第2話【至急】敵艦隊を倒すための見積りをお願いします

 涼井は若干困惑してリリヤを見た。

「あっ! そんな冷たい目で見ちゃいやです……」

 リリヤが身じろぎする。どうも昔から涼井の視線は冷たいだの、インテリやくざの若頭だの、カエルを睨む大蛇のようだとか色々と言われてきているのだが、本人にはあまりその自覚はない。

「確認するが――」

 涼井はリリヤと折り目正しい初老の男性――のちにバークという名前と判明する――が、期待を込めたまなざしでこちらを見ている。

「確認するが、こちらが1万2千隻・・・・・で、相手が6千隻・・・なんだな?」

「はい!」

「――ならなんで負けてるんだ?」


 涼井がそう問う間にもスクリーンにはいくつもの光芒が浮かび上がっていた。そのひとつひとつで味方の艦艇が破壊され、あるいは破損して破片を宇宙空間にまき散らしているのだろう。遠くから振動が響くが、破片なり何らかの衝撃が自艦に加わっているのだろうか。


「それは……」

 リリヤの目が泳ぐ。

 バークがごほんと咳払いをして代わりに答えた。

「敵であるアルファ帝国のリシャール侯爵が極めて有能な人物で、特殊な陣形でこちらを分断にかかっているからです、提督」

「ほうほう」


 涼井はもう一度リリヤが出したコンソールを眺めた。

 赤く表示された敵軍は、楔型の陣形をとっている。それが幅広く展開したこちらに一点集中の攻撃を仕掛け、不利になっているらしい。


「スズハル提督……ライバルのリシャール侯のことを忘れるなんてよっぽど打ちどころが悪かったんでしょうね」

「ああ……全くなんたる悲劇……わが共和国軍の英雄だというのに……」

 リリヤとバークがひそひそと話している。


 涼井が見るにこちらのほうが数が多い。

 敵は楔型の体形でこちらを分断にかかっているらしい。

 しかしそれに対してこちらの艦隊は何の対策もとらずにただただ敵が近づいた艦が個別に反撃しているだけのようだ。すなわち敵と直接接触している中央以外の両翼は何もせずにぼうっとしているらしい。


(まるで何の教育も訓練も受けていないかのようだな……)

 涼井はかつて部下に誘われて参加した「サバイバルゲーム」のことを思い出していた。

 スーツで参加したところ周囲から「鉄砲玉のクライアント」「敵対組織の親分を殺しにきたやくざの組頭」などむちゃくちゃいわれたものだが、相手のチームに自衛官が混ざっていたらしい。ちょっと攻撃すると信じられない場所から出没して鬼のように攻撃されたものだ。

(一般的な軍務に携わる者というのはこういう感じでぼうっとするものではないと思うが……)


 何はともあれ、いずれにしてもこちらが数的には有利らしい。

 予算で有利ならばライバル社敵軍に十分勝てるだろう。

 単純な数の話だ。


「――よし作戦は決まった」

「おぉ! さすが提督!」

「わくわく」


 バークとリリヤが熱い視線を向けてくる。

 涼井はそのシンプルな作戦を二人に話した。

 

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