Folge 77 アイス
夏――避暑地にいる。
ということは……アイスである。
「全員、無言だな」
避暑地とは言え、日差しに当たれば暑い。
慣れない土地に普段より多い歩数。
喉も乾くし、気温に負ける。
それを見越してか、ケアショップが多い。
健康維持のお店ではなく、ファーストフードね。
ところで、オレの妹ってさ……。
「あのさ、無心に食べている姿が可愛いんだが」
「兄ちゃんがそういうことをサラッと言うようになったね」
「……そうだな。確かにサラッとな」
「いいんだよそれで。あたしは嬉しいしかないから」
「食べている所は見られるの嫌なはずなのに、サダメなら嬉しいのよね」
「不思議だよね~」
それは不思議だ。
兄、だから? お互い知り尽くしているから?
見られたいというフェチ?
「いい?」
日陰のベンチに座っている。
日差しを遮っているはずが、さらに影が出来た。
陰の正体は咲乃で、オレの膝を指差していた。
「どうぞ」
人数に対してベンチのスペースが足りない。
さくみさが座らずに譲ってくれていたのだが……。
咲乃はターンをして尻から膝へと着座した。
アイスを食べながら美人の背中を眺める。
さくみさも妹と同じく長髪。
垂れた髪からは芳香が鼻を喜ばせに漂ってくる。
素晴らしい休憩時間。
「美咲はタケルの膝借りる?」
「あ、どうしましょうか」
「そりゃ兄ちゃんがいいでしょ?」
「いえ、タケル君が重くて困るんじゃないかと」
重い?
いやいや。
背は高めだけども、細いから軽いでしょ。
お姫様抱っこ軽々できるぐらいだし。
「こいつは合気道やっていたでしょ? だから安心しなよ」
「なんかね、ボクは格闘が強いんだって」
「格闘するんですか!?」
「習っていた時はしたけど、普段はもちろんしないよ」
「ですよね」
知らなかったとはね。
「なんだ、てっきり知っているんだとばかり」
「初耳でした」
色々と話していたであろう頃。
それぐらいのプロフィールは話してあると思っていた。
タケルも視野に入れていたようだったから。
「立ったままも疲れるから、ちゃんと休んでおきなよ」
「それで膝の上に座ると言うのも凄いですけど」
「中一男子に高一女子が乗る。確かに凄いかも」
座りかけた美咲は立ち直す。
「やっぱりやめます!」
「ごめんごめん! 悪い冗談でした。休んでください」
「……もう」
少々頬を膨らませながらも、ちょこんと膝に座った。
やはりタケルは平気な顔をしてアイスを食べている。
「咲乃は楽しい?」
「うん。嬉しいし楽しいよ」
「そりゃ良かった」
関わってくれた人には良い想いをしてもらいたい。
どうしてもそう思うんだ。
肌に合わない人はお互いに仕方がないけどさ。
受け入れ合える人とは常に良い想いをしていたい。
おっと、アイスが溶けてきた。
残りは少し無理をして全部口に頬張る。
両手を空けて、咲乃の背中を抱えた。
これがしたくて急いで食べたのは内緒。
「サダメ? ボクにもしてくれるんだね」
「うん、今したくなったから。嫌?」
「そんなわけないよ。ボクにもさ、いつでもどうぞ」
「任せろ。甘えちゃうぞ~」
「楽しみだなあ。甘えられるのっていつもの逆だから」
どんどん自分から動いてしまう。
これはやはり、旅行マジックなのかな。
雰囲気に流されやすいというか、本音が出やすくなるのか。
……本音が出やすい、か。
本心で動いているなら、素直になったってことか。
気持ちを出していなかったんだな。
扉が開いたんだなと、実感した。
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