【緊急事態】共和国強襲作戦

 ロストフ連邦は共和国辺境から侵入し、ヘラ宙域に艦隊を侵攻させた。

 ロストフ連邦は正規艦隊をいくつかの集団にわけているようだった。


 真っ先に共和国領土に入り込んできたのは4個艦隊を率いるヴォストーク元帥だった。ヴォストーク元帥は前回、涼井たちに撃退されたため復讐に燃えていた。


 本来の共和国の配置としては、アルテミス宙域に大規模な方面艦隊、ヘラ・ハデス宙域にも遊撃的に第12艦隊が置かれていたのだが、それはすでに軍備削減のために撤去されていた。


 ヴォストーク元帥のA集団は特に邪魔されることなくヘラ・ハデスの両宙域を制圧した。辺境の惑星に駐屯していた僅かな地上軍はあっさりと白旗をあげて降伏した。


「なんじゃつまらんのう! 前回はもっと歯応えがあったんじゃがな」

 恰幅のよいヴォストーク元帥は腹をゆらしながら白髭をいじった。

 

「このままだと我らA集団・・・だけでかなり侵攻できてしまうのう!」

 事実ヴォストーク元帥は少数の艦艇を残し、快進撃を続けた。途中で遭遇した少数の偵察部隊や分艦隊を簡単に蹴散らして辺境からさらに奥地へと入りこんだ。


 そのあたりはアポロン宙域と呼ばれる領域だった。

 帝国との接続地域であるアルテミス宙域とも辺境のヘラ宙域・ハデス宙域とも接続している重要な拠点の1つだった。


 ヴォストーク元帥の艦隊群がアポロン宙域の惑星系の外縁部にさしかかった時。

 ちょうど巨大なガス惑星の付近を通過しつつある時に、ガス惑星から猛烈な射撃を受けた。


「おっ」

 ヴォストーク元帥は目をぎらりとさせた。

 武勇を重視する彼にとっては、ようやくのまともな反撃だ。


「よし撃て!」

 号令をかけているのは共和国第5艦隊を率いるメイ中将だった。彼は革命的反戦軍の隠れシンパで今回艦隊の司令官に起用された人材の1人だ。


 数では勝ち目がないのでアポロン宙域外縁部のガス惑星の中に艦隊の一部を潜ませていたのだった。猛烈な嵐に耐えながら待ち続け、ヴォストーク元帥が付近を通過したのをこれ幸いと砲撃を仕掛けた。


「こうではなくってはのぅ! 掟破りの惑星利用か!」

 ヴォストーク元帥の率いる4個艦隊はこの砲撃で一部損害を出したものの、さっと隊形を変更した。1個艦隊がガス惑星との矢面に立ち応戦する。


 メイ中将は当然だが待ち伏せするにあたって艦隊を分散させ、惑星や隕石群の中に艦隊を隠していた。待ち伏せそのものには成功したが、1個艦隊をさらにわけた数千ほどの数でロストフ連邦の正規艦隊4個を相手にする形勢になった。


 砲撃戦を開始したのを受けてメイ中将の別働隊もおっとり刀で駆けつけてきたが、ヴォストーク元帥はたくみに艦隊の隊形を変え、正面から共和国艦隊を打ち崩していった。


「こ、これはダメか……」

 ガス惑星は重力が大きいがゆえに相手から放たれる質量弾も若干加速される。ガス惑星の中で確かに見つけにくいが雨霰と降り注ぐ攻撃でメイ中将の艦隊はぼろぼろになった。


 メイ艦隊敗れる。

 その報告はすぐに共和国の大統領府にもたらされた。


「大統領閣下! 大変です!」

 ブライト・リン大将が大統領執務室に駆け込む。

 

「へぇ、どうしたの?」

 オスカルは昼間からデスクの上に座り酒のグラスを傾けていた。

「ロストフ連邦の侵攻です! すでに一個艦隊が敗れました」

「それはまずいなぁ、政治的に」

「政治的に?」

「ちょうど脅威が減ったから軍備削減というストーリーにしたのに、脅威が出てきたらボクの政策が間違ってたことになるよね」

「いやしかし」

「とりあえず何とかしておいて。ロストフ連邦みたいな中堅国家、せいぜい侵攻してくるにしても4〜5個艦隊でしょ? もう少し奥に入ってきたら息切れするんじゃないの。惑星には地上軍もいるし」

「それが……」ブライトは汗をぬぐった。


 ヴォストーク元帥はアポロン宙域の惑星アポロン攻略に取り掛かっていた。

 地上軍からの抵抗が激しく、思いの他時間がかかりそうだった。


 ヴォストークのA艦隊がアポロン宙域に止まっているのを共和国の偵察艦が確認していた。そして偵察艦の情報によると、ヴォストーク元帥のA艦隊に変わってロストフ連邦の先鋒になったのは3個艦隊の新手だった。

 さらにその艦隊の集団の後ろから、7個もの艦隊がまとまって進撃してくるのを偵察艦は偵知した。


 その情報にさすがのオスカルも口から酒を吹き出した。

「4個艦隊の先鋒、その後から3個、さらに7個艦隊の後詰だって!?」

「はい……宇宙軍の情報ではロストフ連邦の正規艦隊は、その数も各艦隊せいぜい11000隻、8個艦隊くらいのはずでした……」

「何かのブラフじゃないのかい?」

「確認中です。いずれにしても我々も戦力をかきあつめませんと」

「うん……とにかく何とかしてくれ。ボクの政権にミソがつく事態は避けたいからねぇ」

「はっ……」


 ブライト大将はあわてて出て行った。

 とにもかくも艦隊が必要だった。つい最近かなりの数の艦隊を現役から外し艦艇をペルセウス・デモリション社とかいう会社に任せて廃棄したのが悔やまれた。しかしロストフ連邦は今度はB集団を率いるバルカル大将は、ヴォストーク元帥以上の速度で電撃的に侵攻してきているのだった。


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