【企画内容】涼井の仕掛けの全貌

 少し前にさかのぼる。

 憲兵中佐のロブ、そして海賊のアイラとローランは旧共和国領への潜入に成功していたが、何と憲兵中佐のボブ・・とそのスタッフとして臨時総督府そのものへの潜入に成功していた。


 そしてそのロブはロストフ連邦臨時総督のバルカルの信頼を得るとともに、前大統領のオスカルが停戦条約を締結しにあらわれるという情報を送ってきたのだった。


 涼井はロストフ連邦に攻撃をさせたい事情があった。

 そのため「オンボロな様子」をみせて停戦条約の締結ではなく、共和国に駐留するロストフ連邦の野心をつつくことにしたのだった。


 それからは突貫作業だった。


 涼井たちのヘルメス・トレーディング社の本拠地となっているランバリヨンは今や何期もの工事を重ねた軍事拠点として十分なレベルに到達していた。また以前に偽装企業として使っていたペルセウス・トレーディングの下に作った廃棄業者のペルセウス・デモリションとグレッグ社長が暗躍し、オスカルの軍隊削減計画に乗じて大量の艦艇をひきとり全て開拓宙域に流した。


 かつてチャン・ユーリンの叛乱などに対応するために増員した急増の艦艇で未廃棄のものもあったため、どんどん開拓宙域に密輸し、涼井の艦艇は10数万隻に達していた。


 リシャール公にお目付役の旧共和国軍人をつけてロストフ連邦攻略は任せ、オスカルに偽情報を流すために、惑星ランバリヨンの中でも旧式の軍港をさらにオンボロな雰囲気にし、そこからオンボロな気密式トロッコで旧市街にあるホテルまで接続した。

 2000隻のオンボロ艦隊は海賊たちがかき集めた。


 廃棄予定の商船に偽砲塔を乗せるなどの工作を行い、オスカルには「精一杯虚勢を貼っている雰囲気」を演出するようにした。


 とにかくオスカルが見る範囲を限定し、彼が見聞きできる範囲では涼井一味は「無理してロストフ連邦に攻め込んだが息切れしている」感じを出せるようにしたのだった。


 バークの総指揮でヘルメス・トレーディング社の総力をあげて演出を練った。

 艦隊はオンボロでも旧共和国軍人が威儀をただしていると、よりそれっぽくみえるというのはロッテーシャのアイディアだった。


 オンボロ艦隊2000隻で陣形を組むことによって、新造の軍事衛星や惑星ランバリヨン上の多数の反応炉などを覆い隠すというのはササキのアイディアだ。

 リシャールたちロストフ連邦本国組には連絡艇を飛ばして重力子通信を中継し伝えたが、この面白い試みに参加できないのを悔しがっていた。


 惑星ランバリヨンの旧式軍港はもともとオンボロだったが、下手に要塞群などが見えないようにカキワリなども使い、トロッコの路線の一部は経年劣化を再現する形で密輸業者などを動員した。


 その結果がオスカルによる報告につながり、無事にロストフ連邦の攻撃を誘引できた。しかし主力がロストフ連邦本国に侵攻しているため手持ちの艦艇は36000隻ちょっとにすぎない。


 そのためランバリヨンの暗礁宙域を再度利用することにし、スズハル直接指揮の元、防御体勢を構築した。念の為、亡命組のリアン准将に傭兵艦隊のヤドヴィガ、マトラーリャの残存艦隊と海賊をあわせ指揮させ10000隻ほどの予備隊を編成し、開拓宙域を遊弋している。


 ランバリヨンを目指しロストフ連邦の臨時総督府艦隊が突っ込んできたのは予定通りだが、涼井にしては珍しく劣勢の状態で勝負に持ち込んだ形勢だった。


 ササキ少将に12000隻を指揮させ遊撃隊とし、残りの艦艇で猛烈な防御戦闘を実施した。ロストフ連邦臨時総督府艦隊は4個艦隊44000隻、こちらは36000隻、劣勢ではあるが地形を利用し防御に徹し、さらにここ数ヶ月の準備で持ち込んだ大量の質量弾が効果的に機能し局地的には優勢にたった。


 オスカルの提案を信じはるばる開拓宙域までやってきたバルカル率いる臨時総督府の艦隊がぶつかったのは、この状態の涼井の艦隊だったのだ。


 艦艇と艦艇が全力で火力を放ち正面から激突した。

 砲戦に向いたぎりぎりの距離だったが、ロストフ連邦第一梯団のタマーニュ元帥は慎重になった。事前の情報と違うのに驚いたのもあるが、これまで圧倒的な物量で勝ってきた涼井があとどれだけの兵力を持っているか不明だったというのもある。


 そのためこの宙域を光線や質量弾などの火線が満たしていたにも関わらず、双方の艦隊は大きなダメージを受けることなく泥沼の火力戦になっていた。


「提督! 相手は現在は慎重ですが数は相手のほうがかなり多いようですぞ」

 久々に提督席に座った涼井の背後でバークが話しかけてくる。

「少なくとも防御や遅滞戦闘はできますが、いずれは押し切られるでしょう。リシャールたちの艦隊がもどってくれば別ですが」

 

「うん、ここを防ぎ切るのが重要だ。しかし、それにしてもどっぷりとこちらの攻撃にハマってくれたようだな」

 涼井は余裕のある表情でメインモニタを見つめた。

 戦況図が表示されている。おおむね敵は2個梯団で、臨時総督府はほぼ全力を集中してきたことが解明されていた。


 涼井はその様子をみながら次の指示を下した。

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