Re:【再稟議】銀河商事

 リリヤの話をまとめるとこういうことだった。

 銀河商事というのは人類が恒星間航行を手に入れたばかりの600年前に登記された。最初期の恒星間航行に乗っかって初の恒星間交易で儲けた。

 

 一時期は銀河商事は世界最大の企業にのし上がり、やがて帝国の設立に資金提供を行い人類史上初の恒星間勢力である「アルファ帝国」を作り上げた影の立役者とのことだった。今では恒星間勢力や取引は当たり前になり銀河商事も徐々に規模を縮小してきたが、未だに一大財閥企業として隠然たる勢力を持っているようだった。

 

「そして本社は惑星ミード……か」

 涼井はリリヤの話の後に端末で調べた情報を自身のノートパソコンに打ち込んでいた。電源はどうにかこうにか充電する方法が見つかったので未だに現役だ。


「偶然なのだろうか……」

 この世界の銀河商事は企業理念として『世界を明るく。善く働ける場所に』を掲げているらしい。そしてそれは涼井が地球で働いていた銀河商事の企業理念に酷似していた。


『サカモトとかタナカとかの名前の人がいらっしゃいますいけど、だいたい銀河財閥の末裔のひとたちですよ』とリリヤは言っていた。日本人風の名前がやけに存在するなと思っていたが、そこもこの世界の銀河商事に繋がるのであれば偶然とは思えなかった。


 涼井は現在の社長であるミヤタの写真を眺めながら考え込むのだった。


――3日後に交易船「ドーントレーダー」はヴァイツェン宙域に到達した。

 共和国や帝国の標準通り、恒星と居住地となっている惑星は同じヴァイツェンと名前がついている。しかしヴァイツェンには居住可能な惑星が3つ、ほぼ同軌道を公転しており、ヴァイツェン1からヴァイツェン3という名前がついていた。

 

 恒星は青白い光を放つ若々しい主系列星だった。

 このあたりの星団そのものが若い恒星が多いようで、帝国や共和国の辺縁部とはまた違う趣だった。


 ヴァイツェンに向かう途中うでも開拓宙域に向かう交易船や開拓船を多数見かけた。開拓船などは惑星ミードに所在する恒星間開拓事業公社からリースで借りることができる。その金額は、恒星間宇宙船を借りることができるわりには比較的格安で、しかも鉱山なり農業なりの成果物を買い取る仕組みもあった。


 そのため人生を賭けてやってくる若者、逃亡兵、会社員、はぐれ者、夜逃げした者、戦火のために居住地を追われた人々など様々な人々が集まってきているようだった。


 開拓公社としては、開拓船のリースや鉱物・農作物の買い取りは投資と割り切っているようで、とにかく人口を流入させることが最優先になっているようで、このあたりも実態として共和国や帝国が考えているよりも深く広く広がってきているのではないかと考えられる根拠のひとつだった。


「重力反応です! ……これはかなり大きい反応です。2~300隻の巡洋艦くらいの大きさの船がまとまっています! 距離15000!」

 オペレーターが叫ぶ。

隊商キャラバンか何かではないのですか?」ロブ中佐が眉をひそめる。

「いや……」

 涼井はメインモニタを見つめる。

 オペレーターの操作で遠方の艦隊の光点が映し出された。


隊商キャラバンにしては陣形が整っている」

 涼井の直感通り、その船は装甲化された巡洋艦のようだった。

 計上としては鋭角的でデザイン的に優れた艦艇だった。


「通信です!」

『こちらは銀河商事所属の警備艦隊である。ヴァイツェン2の宇宙港に着陸するように』

 辺縁部で出会った警備艇よりは高圧的な口調で指示を受ける。

 どうやらその艦隊はヴァイツェン宙域を管制下に置いているようだった。


「相手方の詳細、分析できました。銀河商事が雇っている傭兵艦隊ヤドヴィガのようですね。民間軍事企業です」オペレーターが偵察艦のセンサー類を全力で使って解析した。

「民間軍事企業か! ヤドヴィガの名前は私も聞いたことがあります。というより共和国軍を辞めて入社する人間もいるようですぞ」とロブ中佐。

「なるほど……民間軍事企業ね」


 涼井はにやりと笑った。

 開拓宙域に来るまではどのようになっているのかまるで想像もつかなかった。

 共和国の偵察行動も実質的にこれが初だ。


 しかし企業が沢山入り込んでいるならそれは涼井の得意分野かもしれないのだった。

「カチョウのその感じ久々で萌えますね!」

「よし、まずはヴァイツェンの視察だ。トラブルがないようにうまくやろう」涼井はリリヤの発言を無視して惑星ヴァイツェン2でやるべきことを頭の中で整理し始めたのだった。



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