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@araki

第1話

「香月」

「なに」

「どっちが正解だと思う?」

「さあ。わかんない」

 ふとした気の迷いで参加した町内会のレクリエーションイベント。その途中の道、香月と梓は分かれ道に出くわしていた。

 選択肢は二つ。どちらも目的地には繋がっているも、一方の道はもう一方よりも早くたどり着ける。タイムアタック制で上位入賞者には賞品が出るとあって、できれば短い方を選びたいが、ここでは判断がつけられそうにない。

「いっそのこと別れて目指してみる? そしたらどっちかは当たりを引ける」

「それダメみたい」

「なんで?」

「ここ」

 香月は手に持ったルール用紙を指さす。そこには『必ずチーム全員でゴールすること』と書かれていた。

「二者択一が絶対かぁ……」

 梓は二つの道を見比べる。

 一方の道は荒れた山道。小石や枝がそこかしこに散らばっており、歩きにくいのが一目でわかる。ただし、道はずっと先まで見渡せる直線で、万が一にも迷う可能性はない。周りの森の景色も個人的にポイントが高かった。

 それとは対照的に、もう一方は舗装された道路。普段は車も通るその道に障害物は当然なく、ただただ目的に集中できる環境。ただし、その道はすぐ近くで急カーブしていてどこまで続いているか分からない。加えて、コンクリートの壁は特に面白みもなかった。

 どちらを選ぶべきだろう。

「どっちがいい?」

「どっちでも。梓が決めて」

「そうだねぇ……」

 梓は口許に指を当てて少しばかり考える。そして、

「こっち」

 道路を指さした。

「どうかな」

「いいよ。でも、何となく意外」

「ん?」

「梓の性格的に森の方を選ぶと思ってた」

「今日の目的を考えたらこっちかなって」

「一着目指して?」

「ちがうよ」

 梓は微笑んで言った

「香月といっぱい話すこと。まだまだ喋り足りないからね」

 香月は口の端に笑みをのぞかせた。

「三年ぶりだしね」

「話題はまだまだあるよ。覚悟してよ?」

「りょうかい」

 二人はそのまま連れ立って歩き出す。何の変哲もない道、その先を晴れやかな声で彩りながら。


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