骸装伝記カータヴァル
雪純初
第1話 GO & START
■ さらば、幼馴染み。当分帰って来るなよ ■
浮遊島マグナカルタ。
イースト領域にある本島が直径5㎞程度で、空に浮かぶ周辺の六つの小さな島国から構成される辺境の小さな群島。
その本島の7割が森や川などに囲まれた自然豊かな環境の中、残りの3割の村々が密かに大きな争いごとのない平和な日常を日々過ごしている。
村の住人は、森の動物と植物、果実を実らせ、川の水は人々の生活の欠かせないものとなり、そこを泳ぐ魚、森に棲む生物の類いは日々の食糧にして老若男女関係なく互いを支え合いながら毎日を生きていた。
「(まぁ、全長3mもある千股が丸太みたに極太の喋れる喋るゴリラとか自称物理最強の筋肉じいーさんとか自称数千年生きた仙人の常に宙に浮いているばーさんとか成長EX且つ限界突破を一日に一回はしないと気が済まない将来有望すぎる幼馴染み……以外はどこにでもある一般的なポピュラーな島だ。
ハハハハハ……はぁー)」
そんな一見特徴という特徴のない島だが、唯一地上の島々にはない自慢できるものがある。
マグナカルタは通常の島国と異なった浮遊島で、海面に面せず、辺りを白く
しかし、島の沿岸からは見渡す限りの蒼色が澄み渡った空、その先には自由な世界が久遠の彼方まで続いている。
空気は澄んでいて、早朝には太陽が天高く昇り、地上と空を照らす陽光が雲海と相成って、黄金の景色が広がっているそれを見ることができるのは地上にはない浮遊島の特権の一つだろう。
何よりも、夜に見る星空が
────と、ここまで聞いたらどこにでもありそうなごく普通の景色が綺麗な観光名所のままだが、自然と共存して生活して、争い事から最も無縁なこの田舎島にも最近とある事件が起こった、と言うより気付いたら終わっていた。
これは幼馴染みのアイン……アインハルトから聞いた話だが。
空から落ちてきた
……価値ランクがE~XX級ある数百年前に起こった覇界戦争時代の
俺はそんな大事件が起こってたにも関わらず、家で昼過ぎまでぐっすり寝ていたのでよく知らない。
玄関の扉が開く音で目が覚めて、二階の自室から一階の玄関まで行くと俺はあまりの衝撃のあまり言葉を失った
血だらけで全身火傷の重症を負った肩甲骨辺りから翼を生やした未確認生命体、白目を剥いて銃剣を大事そうに抱きしめながら「クリスティーナ。クリスティーナ。クリスティーナetc」と無限に繰り返す壊れたラジカセのような全身真っ黒の不審者、そしてその二人の首根っこを掴んで引き摺って来て「おはよう」と満面の笑顔で言う幼馴染みアイン。
……俺は、この世のカオスを具現化したような惨状にどう言葉を返したらいいのだろうと悩んだ。結果、俺は考えるより前にまず自分の理解の範疇を超えているので……ここはとにかく泡を吹いて気絶することにした。
俺は知らん!!
三人で勝手に解決してよね!!
その後、マキナちゃん(以後、後輩みたいで可愛いのでそう呼ぶことにした)を捕えようとヨルムンガンド級の大型航空戦艦に乗って、イースト領域最大の経済国家『
最初はアインとグレンさんで帝国兵や戦艦からの砲撃を凌いでいたが、制空権を取られている以上、やはりじり貧。
そんな中、敵の大将らしき男が戦略級古代遺産を使って大規模の魔力砲撃を放った。
俺は降ってきた小石を頭にぶつけ意識を取り戻すと、既に決着はついたようで、紆余曲折はあったらしいが──結果として、大日東帝国は撤退し、勝利したのはアインたちだった。
……俺、今回意識失ってばかりで良いとこなくね?後、去っていく帝国の戦艦の背中がやけに哀愁漂ってたし、苦労人体質の人でも乗ってたんだろうか?
休憩がてら俺の家に招くと、グレンさんが今後の方針について話し合うことに。
最初から最後のクライマックスまで一切詳細を知らない俺は、マキナちゃんの芸術品のように綺麗な
俺がアインの髪をツインテールに結んでいるように、女子力というものを全て戦闘用の成長力に全振りしているから細かな作業が苦手なアインの代わりに髪を整えたりすることは俺がやっていたので得意でもある。
話を聞く限り、何でもマキナちゃんは魔力補給に欠陥が生じたため
そして、片方が死んだ場合、魂で繋がっているもう片方も連鎖的に死亡する危険性もある、とグレンさん言った。
グレンさんのその言葉に「そんな限界、必ず突破してみせます!」といつも通り元気よく言うアインの姿を見て、俺の心配は杞憂に終わった。
世界最強の喋れるゴリラと渡り合えるアインのことだから多分大丈夫だろう。
俺がマキナちゃんの髪を三つ編みに結び終えた頃くらいに話し合いが終了。
いつの間にか自分の髪型が変わってることに驚いていたが、見知らぬ髪型に結った髪を撫でたり、鏡で自分の姿を見比べたりして、最後には気に入ってもらえた。
話し合いの末、アインとマキナちゃんとグレンさんはこの島を旅立つことを決意し、帝国がいつ戻って来るかも分からないので翌日、早朝に出発することになった。
俺も誘われたが、丁重に断った。
魔力がなくて魔法が使えない俺がいても足でまといになるだけだろう。
アインは頬を膨らませ、ご立腹だったが「俺もいつか旅にでるよ」と伝えると、「じゃあ、指切りを」とお願いされたので、小指と小指を優しく結んだ。
その夜は、マキナちゃんとグレンさんの歓迎会とアインの門出に村中の人たちで大きな宴を
あんな事件があったにも関わらず、その元凶たる自分たちを歓迎している村の人たちに呆気にとられてる二人を傍から見るのは面白かった。
……この島の人たちは何でもかんでもすぐ
俺は腰掛けていた椅子から尻を上げ、
「ここからは、俺の
────────────────────────────────ッ!!!!」
「「「よッ!よよいの、よッ!!」」」
「よ、お兄ちゃん!!」
村の男たちは俺の一言で服とズボン、パンツを抜き出し、この島特有の
それに対して、
「きゃっ⁉何で、裸になるんですか!」
頬を赤く染めて顔を隠すマキナちゃん。
天使みたいに可愛い。天使だけど。
「こ、こいつら正気か……?」
呆然とするグレンさん。
ごめんなさい。こういう島なんです。
「お兄ちゃん!もっと別のアングルで見たいから
一切の恥じらいなく、逆に全裸の姿勢を要求してくるアイン。
おい。
お前はそんなマジマジと覗き込むように俺の
初々しい反応のマキナちゃんを見習え。
その宴は夜明けまで続いた。
■ 修行(強制) ■
翌朝、俺を含めた村のみんながふらふらになりながら島の外縁に集まると、一人一人が餞別の言葉を送り、それに応えてアインははにかんで笑った。
アインは夢だった自由な旅に。
マキナちゃんは自分自身を知るために。
グレンさんは最高の女性を見つけ、独身童貞から脱するために。
「待て、オレだけ紹介が可笑しいぞ」
三人用の小型船に乗り込んだ三人は各々の野望を胸に熱く秘め、アインとマキナちゃんを救う手立てを捜すべく、あらゆる奇跡が集うと言われている『黄金の城アルテラ』を目指す長く険しい旅の物語が始まる。
「無視かよ!」
二人の運命はここで一端分かれるが、その道はどこかで交わる日が必ず来るだろう。
「お兄ちゃん!いってきます!!」
「おう!当分帰ってくるなよ!!」
「何で·····⁉」
そら、お前、練習台という名のサンドバックにされ
もうね、お兄ちゃん心と体が限界なの。
俺はアインみたいに限界突破できないんだよ。
戻って来たいならもう少し、女の子らしくなってから帰宅して下さい。
──でも、妹分には変わりはないしな。
「また、会おうな────!!!」
「──⁉うん……!!!」
俺は別れの挨拶を済ませ、手を振り続け、アインが乗る小型船を見送った。
しかし、腑に落ちないことが一つある。
アインは根っからのトラブルメイカーだ。
アインのことだから出発する際に何かトラブルが起こると踏んでいたんだが……。
そして、俺の予想が正しけれはグレンさんは────
「な⁉船のエンジンが火を
「え⁉」
「コントロールが、上手く効かねえ!チッ!何が原因だ!!」
「あ、すみません。今朝方、祠の前で鍛錬した帰りにこの船殴っちゃいました」
「な、何──⁉ど、どうして」
「いえ、何だかそういうフォルムをしてたので」
「て、てめぇはきょ……狂人か、あああああああああ────!!!!お、落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
三人が乗った船は炎を纏うイカロスとなって雲に消えていき、グレンさんの呪うような
見送りに来ていた村の人たちの間にも暫しの静寂が訪れたが、アインハルトだしな、と言う毎度の決まり文句で事態を把握し、まばらに散って行く。
……うん。グレンさん、やっぱりあんたって俺と同じで苦労人タイプだよ。俺が飲める年になったら一緒に朝まで飲み明かしましょう。
俺は第二のアインの被害者になるだろう人物に心の中で敬礼した。
────その翌日。
「次はお前だよ」
「は?」
このばーさん、勝手に俺の寝室に無断侵入していきなり何ほざいてるんだ。
たとえ、自称仙人のばーさんでも犯罪は犯罪。
村の警備隊に突き出そうとベットから尻を上げた瞬間、無言の腹パンを一撃受け、窓ガラスを突き破り家からダイナミック外出、そのまま首根っこ掴まれこの島の
「お前には旅に出てもらうよ」
「?」
「もちろん、拒否権はないよ」
ばーさんはパチンと指を軽快に鳴らすと、空から島全体を揺らす程の地響きを振動させて降って来たナニカ。
俺は恐る恐る右手のナニカを見た。
それは、筋肉。
優に2m以上はある体躯に腕、脚、胸筋、腹筋共に美の彫刻品までに育て上げられた芸術品のような筋肉の盛り上がりと締まりが印象的な頭皮てるてる坊主のマッスルじーさん。
俺は恐る恐る左手のナニカを見た。
それは、黒いマリモ。
3mは軽くある巨漢に身体の正面以外を真っ黒の剛毛で覆われ、千股が極太の丸太を連想させ、全身に刻まれた傷跡が歴戦の
いや、こいつは最早ゴリラじゃない、GO☆RI☆RAだ。
正面には宙に浮きながら胡坐をかく陰湿さと狡猾さと愉悦な笑みが印象的な自称仙人のばーさん。
バーさんは俺が日頃、首からかけている灰色の鍵に目を細めた。
「……母親からの鍵は肌身離さず持ってるようだね。よし。これから、立派なマグナカルタ人に育て上げるから覚悟しな」
嫌です。
それと、マグナカルタ人って何ですか?
絶対やべー種族だろ!
「拒否権はないと言っただろ。なに、3人で修行するんだから普通の3倍速く3倍強くなれる寸法さ」
やめてください、死でしまいます。
「おや、アインハルトに旅に出るって約束したんじゃいのかい?」
それを言ったの、昨日ことだよ!
なんなら、感覚的にはついさっきだよ、言ったのは!
俺は数年後のつもりで言ったのに、何でその翌日に旅に出る準備をしなきゃいけないんだよ。
物語的にもう少し期間を置かなきゃいけないでしょ。
先走りすぎにも程があるわ。
しかし、何で急に俺が修行させられる羽目になるのだろうか?
「旅立つアインハルトを今にも追いかけたそうな目で見てたからね。色恋沙汰に疎い私でもそれくらいは察するさ」
勘違いです。
本当はエンジンの振動で揺れるアインのおっぱいをこれが最後だなと思って、ガン見してただけで、冒険心とか恋情の感情は一切ありません。
でも、これ言ったら俺を取り囲んでる人外共に殺されそうだから黙っておこう。
「さぁ、
もう、多分このばーさんに何を言っても聞く耳持たないだろうから、突っ込まないようにするけど……その温かい目で見るのをやめろ。
見かけによらず恋愛脳だろ、このばーさん。
年齢知らないけど、年齢考えろ。
そんなこんなで、俺の修行は色々と誤解を交えながら始まりを告げた。
あ、「道草・アカリ」ってのは俺の名前だ。
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