Re:【第二週】旧海賊惑星ランバリヨンでの新オフィス
対海賊プロジェクトを任された二等船団長のトムソンは、銀河商事の代表取締役であるロンバルディアが看破した通り、明らかに焦っていた。
彼は開拓宙域辺縁部で活動していた海賊のアイラやローランの顔を知っている。
その連中が海賊惑星ランバリヨンに戻ってきたということは、間違いなく海賊たちが蠢動を開始したのだろう。
そしてヘルメス・トレーディング社は海賊たちのフロント企業に違いない。
そのようにトムソンは確信していた。
戦艦アンダストラに乗り込んだ彼は、傭兵艦隊ヤドヴィガに指令を出し、惑星ランバリヨンに向かう途中で集合するように号令した。
開拓宙域に散っているヤドヴィガの船艇が三々五々、集まってくる。
二等船団長である彼が集めることができたのは、前回より少なめの1200隻ほどの船艇だったが、初めてランバリヨンに攻め寄せた時よりも遥かに数が多い。
同じ手法で反撃されたとしても充分何とかなるだろうと考えていた。
傭兵艦隊ヤドヴィガは、帝国や共和国が運用しているような大規模な補給船団は存在しないため、無補給無寄港で開拓宙域の端から端までいけるような体制ではなかったが、途中の拠点などで補給を繰り返すことで迅速な行動をしていた。
最後の数百隻の収容を行った後、トムソンの船団はエール宙域に差し掛かった。
エール宙域は開拓宙域の辺縁部とも接続している交通の要衝で、多くの開拓民がまず立ち寄る惑星エールが存在した。
恒星は主系列星で若く、そのため大規模な居住改造を必要としない惑星がいくつか存在した。物資の集積や売買の拠点でもあり、開拓宙域の外に勢力をもつ商業ギルド同盟などが監視名目で小規模な艦艇部隊を駐留させていることでも有名だった。
多数の船が行きかい、時には海賊船もこの惑星で補給をする。
開拓民の小規模な掘削船から、大規模な輸送船団までたくさんの船の航路上にあり、そこら中を船や艦艇がゆっくりと航行していた。
商業ギルド同盟は国家と国家間を中立の立場で動き回り仲介をすることで生き延びてきた勢力で、その情報力や、領土としての惑星8個を抱える戦力も馬鹿にはできない。
彼らもまた虎視眈々と開拓宙域での勢力増加を狙っている、とトムソンは思っていた。
エール宙域では、トムソンは最終の補給をするつもりだった。ここで十分な補給を行うことで、海賊惑星ランバリヨンに向かう。
今度は味方の海賊団である黒旗海賊団の全勢力を集めて暗礁宙域を掃除させ、その上で本隊としてこの1200隻がまとまって攻撃する。多少海賊船団が集まっていても数で圧殺するつもりだったのだ。
そのために補給を入念に行うつもりだった。
「船団長! 重力子感知。前方、200隻ほどの艦艇です」ヤドヴィガのオペレーターが声をあげる。
「何? まさか海賊じゃないだろうな」
「いえ……商業ギルド同盟の警備隊のようです」
「ほぼ全艦隊が出ているのか? 珍しいな、演習か何かかな?」
トムソンは眉をひそめた。
戦艦アンダストラのメインモニタに映し出されたその姿は、商業ギルド同盟がこの宙域に監視名目で駐留させている全艦隊である200隻ほどで間違いがなかった。
彼らは集合訓練でもしているように、ゆったりと陣形を整えながら恒星の軌道をめぐっているようだった。
「こちらには特に関心がないようですが……」
「まぁいい、全船団、惑星エールに接近しろ」
「商業ギルド同盟が演習か何かで全艦出ているせいか、エール宙域を通る民間船も、いつもよりは少し遠めの航路を通っているようですね。かなりの数いるようですが……」とオペレーターが表示板を見つめながら言う。
トムソンの船団は恒星系からみて直上から惑星エールに接近した。
惑星軌道上で補給を受けるつもりだった。
そのために徐々に減速しながら惑星軌道を目指した。
その刹那。
船団のうちの1隻が爆発四散した。
船団の中では比較的図体の大きい巡洋艦だった。
その衝撃とばらまかれた破片でいくつかの商船構造の船が切り裂かれて四散する。
「何だ!? 商業ギルド同盟にでも撃たれたのか?」
「ちっ違います! 多数の高速飛翔体を感知! 背後からです!」
「何!?」
続けて2~3隻の船が消滅した。
その頃になってようやくヤドヴィガのオペレーターは状況を把握した。
「背後におそらく敵! 2000隻はいます!」
「何だと!?」
「こっこれは、傭兵艦隊マトラーリャです!」
「馬鹿な!?」
傭兵艦隊マトラーリャ。
民間軍事企業では圧倒的に一位のヤドヴィガに対して業界2位の傭兵艦隊だ。
2位以下は団子状態なので気にもしていなかった。
「さっさらに側背に重力子感知! 1000隻以上!」
「そっちは何だ!」
「雑多ですぐには……おそらく海賊船の集合体です」
「海賊だとぉ!」
トムソンは絶叫した。
思わず拳で目の前のコンソールを叩きつける。
「あっ……」オペレーターが思わず声を出したようだ。
「今度は何だ!」
「商業ギルド同盟がこちらに砲撃を仕掛けてきました」
トムソンは言葉を失った。
背後から接近しつつある傭兵艦隊マトラーリャは執拗な銃砲撃で攻撃を仕掛けてきており、さらに側面に回った海賊船団も盛んに光弾を浴びせかけてきた。
その上、フリゲートとはいえ全艦がミリタリー・グレードの商業ギルド同盟の艦艇にも攻撃されている。
そしてトムソンの船団は戦闘態勢でもなく陣形を組んでいる状態でもなく、惑星にむけて減速しつつある最も無防備な瞬間を狙われたのだった。
「ほぼほぼ予定通りになったな」
涼井は眼鏡の位置を直しながら呟いた。
彼は武装商船ドーントレーダーの艦橋の提督席に座り、メインモニタに映し出される戦況を眺めていた。
「提督のその眼鏡のくぃっが久々でサイコーです」
涼井はそれには答えずに次の指示を下し始めたのだった。
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