第53話 【新規案件】リオハ共和国の独立戦争
リオハ共和国の独立宣言はアルファ帝国、および共和国、そしてその他の国々へ届けられた。
共和国の名将であるチャン・ユーリン提督を大統領兼最高指揮官に戴いたというそのニュースは宇宙全域に知れ渡った。
驚いたことに革命的反戦軍のメンバーのうちアテナ星域の騒擾で逃してしまった面々がこのリオハ共和国に加わっていた。さらに帝国軍の隠れ蓑であったフォックス・クレメンス社のエメット少将までもが加わっているのだった。
そしてこのリオハ共和国の正式な名称はリオハ臨時人民共和国なのだった。
大統領兼宇宙軍司令官 解放軍第1艦隊 チャン・ユーリン提督(元共和国第3艦隊司令官)
副大統領 ジェームズ・カン(革命的反戦軍の書記長)
軍政長官 ブライト・リン(革命的反戦軍の幹部・共和国軍労働組合委員長)
解放軍第2艦隊司令官 エメット提督(フォックス・クレメンス社艦隊の指揮官)
リベラル色の強い首脳陣だが、反帝国でもあり反共和国でもある厄介な存在だった。
リオハ人民共和国の艦隊は、度々帝国軍の鎮圧部隊を撃破して気勢を挙げていた。
いつもチャン・ユーリン提督の本隊が帝国軍を翻弄し、そのスキをエメット提督の艦隊が衝いて撃破するというパターンが鉄板のようだった。
涼井は自身の第9艦隊の出動準備を整えたが、共和国大統領のエドワルドと会談するために惑星ゼウスに降り立っていた。例によって副官のリリヤと首席幕僚のバークが同行している。今回は極秘の訪問であり、派手な迎えはなく大統領警護官たちがひっそりと涼井と落ち合い、大統領官邸まで地上車で向かった。
「おぉスズハル君」
大統領は服装こそきっちりしていたが、表情は暗くやつれているように見えた。
彼は力のない笑顔を浮かべた。
「大統領閣下……」
「まぁ、座ってくれたまえ」
エドワルドは涼井が何も言わないうちに強い蒸留酒を2つ注文した。
「困ったことになった」
「まさか分離独立とは予想外でしたね」
「大統領選に向けてこれはまずい。何とかならないだろうか」
「そうですね……」
チャン・ユーリン提督は確かに、この世界においてやや異質な存在に見えた。
何しろ負けないのだ。奇策で相手を翻弄しいつのまにか勝つ。戦闘の勝率は極めて高い。
ただ一方で勝てそうにない時はすぐに逃げる。
その上味方を捨てて逃げることもあり、いかに個々の戦闘で強くとも組織全体としては持て余し気味のようだった。
そして大統領や軍の批判を堂々と行いリベラルな議員や極左団体との繋がりもあるようだった。
宇宙軍の中ではチャン・ユーリンの信者と、よく思わないものと混在していた。
「あくまでチャン提督の艦隊は1個艦隊プラスアルファでしょう。数個艦隊を差し向ければ鎮圧できるのでは」
「そう思うだろう、ところが……」
チャン・ユーリン提督は何倍もの帝国艦隊を撃破したこともあり、もしようやく再建できつつある共和国艦隊が数個艦隊も消失しようものなら、それこそ帝国軍に絶好の機会を与えることになる。それがエドワルドの懸念なのだった。
「そうですね……」
涼井はしばし思案した。エドワルドはともかく辺境宙域には艦隊を派遣し封鎖し戦わないということを検討しているようだった。
ただ、あくまで艦隊は機動して敵を叩く存在であることから、結局のところ「封鎖」にはならないのではないかと涼井には思えた。
そんな中、帝国の選帝公・トスカナ公爵の指揮する大艦隊がリオハ臨時人民共和国の解放軍艦隊に徹底的に撃破されたという情報がもたらされた。解放軍艦隊はそのまま帝国領に侵攻中であるという。
「スズハル君、これはどうかね? いまならスキがあるのでは」
「事実であればその通りかと思います」
「もし背後から攻撃すれば帝国のリオハ宙域をとれるかもしれないな」
涼井は慎重に答えたが、大統領はその場で宇宙軍に連絡しドーソンと話し合いはじめた。
内容は帝国軍とゆるやかな協約を結び、双方連携してチャン提督の艦隊を圧迫するというものだった。
かくしてリオハ臨時人民共和国艦隊追討のための作戦行動が始まったのだった。
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