倭建の物語

@and25

第1話 兄殺し

倭建は美形であった。

 倭建は女にもてた。

 だが今、死の床で喘いでいる。




小碓(倭建)は、兄・大碓殺しの理由を、父王に弁明しなかった。ゆえに、凶暴な破壊者として、父王に疎まれることとなった。

 なぜ倭建は弁明をしなかったのか。それは、一点のキズもなく偉大であるべき父王に恥をかかせないためであった。兄が父の女と通じていたなどと、どうしていえようか。

 小碓は母の顔を知らぬ。

 父王には、小碓の美しい面差しは、母の生き写しであり、それゆえに、酷薄さを象徴するもののように見えた。父王は、小碓の兄殺しに直面し、息子が幼少の頃より密かに抱いていた己の危惧が、真のものとなったと思った。

 父王は、小碓をよびいだし、熊襲と出雲のまつろわぬ者どもを征伐するよう命じた。

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