Folge 88 甘い朝

「咲乃ってさ、料理は出来るの?」

「ああ、料理ね」

「している所を見ていなかったなあと思ってさ」


 ここで色々と振舞ってくれているのは美咲だ。

 料理が出来るのは自ずと分かる。

 しかし咲乃は――――


「彼女にしてくれたら分かるんじゃないかな」

「おいおい。料理が出来るかどうかを知るために付き合い始めたとか、そんな説明をしたくないぞ」

「へえ。彼女になったら紹介してくれるんだ」

「え? んー、どうせ裕二が聞いてくるだろうしな。……他に聞いてくる奴いなかったな」

「ははは。友達いない方が助かるよ。ボクが独占できるからね」

「それ、複雑なんだけど。……あ、そんなに困らないな」

「ボクがいれば困ることはないでしょ。妹ちゃんたちも離れないだろうし」

「そうなんだよな。さくみさが増えたら尚更寂しく無くなった」

「……サダメって、普段寂しいの?」

「どうだろ。振り向いた時誰もいないとか、歩いている時腕を掴まれていないとか、そういう時は違和感がある」


 寝ても覚めても誰かにくっつかれている。

 それが日常。

 だから、少しでも触れられていないと、あれ? ってことになる。


「もうスキンシップ中毒だね。でも大丈夫。ボクが離れないから」

「嬉しいけどね、彼女にはなっていないよ?」

「でも、キスしたり一緒に寝たり、結構スキンシップだらけだよ?」

「……どういう関係なんだろうな」

「ボクは彼女気分でしかないけど」


 言われてみれば。

 キスが当たり前になっている異性の同級生ってなんだ!?

 どちらからもスキンシップしまくっているよな。

 なんだこれ。


「付き合っていることになるのかな。でも妹は違うように言うし」

「妹が彼女というのは? そっちの方がどういう状況なんだか」


 おお、妹は彼女だった。

 うん、なんだそれ。

 全然悪い気がしていないからそのままにしているけどさ。

 話しながらバーベキューをした場所へ移動。

 まだ炭の匂いが残っている。

 それを感じつつイスに座った。

 ええっと、何か忘れている気がする。


「あ、料理だよ! 料理が出来るかどうかを聞いていたんじゃないか」


 座って思い出した。

 バーベキューを食べた記憶が蘇ったからだ。


「えへへ、気付かれちゃったか。サダメがボクの彼氏気分になってくれたら分かるんだよ、きっと」

「どうやってもそこへ持って行くんだな。ははぁん、さては出来ないな?」

「どうでしょうねえ。どちらとも言っていないもん。お楽しみにってことでいいじゃない」

「なんでなんだよ。いいじゃないか教えてくれたって」

「秘密だよ~。彼女にしてくれたらって言ったじゃん」

「彼女みたいなもんだろ? 教えろよ~」

「みたいなものじゃだ~め。彼女じゃなきゃ」


 寒さから守ることもあり、並んで座っている。

 お互いの腕は当然の様に触れていて。

 腕に寄り掛かりながら教えないモーションをされた。

 軽く押された圧が、嬉しいから困る。


「妹が彼女ならいっそ彼女にしちゃうか。いや、彼女じゃなくてもこうしているし、やっぱり必要無いと思うんだよな」

「ボク的にはだけど彼女にしてくれたら、なんだかサダメのモノになれた気がして嬉しい」

「モノ扱いする気はないよ」

「言葉の綾だよ。ほら、今主従関係とか言っているでしょ? あれでも嬉しいんだから」

「わかんねえ」

「サダメが自分のだ! って想ってくれることを望んでいるのさ。それを『彼女』って言葉に込めているんだよ」

「はあ……なんとなく分かった気がする。そんなに好きなの?」

「うん、大好き! サダメ以外、考えられない。前にも言ったけど、自分でも驚く程好き」


 そこまで――――。


「それに答えてあげられるのかな。咲乃の気持ちと比べられはしないけど、好きなんだよな」


 袖を掴まれて軽く引っ張られる。

 反射的にそちらを見ると、上目遣いの咲乃。

 このアングルとその表情、心が鷲掴みにされるんだってば。


「好きって何が?」

「それは、咲乃が……さ」


 グイッとさらに引っ張られ、耳元で囁かれる。


「ボクだけ? ボクだけを好きなの?」

「前にも言ったろ? みんな好きなんだよ」

「ずるいなあ。それこそだよ」


 耳たぶを甘噛みされた。

 最初は軽く歯を立てられた。

 その後はハムハムと……。


「彼女級に好き? ねえ、好き?」

「その彼女って立場がピンと来ない。でも、妹級に好きにはなっていると思う」

「それって、彼女級じゃん! あん、聞けて良かったよ。もう、サダメ大好き!」


 やたらと喜んでくれて、たっぷりキスされた。

 そして、二人を朝日が照らし始めていた。

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