ゲットされる俺

 「いやぁ、そうだったのか。ウチの者が済まないなぁ。」


 「ごめんなさい。爺やも悪気は無かったのですが………。」


 髭を蓄えた、笑わなかったら子どもがガチ泣きしそうな大男が笑う。


 隣では弱り顔でアリシア嬢によく似た女性が謝っていた。


 「申し訳ございません。お嬢様の命の恩人とは露知らず………本当に申し訳ございませんでした。」


 燕尾服のじいさんが綺麗な謝罪をする。コンパスか何かを見ているような、綺麗な謝罪であった。






 あの後、アリシア嬢が俺を敵視する爺やに事情を説明。そうこうしている内に洋館の奥からロナンドロ家の家長。モールドン=ロナンドロ氏と、その夫人。ミーティア=ロナンドロ氏がやって来て、今に至る。


「トーヤ殿」


 皆トーヤなのな。トウヤだってのに。


 「娘を救ってくれてありがとう。君は私の命を救ってくれたも同然だ。」


 「私からも、感謝いたしますわ。有り難う御座います。何とお礼をすればよいか……」


 「トーヤ殿。前の非礼を詫びると共に、お嬢様を救っていただき有り難う御座いました。」


 初対面の三者から感謝をされるなんざ初めての経験で背中が痒くなるな………


 「別に良いですよ。俺は自分のやりたいようにしただけですし、感謝されるようなことは何もしちゃいません。じゃぁ、そういう事で。」


 正直、あーゆーならず者ってなんだか反射的に殴りたくなるのは事実だし。


 さて、次は如何しよか?


 「それは駄目だ。せめてお礼だけはさせて欲しい。」


 掴まれた。


 モールドン氏が右肩をホールド。


 「そうです。せめてお食事だけでも。」


 ミーティア氏、俺の左肩をホールド。


 「イヤ……こんな薄汚いのが入り込んでは不味いですし………」


 手首を縛られたら肩を外すのがセオリー。


 なら、肩を掴まれたら何処を外せばいいんだ?


 「では、洋服のお召し替えを。あぁ、ご心配なく。お洋服は洗濯しますので………」


 爺や。俺の正面に回り込んで俺の胸を手で押して洋館に押し込んでいく。






 おめでとう。三人はトーヤをゲットした。






 ま、いっか。


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