一騎討ちまでの過ごし方(2)
アーノルド=デネブの所持する剣
名称:手負い殺しの剣
レベル:112
耐久:SS
魔法伝導性:D
魔法攻撃力:E
物理攻撃力:S
特殊:G
特別な能力こそないが、業物級の得物である事、本人の強さも手伝って、数多の猛獣を屠って来た業物である。
本来、武装としてこれ以上無い、『一番良い装備』とするようなものだ。
が、
あの毛皮には勝てない。
業物級を通さないと言われる生物の革鎧。
本に書かれていた限りでは、あれを倒したとされる人々は皆英雄であり、皆魔剣か聖剣を持っていた。
しかも、今回相手にするのは単純な獣ではない。
獣の如き毛皮を持ち、牙を持ち、爪を持ち、それでいて人の狡猾さを持ち、知能を持ち、美しい戦姫。
知能がある人間である。
ただ剣を弾く獣なら目や口を狙って仕留めることが出来る。
しかし、剣を弾く人間となるとそう簡単にはいかない。
猛獣と人間。
それぞれの強さを十全に発揮する相手。
十日程度鍛えた程度では決して届かない。
おそらく勝てないだろう…………………………
コンコンコン
思考の世界から現実に引き戻された。
誰かがドアをノックした。
「隊長。宜しいでしょうか?」
何かを抱いたような、何かを抱え込んだような声がドア越しにした。
「良いですよ。入って下さい。」
「………失礼します。」
そう言って入って来たのは今度結婚すると言っていたあの男であった。
彼は目を伏せたまま、無言で隊長の目の前に歩いて来る。
その顔は何かに心を押し潰された人間の顔であった。
「隊長…………俺は……俺は……」
目を伏せていた顔が持ち上がり、こちらを見る。
その目には絶望が有った。
「私の不用意な行動が隊長、延いてはこの砦、その後ろの無辜の皆さんを危険に曝してしまい、戦争の引き金を引いてしまいました。
どうか私に厳罰を。この軽い命で償えるとは思ってはいませんが」
「待ちなさい。」
堰を切ったように謝罪が流れて来る。どうやら彼は自分が女王レリルに刃を向けたことが本件の発端だと思っているようだ。
「あなたの行動は間違ってなど居ません。
『あの猛獣の群れを前にしていた私を援護しようと将を狙った。』。
なんの落ち度も有りません。」
本心であった。
彼が私を守ろうとバリスタを放ったことは正直、嬉しかった。
それに、
「どちらにしろ彼女は侵攻する気だった筈です。あの矢はむしろ我々を弱者でないと主張するための一矢であったと私は思います。ですから、命で償うなど愚かな事を言わないで下さい。」
それに。 そう言って続ける
「あなたが死んだら誰がこの砦を守るのです?
あなたが死んだら誰が後ろの無辜の民を守るのです?
あなたが死んだら残された女性は如何するのです?
あなたは欠けてはいけない。
命で償う事が出来る事象などこの世には無いのです。
もし、あなたが過去を償いたいと思うのであれば、あなたは生きて。
生きて償って下さい。」
「………隊長…………。」
彼は何も言わなくなった。
彼の行った行動は我々に十日の時間と抵抗の選択肢を与えた。
それは我々に起死回生の機会を与えた。
しかし、あと一歩足りないのも真実。
どうすれば………………
コンコンコン
「隊長。宜しいでしょうか?」
ドアを叩く者が居た。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
因みに、デネブさんは対外防衛砦コアリス所属の人間全ての名前と顔、それにその他情報を完璧に覚えています。
しかし、今回は登場人物を闇雲に増やすのもどうなんだろう?と考えて敢えて名前を出していないだけでデネブさん本来の会話では相手の名前をちゃんと言っています。
作者の編集です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます