第7話【要検討】外注企業様の進捗状況につきまして
カルヴァドス伯爵の艦隊、その数3000はこちらの右前方から接近してきていた。
主砲の射程より少し手前で逆噴射したのか、相対速度を一気に0に近づけてきた。
こちらとの距離を一定に保っているかと思いきや、離れたりぎりぎりまで近づいたり、左右に動いたりと奇妙な動きを見せていた。
艦橋のメインスクリーンに拡大表示されたその様子をみて、主席幕僚のバークが鼻を鳴らした。
「なんと奇怪な!」
「これは罠ですね!」リリヤもそれをのぞき込みながら言う。
バークは腕組みをしてうんうんとうなづいた。
「しばらく様子をみましょう」
その二人を冷たく涼井は見つめていた。
「……ほう、これが罠と」
「はい、そうに違いありません。このような奇怪な動き、あり得ませんぞ」
「……具体的には?」
「といいますと?」
「具体的にはどういう罠なのだ」
バークとリリヤはしばし考え込む。
「……わっかりません!」とリリヤ。
涼井はため息をついた。
「この間のリシャール侯爵との戦いの時もそうだが、振り回されすぎではないのか? どうみても奇妙な動きをしているだけだろう」
「しかしもし何らかの罠だとしたら……」
「しかしも、もしもも無い。こちらのほうは数が多いのだ。とにかく攻撃をするぞ」
「……やはり罠では……」
「こだわりすぎだ、行くぞ」
涼井の指示で共和国の第9艦隊は体制をざっくりと整え、無造作に相手の射程内に侵入した。
一瞬動揺したのか相手に迎撃がないことをいいことに主砲を撃ちまくる。
4倍もの相手に撃たれ、カルヴァドスの艦隊の前列に白い真円上の光芒がいくつも生まれ、前列が乱れた。
「おぉ……スズハル提督、これは」
バークが驚いたような表情を見せる。
「当然だ。相手はこちらが罠だと思い込んでフリーズするのを狙っていただけだ。罠だと思い込まされば、君たちは
リシャール侯爵との戦いの時もそうだった。楔型の隊形で猛攻を加えてくる相手に対し、こちらの両翼はぼうっとして動かなかったのだ。
カルヴァドス艦隊は普通の編制と違い、右翼側に軽快な駆逐艦や軽巡洋艦を集めているようだった。
おそらく奇妙な動きを見せてこちらの動きを止めた後、右翼側を軸にこちらの側面にでも回り込むつもりだったのだろう。
「……ただなかなか大胆な敵だ」
涼井は冷たい微笑を浮かべた。
カルヴァドス艦隊は緒戦で前列を打ち砕かれ、乱れてしまっていた。
艦艇はそれぞれ応戦するか、回頭して逃げようとするか、じりじりと後退するかのいずれかに分かれた。
後退するグループは数百だが整然とまとまっている。
その間に敵の数は2000ほどに減少していた。
「よし、後退している敵に集中砲火だ。何となくだがあそこにカルヴァドス伯爵とやらがいる気がする」
「……わかりました」
涼井の艦隊は主砲を後退するグループに向け、一斉に撃った。
またいくつもの爆発が生まれ、そのグループも乱れた。
「スズハル提督! 敵から通信です!」
「ほう、映せ」
目の前に燃えるような赤毛を短髪にした屈強そうな男が出現した。
「提督……あれがカルヴァドス伯爵です」
「なるほど……」
イメージでは知的な顔つきの老人だったため、涼井は若干虚を突かれていた。
その男は憔悴した表情を見せている。
「俺がカルヴァドス伯爵だ。顔を合わせるのは初めてだが……降伏したい」
「……理由を伺いたい」
「ハデス、ヘラ宙域を俺が奪い取った後、そこを領有していたが帝国の中央とは意見が合わず補給が断たれた。そこで共和国領内を進撃して帝国に帰還するところで貴公の艦隊と遭遇した。いまの会戦で我が主力はずたずただ。降伏する以外の選択肢はない」
涼井はカルヴァドスの作戦はともかく、堂々とした意思決定を行った彼に感服した。
こういう自らを晒すような決断はサラリーマンでもなかなかできるものではない
さてどうするか……。
涼井は考えを巡らせはじめた。
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