この盗賊共、中々悪くない。襲う場所を調べ上げ、最も有効な方法で混乱に陥れ、それと同時に略奪もやってのける。実に手強い集団だろう………。俺が相手で無ければな………

 俺たちは意気揚々と襲い、貪り、奪っていた。


 この街は最高だ。盗む金も食い物も馬も女も豊富にあった。濡れ手で粟を掴むが如く。略奪が快感でしかなかった。この近辺で噂になっていた聖女の姿が見えなかったのは残念だったが、まぁ、これだけ奪えたんだ。今回は我慢しよう。


 そう思っていた矢先。手下の一人が妙な現象を報告してきた。町に放った火が急激に収まり始め、怪我をしていた住人が無傷の人間のように全力で逃げ出したのだと言う。


 そんな筈は無い。複数個所に火を放ち、火を消そうとする奴等から略奪をしていったのだ。 


この街にこれだけの火を消せる魔法使いも怪我を治すような奴も居ない、という話だった。だから火を使ったというのに。何が起きた?


「頭ぁ!アレを見て下さい。」


 近くに居たもう一人の手下が上空を指差す。その先には女が居た。


 火事の煙で見えなかったが女が居た。


 黒い妙な服に白い前掛け。はっきり見えないが良い女だということは解る。顔もそうだが体も良い。黒い妙な服は体に張り付きその体を見せつけ俺を誘っているようだった。


 「アレが噂の聖女って奴かね?ヘヘ、良い女じゃねぇか。おい、誰かあの女落とせるか?」


 その問いに何人かが弓を構える。


 「おいおい、殺すんじゃねぇぞ?」


 「頭ぁ、ありゃ空を飛んでるんだ。落とそうとしたらこれしかねぇ。しかもありゃ翼も無しに飛んでる。なかなかの魔法使いだ。矢の一本二本じゃ死にやしませんて。」


 そう言って一人目が放つ。


 パシュッ


 空気を斬って上空へ、吸い込まれるように女に向かっていった。が、矢が直前で勢いを失って落ちて行った。


 「オイオイオイ、アレでどうやって落とすってんだ?掠りもしてねぇ!」


 笑いが起きる。射った奴は首を傾げている。


 「おっっかしいなぁ。落としたと思ったんだけど…」


 「しょうがねぇ、俺様が弓の使い方を教えてやろう。」


そう言ってもう一人が弓を射る。が、これも先程同様直前で落ちていく。


 「………。野郎共、武器を取れ。本気で殺るぞ。」


 俺の声を聞いた野郎共の雰囲気が変わる。一度の偶然で外れるならまだしも二回連続。しかも不自然な落下。あの女がこちらに気付いて何かをやっている可能性がある。


 本気で殺しにいかない限りモノにするのは困難だろう。


 「全員。掛かれ!」


 号令と共に俺たちは攻撃を開始した。


 矢と投石がありったけ空に放り込まれる。そのどれもが女の元に向かうが直前で落ちていく。


 「クソ、なんだありゃ?」


 そうしている間にこちらに女が向かってくる。距離が縮まれど当たらない。


 「野郎共!魔法の一斉照射!その後直接叩け!」


 俺達も魔法が使えない訳じゃない。火を付けたのも魔法で付けた。が、正直ミドルレンジでしか使えない。それでも強力だ。一斉照射すればどういう種があっても手傷位は食らわせられる。その後華奢な魔法使い様を腕力でねじ伏せよう。


 火炎の球や電気の球、石の礫が女目掛けて飛んでいく。爆炎と閃光、土煙に包まれる中を皆が突っ切っていく。


 「うぉぉぉおらぁぁぁ!」


 ある者は大剣、ある者は斧、ある者は短剣、ある者は鞭。各々がエモノを振るって見えない女目掛けて襲い掛かる。


 「ダアァ!」


 先陣を切っていた三人が煙幕の中から吹き飛んでくる。


 『まったくよぉ、こんな玩具とみみっちい花火擬きで俺を倒そうと思ったのか?だったら天才だぜぇ?馬鹿の天才だ!』


 天災が目の前に現れた。


 「クソ!」


 次陣の連中がこちらに戻って来る。俺とそいつらにわざわざ挟まれた女の方が圧倒的に分が悪い筈。なのになんだ?この妙な気分は?


 考えながら剣を振るう。平和ボケ聖女だと思っていたがやはり違う。ガワは聖女だがコイツの中身は戦い馴れした悪魔だ。


 『挟み撃ち出来ると思ったか?馬鹿が。俺がお前ら全員を殺せる間合いに入れたってだけだ!』


 そう言って手から水の塊を出した。そう思った次の瞬間。


 「!」


 呼吸が出来なくなり、視界が曇り、身体が浮いて振り回されていた。


 「!」


 「!」


 「!」


 直ぐに自分が水の渦の中に放り込まれたのだと解った。周りに居た奴等も全員水の中だ。水流の中心で女が流される俺達を見ている。その目は慈愛に満ち溢れ、とても戦闘狂には見えない。


 『喰らいな。アクアストーム&サンドストーム』


 天災の言葉が響き、水の中にも闇が訪れた。

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