この話の最初の部分は誰にも話すな。墓まで持ってくまでも無く、忘れろ。 そしてここからは謎を解決すべく俺達は推理小説の警察官よろしく情報収集。聞き込みを開始する事になる。

 「ウゥゥルルル……」


 突進を止められ、派手に後方に吹き飛ばされた熊は目を回していた。力加減は上手くいったようだ。


 「悪魔様?大丈夫ですか?熊も悪魔様も両方。」


 ププ


 クマとアクマ………。ダジャレッッッ!


 「ププププププププッッククククククハハハハハハハッハハハハハハ!ニャッハハハハハハハハハハハ、娘ぇ、お前エクソシストの才能があるぞ?危うく笑い死にするかと思っクウククククク」


 ツボに入った。


 「……、あのー、悪魔様?目を回しているうちに元に戻して挙げてください。あの熊さんの。」


 「クカカカカカイヒヒヒニャハハフフフフフフフフフェヘヘヘヘヘッヘヘヘ!」


 腹筋が崩壊しそう、ヤバイ、悪魔が熊倒した。アクマがクマ倒した!アクマガクマ!!






























 「さぁ、コイツはもう元に戻った。他には………。何が居るかな?」


 辺りに他の魔物は居ない。この先に目当ての者だか物だかは居るのだろう。


 「娘、この先に諸悪の根源は居る。気を引き締めろ!」


 「………あのー、悪魔様?先程の発作笑いは無かった事には出来ませんよ?」


 「発作笑い?何のことだ?」


 悪魔と熊を掛けたダジャレで笑ったヤツなど知らん。全然、全く、毛ほども知らん。


 「さぁ、行くぞ娘。」


 「無かった事には出来ませんよ??」














 「悪魔様?これは………。」


 「んー……、なんだコイツは?」


 俺と娘は頭を抱えていた。


 結論として。俺達が辿り着いた先にはとあるものがあった。しかし、これには魔物化を促進させるような力は無い。何故なら。


 「石に、なっているのでしょうか?」


 娘がそれに触ろうとする。一応止めようかとも考えたが、おそらくこれにはもう何の力も無いだろう。


 「あぁ、多分な。コイツは…、封印術の一種だろう。」


 封印術。魔法の一種で、掛けた相手の自由や生命活動を一時的に凍結、または極限まで0に近づけるものである。


 目の前には先程の熊を軽く呑めるクラスの大きさの蛇が結晶の中に入っていた。封印されていた。


魔法の概要を見る限り、多分叩き壊せるものではない。そして、封印を解除する魔法を今の俺達には作れないレベルの封印がされていた。


「娘。今日はここ迄だ。一旦帰るぞ。」


 「え?でも…。」


 「未知の物に下手に触れるのは得策じゃねぇ。コイツが魔物化の原因だったとして、魔物化のメカニズムが不明だ。どちらにしろ対応策を考えなくちゃならねぇ。」


 「この大蛇は、動物を魔物化するような力が有るのでしょうか?」


 「ァーーーーーーーーー……ゥーーーーーン。」


 娘の質問に俺は詰まる。今の俺にはそこまで上等な分析能力は無い。


 分析も結局の所、娘の能力有きのものだ。今解るのはこれがそう簡単に出来る封印の類ではない。という事と、正攻法では俺に解除は出来ない。という事だけだ。


 「解らん。が、これだけのデカブツだ。街の連中に聞けばこの蛇がこの辺の奴だったか、それとも別の所から来たのかくらいは解るだろう。」


 下手に手を出すのは愚作。情報収集に徹するのが吉だ。


 「解りました。では、帰ってお手伝いしましょう。」


 「それよりも飯だ。あと、お前はもう大分『お手伝い』が出来てると思うぞ?」


 「?」


 娘には俺の言葉の意味が解らなかったようだ。


















 「じゃぁ、オメエさんがアイツらを元に戻したってのか?」


 爺さんは目を丸くしていた。その理由は、俺達が浄化した魔物。只の動物に戻った牛を連れてきたからだ。


 俺たちの浄化した魔物の中に明らかに野生でなかったものが居た。もしかしたらと思って連れてきたら案の定。ここで育てていた牛だった。という訳だ。


 「えぇ、丁度森で出会いまして、戻して差し上げました。」


 「戻して差し上げましたって…オメエ。」


 爺さんは目が点になっている。当然だ。魔物を正気に戻すのは簡単ではない。人間だとそれに特化させた奴もいる。そもそも魔物化している時点で戦闘力が高い。そいつを抑え込んで魔法を喰らわすなんて本来は一人で出来るものではない。


 それを知っている爺さんは娘が実力者であることを察すると同時に、牛を取り戻した親切な娘だと認識する。


 これで封印された蛇の情報収集がし易くなる。自分達に対して益になる人間を放っておくほど人間は無欲じゃない。


 「これで良いのですか?」


 「あぁ、俺達は情報収集がし易くなる。奴等も商売道具の牛が戻って来るんだ。損は無い。」


 WinWinという奴だ。


 「チョット待ってろ。そうだ、オメエの分のメシは用意してある。喰っときな。」


 そう言って爺さんは戻って来た牛を連れて何処かに駆けて行った。恐らく俺の計画通りだろう。


 「ホラ、娘。せっかく用意してくれた飯だ。有難く頂きな。」


 「そうですね。それでは、頂きます。」


 硬いパンとチーズ。粗末だが、虫がたからないように布が掛けてあった。


 「有難いです。あと、優しいです。ジールさん。」


 「全く、その程度で好感度を上げるなんて、人間だな。」


 俺の皮肉を気にも留めず、娘は美味しそうに硬いパンとチーズを食べていった。

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