Folge 91 ぼっち嫌い

 朝から目が覚める程の美味しい料理を頂いた。

 お見事、天晴。

 どう表現したら伝わるのかな、言葉が浮かばない。

 語彙力の無さに嫌気がさす、それぐらい美味しかった。


「どうでした? サダメ様」

「はい、大変美味しくいただきました。――――料理、出来るんじゃないか」

「出来ないとは言っていないよ?」


 確かに。内緒にされていただけだ。

 ……たいていの場合、出来るから内緒って言うんだよな。

 と、オレは思う。


「美咲と二人で生活してきたんだから、料理ぐらい出来るようになるよ」

「でもな、理由はどうあれ優れたモノを持っているってことは、素敵なんだよ」

「またあ。なんでサダメはそういうことをサラッと言うのかな……照れるの!」


 少しキレながら喜んでもらった。

 こういうのはどう対応するものなの!?

 真っ赤な顔して可愛いしか無いし。


「咲乃ちゃんが照れると、可愛いね」

「悔しいけど認めるわ」

「兄ちゃんが構いたくなるタイプよね。はあ、困ったわ」


 妹が困っている。当事者のオレが困っているぐらいだからね。

 でもね妹よ、安心しな。

 お前たちのことが大好きなのは変わらないから。


「咲乃ちゃん、料理教えてね」

「カルラちゃんは十分上手だよ。褒められて嬉しかったのはボクだよ?」

「……それなら、教え合わない? それぞれが得意な所を」

「あ、それいいね! 楽しそう」


 負けず嫌いのカルラが相手を認めている。

 ただ認めるのではなく、高め合う所が彼女らしい。

 相手の技術を会得する――ということは、今よりも上達するわけで。

 咲乃とはイーブンかもしれないけれど、負けはしない。

 その辺は徹底しているなあ。

 カルラにとって、良い刺激になったのかも。

 友達が出来辛い中で、刺激を受けられる出会いができて良かったな。


「なんか、つまんない……つまんないーっ!」


 ツィスカが拗ねた。

 あらら、カルラを取られた気になった?

 自分も何かしたくなったのかな。


「ツィスカも一緒に料理すればいいじゃないか」

「そうだよ、一緒にやろ?」

「あたし、料理ってあんまり面白く無いのよね。試食してあげる!」


 おい、混ざりつつ一番楽なポジションじゃないか。

 この混ざりつつって所が重要で、ツィスカのぼっち回避術だ。

 マウントを取るようにして構ってもらう。

 オレもそうだけどさ、寂しくなるのが嫌なんだよな。

 それが分かるから突進してきても受け止めてあげるんだ。


「二人で作ると相当な量になるから覚悟してよ」

「そこは調整しなさいよ。あたしの食べる量はよく知っているでしょ!」

「わたしが咲乃ちゃんと楽しむのに、なんでツィスカに合わすのよ」

「それが妹の役目だからじゃない」


 困ると姉を振りかざして妹を抑え込む。

 いや、カルラが引いていると見せかけているんだよね。

 この妹が負けを選択するわけないのだから。

 美咲が話に入ってきた。


「私も何かしたいんですけど」

「空いている時はオレといればいいんじゃないか?」


 ――――あ。


 ついポロっと。


「サダメちゃん……私、それならどれだけでも出来ます!」

「ちょっと、兄ちゃんからそういうこと言っちゃうの?」

「だってさ、美咲がぼっちじゃ可哀そうじゃないか。料理美味いのに混ざれないのも可哀そうだし」


 美咲は目がキラキラしている。

 他の女子は固まった。


「僕はツィスカと一緒に試食係になるよ。そしたら二人共作り放題でしょ?」


 はい、優しい弟登場。

 姉を助けつつオレと美咲に時間をくれるという、出来過ぎた奴だよ。


「実は美咲と二人で話す時間って少なかったからね、そういうのもいいだろ?」

「し、仕方ないわね。まあ、あたしとカルラは絶対、ぜ~ったい一緒に寝るしね」

「強調しなくても二人とはいつでも一緒だから、安心しろって」

「ほんとに? 最近さくみさに取られているんだもん」

「ボクってサダメをゲットできたの?」

「咲乃、私も入っているから」


 慌てて美咲が入り込んだのは少し噴いた。

 みんなそれぞれ可愛い所があるよな。

 それを楽しませてもらっているのは、幸せなことだ。


「はいはいっ、全員構わせろよ! 可愛い子ばっかりで気が狂いそうだ」


 そう言うと、全員笑ってくれたよ。

 こんな雰囲気が好きだ、じゃれるだけで喜んでくれるなら。

 甘えちゃっても、カッコつけても楽しんでもらえるなら。

 いくらでも使ってくださいな。

 この中じゃ、一番のぼっち嫌いだしね。

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