万隻ほどの艦隊がヴォストーク元帥率いる3個艦隊と対峙。激しい砲撃戦を繰り広げた。
同時にスワンソン伯爵率いる7万隻がアレス、ヘスティア、ペルセポネ宙域など中央部分を解放した。各地で抵抗を続けていた共和国軍の残党が友好国の艦隊を歓迎した。スワンソン艦隊の進撃に伴い、いまだ抵抗活動を続けていた共和国の最後の正規艦隊であったファヒーダ提督の艦隊が合流、物資の補給を受けた後に共に首都惑星ゼウスへと進撃した。
帝国皇帝リリザは自ら12万隻を率い開拓宙域へと進撃。
暗礁宙域に深く入り込んでいたロストフ連邦臨時総督府の艦隊を、涼井の艦隊と挟み撃ちにした。
「ば、バカなバカなバカな!」バルカルは絶叫した。
「ひ、ひえぇぇー!」
そのまま側に控えていた共和国大統領のオスカルの首根っこを捕まえて締め上げた。
「貴様が! 要請しない限り帝国は動かないのではなかったか!」
「ちょっと違ったねぇ……あ、ちょっと待……」オスカルはぐったりとした。
バルカルは失神したオスカルを艦橋の床に投げ捨て、戦況図を睨みつける。
惑星ランバリヨンに向け、暗礁宙域奥深く入り込んだ臨時総督府の艦隊は、どこにも出口がなかった。あるいは複数のブラックホールが織りなす危険な宙域を抜けるか、成長しきり、今にも超新星爆発を起こしそうな恒星群に突っ込むかしかなかった。
後方からリリザの艦隊になだれ込まれたタマーニュ元帥の第一梯団は崩壊しつつあり、じりじりと後退しつつあった涼井の艦隊も反撃に出てきていた。
「くそっ! 円陣を組め! 徹底的に抵抗して勝機を見出すのだ!」
バルカルの指揮で何とか残存艦隊が集まり球形の陣形を作った。
戦艦や重巡洋艦を球の表面に出し、防御体勢をとる。
しかし防御のため艦隊を集中したがゆえに、かえって涼井艦隊とリリザ艦隊の合流を招いてしまった。さらに暗礁宙域の航行の自由をある程度確保したため、リアン提督の率いる海賊、傭兵艦隊をあわせた"ほとんど海賊艦隊"、ササキ少将の予備艦隊も集まってきて集中砲火を叩きつけた。
さらに涼井がランバリヨンの整備とともに集積していた大量の質量弾が帝国にも供与され、まさに袋叩きとなった。ロストフ連邦臨時総督府艦隊は必死の抵抗を続けたが、その中でたまたま火線が集中し、タマーニュ元帥が戦死した。
その報が駆け巡ったことによって臨時総督府艦隊は混乱のるつぼに叩き込まれた。
バルカルはそれでも臨時総督府艦隊を率いて包囲を食い破ろうとうごめいた。
しかしそのたびにリリザが的確な指揮でその鼻先を撃破しバルカル艦隊を封じ込めた。
数の上では涼井、リリザ艦隊、その他の艦隊をあわせおおよそ17万隻。
それに対して臨時総督府艦隊は12万隻。対抗できなくはない数だったが、涼井を早く追い落とそうと無理したため、臨時総督府艦隊は質量弾をかなり使い果たし、強引な進撃で主力の艦艇が多数傷ついてしまっていた。
バルカルは粘り強く戦ったがその差はだんだんと表面にあらわれてきていた。
「閣下! 通信が入っています」
「何だ! 誰からだ!」バルカルが血走った目でオペレーターを睨んだ。
「ス、スズハルからです」
「ちっ! つないでみろ!」
バルカルの目の前に涼井の像が投影された。
さぞかし勝ち誇っているであろうと考えていたが、しかし現れた涼井はむしろ沈痛な表情をしていた。
「……スズハルか」
「……バルカル
スズハルは同情ではなく、ただただ沈痛な表情を浮かべてバルカルを見つめた。むしろ敬意がこもっているようにさえ見えた。
「何の用だ」バルカルは吐き捨てた。
「さきほど通信が入り、ロストフ連邦首都惑星ロストフは制圧。そして同時に共和国でもヴォストーク元帥は降伏し、首都惑星ゼウスは陥落したそうです」
「……早いな」
「降伏しませんか」
バルカルは冷笑を浮かべた。
「降伏するとでも?」
「もちろんそうは思いません。しかしながら選択肢としては検討しても良いのではないでしょうか?」
「……」
スズハルは、もしも降伏した場合のメリットとして高級士官としての手厚い捕虜待遇、いずれ本国への帰還などの話をした。そして受け入れた場合の名誉が地に落ちるなどのデメリットも遠慮なく開示した。しかしそれは重要なことだろうか。身の安全より良いものはない。そのように懇々と説得した。
バルカルは長いため息をついた。
「……どのみち包囲を食い破ってもいく先はなさそうだな」
「デメリットと批判を甘受しても降伏されたほうが最終的には良いと思います」
「わかった……正直もっと勝ち誇られるかと思っていたよ」
「悪いようにはしないと約束します」
バルカルは降伏を受け入れた。
そしてロストフ連邦は首都惑星を逆に陥落させられれ、共和国は首都が解放された。ここにロストフ連邦による侵略から始まる長い戦役にようやく一区切りがついたのだった。
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