おっさんがライバル企業を設立する件です

【登記】開拓宙域にライバル企業を作る件です

 涼井は海賊たちと別れた後、偽装船殻を再度装着した共和国の艦艇をロブ中佐に指揮をさせ、開拓宙域のさらなる深部探査に送り込み、自身は武装商船ドーントレーダーと共に一度、開拓宙域を離れた。

 

 辺境部への帰路、涼井は私室で、地球から持ち込んだノートパソコンにインストールしておいたofficeソフトを使って具体的な報告書にまとめた。

 

 この世界にはそういった提案の文化があまりないらしく、以前もこうしたサラリーマン流のやり方が効果を発揮したことがあった。


 共和国到着後は惑星ペルセウスに立ち寄り、会社を使うことを快諾してくれたグレッグと会い、話をしたのちに、護衛についた小規模な艦隊とともに首都惑星ゼウスに戻った。


 首都惑星ゼウスでは統合幕僚会議に顔を出し、統合幕僚長のノートン元帥をはじめ、統合幕僚本部に開拓宙域の状況をざっと説明した。


 ノートン元帥は事前にある程度の話を聞いていたが、ほとんどの統合幕僚本部のメンバーにとっては、開拓宙域については帝国と共和国が戦争をしている間にかなり開拓が進んでいること、開拓宙域ならではのルールがある一方で、銀河商事がかなり支配権を強化していること、などなどはかなり衝撃的な内容だった。


「いやいや一企業が民間軍事会社を使ってやりたい放題というのは……事例がないわけではないが……」

 ノートン元帥は首を振りながら呟いた。


「クヴェヴリ騎士団領のように、帝国の騎士団……とはいっても実質傭兵のような連中が国を作った事例もありますしな」

 サミュエル元帥が眼鏡の位置を直しながら言った。

 サミュエル元帥はノートン元帥の親友で宇宙軍幕僚長だ。

 

 ややこしいのだが、宇宙軍幕僚長といえば宇宙艦隊司令長官である涼井の上役だ。 

 とはいえ幕僚本部はどちらかというと軍政の担当であって、実働部隊のトップはスズハル提督……涼井ということになる。


「さて銀河商事の動きは共和国にとっても懸念材料ではありますが、軍事的介入をするほどの口実は得られていないと思います」

 涼井は統合幕僚本部の面々を見回した。

 たまにこうやって表情を見ることによって、食いついている者、いまいち分かっていない者、そもそも聞いていない者がいるかどうか分かる。その状況によって話す内容やトーンを調節するのだ。

「そこで、情報収集のために設立したペルセウス・トレーディングとは別に、本格的な開拓宙域における物流など、銀河商事そのものに対抗しうる企業を設立しようと思います。そちらも傭兵艦隊を雇い、物理、商業的双方での競争を行います」

 幕僚本部の面々は驚きの声をあげた。


「その傭兵艦隊の候補や事業計画はこちらです」

 涼井は数値計画を含む事業計画を完全な形で準備していた。

 幸い、法律の違いや、情報管理の違いなどはあったものの、会社の仕組みそのものは地球とさほど違いはなかった。


 どの道、幕僚会議の面々は商業の専門家ではない。

 きちんと涼井が考えていること、ということ自体が伝われば問題はなかった。

 また本来は幕僚会議全員の承認を得る必要もない。

 ある程度のことであれば宇宙艦隊独自にも動くことはできる。


 しかしこうした調整や事前に相談しておくことそのものが重要だと涼井は考えていたのだった。

 

 だいたいの賛同が得られたので涼井は宇宙艦隊司令部に立ち寄った。

「おぉーついに戻られましたか!」

 宇宙艦隊の首席幕僚として涼井の代理をつとめていたバークが顔をほころばせて出迎えた。


「そういえば面白いお客が来ておられますぞ」

 バークが涼井を応接室に誘う。


「客……?」

 応接室の扉を開ける。

 共和国の粋をこらした、伝統的な出来栄えの応接室のソファに姿勢よく腰掛けていた人物がいた。


 銀色の髪に、どこかの惑星を象った耳飾り、黒と赤を基調にしたドレスのような形状の軍服の少女。


「久々ね、スズハル提督」

 彼女はにっこりと笑顔を浮かべた。

 アルファ帝国皇帝リリザ本人だった。





 

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