【新企画】ロストフ連邦臨時総督府の反撃
ロストフ連邦の共和国領臨時総督府はスズハル一味が相当無理をしていると判断し、停戦協定どころか開拓宙域に対してさらに逆侵攻することに決定した。
ロストフ連邦本国との連絡がほぼ絶たれた今、全権を持つバルカル大将はすぐに侵攻作戦を立案した。
第一梯団 タマーニュ元帥(昇進)4個艦隊
第二梯団 バルカル臨時総督 元帥(自称)6個艦隊
開拓宙域は補給に不安があることから短期決戦を目指した。作戦といっても圧倒的戦力差があると信じているので、おおまかには開拓宙域に雪崩れ込むだけだ。ヴォストーク元帥は警戒のために4個艦隊を預けられ旧共和国領土に残ることになった。
臨時総督府の艦隊はアルテミス宙域付近で集合し、決められた順番ごとに順次発進していった。アルテミス宙域から先は帝国領だが、帝国は国境に艦隊を増やしているという情報はあるものの動く気配はなかった。
臨時総督府艦隊は渦状銀河の腕から発信し、虚空へむけ進んだ。
開拓宙域が徐々に近づいてくる。開拓宙域は渦状銀河のディスク面からみてやや垂直方向にある星団だ。ロストフ連邦は銀河商事と組んでこの開拓宙域を搾取することで富を得てきたのだ。
銀河を背にして開拓宙域を見ると、そのさらに向こう側は完全な虚空だ。その先にも星はきらめいているのだが、それらは遠くの銀河や星雲、独立した恒星などだった。恒星間航行は技術として確率されているが、銀河から銀河へと渡る技術はまだ確立されておらず、200年ほど前に冒険家が別の銀河へ向けて旅立って消息不明となって以来この世界の人類は探検を諦めてしまっていた。
臨時総督府はその壮大な宇宙空間を抜け、ヴァイツェン宙域へ殺到した。
ここから先はエール、ランバリヨンなどの開拓宙域の辺縁部だ。
そして予想通りヴァイツェン宙域にはスズハル一味の艦隊が待ち受けていた。
「惑星系に重力感知! 10000隻ほどです!」臨時総督府艦隊のオペレーターが声をあげた。「メインモニタに映します」
提督席に座るバルカル元帥の目の前に拡大された敵艦隊が表示された。
10000隻ほどの艦隊が防御の陣形をとっていた。しかし動揺しているのか陣形が乱れているようだった。
バルカル臨時総督は鼻を鳴らした。
「思ったよりも多かったが……所詮はこの程度だな。よくかき集めたものだが我々の戦力とは比較にならん」
タマーニュ元帥から指示伺いの通信がきていた。
「構わん! 一蹴しろ!」
タマーニュ元帥の率いる4個艦隊44000隻は一斉にリアクト機関の青い光をたなびかせながら攻撃前進を開始した。スズハル一味の艦隊はさらに動揺したようで陣形を崩し、我先にと逃げ始めた。
「追え! 追うんだ!」
「……罠だったりはしませんか?」タマーニュ元帥からの通信が入った。
「仮に罠だとしても食い破ってしまえばいのだ。ランバリヨンまで一気に追い詰めてしまえ」バルカルは唾を飛ばして指示した。
「はっ」
スズハル一味の艦隊は想像よりも迅速に逃げ、ランバリヨンにいたる暗礁宙域に高速で入り込んだ。ここはヤドヴィガを率いた銀河商事のトムソンが小規模な戦闘で敗れた場所だった。バルカルは構わずにタマーニュ元帥の艦隊を突っ込ませ、自身は暗礁宙域の手前に布陣して勝利の報告を待った。
ここでスズハル一味を一掃しておけば一気に開拓宙域を通ってロストフ連邦本土に逆侵攻できる。そうすれば救国の英雄だ。自称でつけた元帥の階級も本物になるだろう。むしろ最高位である書記長の目も見えてくるはずだった。
バルカル臨時総督はその時の栄誉を夢想しながら個室に戻ってゆっくりと一人で食事をとった。部下にも交代で休むように指示を出し、次の侵攻に備えて一部の艦隊に対しヴァイツェン宙域などでの徴発を実施するように準備をしていた。
しかし勝利の報告はこない。
業を煮やしたバルカルは提督席に戻り、タマーニュ元帥に重力子通信をつないだ。
「何をやっているのだ!」
画面には困惑したような表情のタマーニュ元帥が浮かび上がった。
「それが……」
「何だと?」
暗礁宙域に殺到したタマーニュ元帥の梯団は1個艦隊づつ縦長の陣形となって侵入していた。そこに猛烈な火力が叩きつけられ前進が停止してしまったとのことだった。
「まだ連中に戦力がいたのか?」
「どうやらそのようです」
「どのくらいだ? 数千か? 1万か? スズハルたちにはそんな戦力はないと共和国の前大統領オスカルが言っていたぞ!」
「少なくとも1万から2万」
「何だと!」
バルカルは提督席からずり落ちた。
数万?
ロストフ連邦本土に侵攻した戦力は何だったのだろうか? それが戻ってきたのだろうか?
「とにかくこちらの第一梯団に匹敵する火力で攻めあぐねています。まだ時間はかかります」
「わかった。こちらの戦力の方が総合的にはかなり上のはずだ。無理な戦力分散をしているスズハル一味を各個に撃破するチャンスだ。ぬかるな」
「はっ」
バルカルは指の爪を噛んでメインモニタの戦況図を睨みつけた。
彼の栄誉に暗雲が漂っているのを彼は感じていた。
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