第3話【緊急】相見積もりの相手先を出し抜く方向で

――作戦といえるほどのものではないが涼井は方針を伝えた。

 すなわち、相手はこちらの中央に遮二無二なって突撃をしてきている。

 こちらの中央は確かに突破されつつあるがまだ破れきってはいない。

 中央は中央で密度を高めて抗戦し、その間にぼうっとしている――大事なことなので涼井は強調した――ぼうっとしている両翼のうち、左翼を閉じるように機動させて敵を攻撃するのだ。


「さすが提督!」

 リリヤはきらきらとした目で見つめてくる。ほんとうに正規の教育を受けた「軍人」なのか涼井はこみ上げる不安を押し殺した。


「その作戦でいくと……」とバーク。

方針だ・・・

 涼井の眼鏡が光る。作戦というほど高級なものではない。

「方針……で行くと、右翼側は動かないのですかな? こういう時はもうちょっとこう……包囲殲滅みたいな形になるのかと」

「無論それも考えたが、宇宙空間で撃ち合っているのだ。何を撃ってるのかは知らんが真空状態では光線だろうが実弾だろうが減衰はしないんだろう。距離によるが包み込むと敵の向こう側の味方に当たるのではないか?」

 なるほど! という顔をする二人。

(これはいったいどういう世界観なのだろうか。私の夢なのか何なのか……)

 涼井は眼鏡の位置をくいっと直した。


「ではさっそく……」

 バークがオペレーターに指示を下す。

 コンソール画面をみていると、徐々に左翼が動き出し、敵の艦艇をこちらからみて左側面から包み込むように機動をしはじめた。一方中央……涼井たちのいるあたりでは比較的、重武装の艦艇が前に出て防御に徹し始めた。

 気のせいか周囲での爆発も減少している。

 一方、スクリーンの遥か彼方でいくつもの光芒が出現しはじめた。

 左側面からの攻撃が効いているようだ。


 戦況上、リシャール侯の率いるアルファ帝国の艦隊は横に広く展開した共和国艦隊に突進していたが、共和国左翼艦隊がリシャール侯艦隊の横腹をついた。数に劣るりリシャール侯の艦隊は動揺した。

 アルファ帝国の艦隊は乱れつつ徐々に後退をはじめた。


(勝ったな…… 言うなれば相見積もりの相手をうまく出し抜いたようなものだ)

 涼井は腕組みをしつつ、算を乱して敗走しつつある敵をみつめた。

 しかし、それにしても、弱い。弱いとしか言いようがなかった。

 これでライバルであり名将らしい。


 ふと目の前に白髪に近い金髪を振り乱した端正な青年が映し出された。

 端正な顔立ちだが目付きがどことなく、まさか化粧をしているわけではないだろうが宝塚のような濃さだ。

 そしてきらきらと貴族のような軍服。

「おのれ共和国の英雄スズハルめ……」どうやらその青年がリシャール侯爵らしい。

「今回もしてやられたわ。覚えておけ、次回こそは貴様を倒してやる……」

 そう言って通信が切れる。

 艦橋の中からわっと歓声が上がった。

「俺たちが勝った!」「帝国を退けたぞ!」

 

 リリヤが駆け寄ってきて涼井の腕にしがみついた。

「おめでとうございます提督! さすがですね!」

 そんなリリヤを涼井は冷たく見下ろす。

「あっ! そ、そんな目付きをされたらわたし、わたし……」

 身じろぎするリリヤ。冷たい目で見られることに快感を覚えるタイプらしい。

 何はともあれ勝利は勝利だ。

 しかしいったいこの世界はどうなっているのだろうか?

 そもそも自分はどうしてここにいるのか。涼井は環境に響き渡る歓声をよそにふと冷静になっていく自分を感じていた。





 

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