Folge 53 久しぶりの妹

「……おはよう兄ちゃん」


 美咲と共に一階へ降りる。

 寝ぼけ眼のツィスカとすれ違った。


「おはよう。眠そうだなあ」

「だって……兄ちゃんと寝てないもん」


 お、お前――それは、可愛すぎるだろっ!


「ああん、ちょっと補充するう……」


 スルスルっと両腕が背中に回される。

 絶妙なふんわり感で抱きしめられた。

 ところで今、どうやって抱きついたんだ?

 オレの腕はどちらも脇を締めていた。

 なのに何の引っ掛かりも無く通り抜けたぞ。


「お前さ、今どうやって腕を通した?」

「……ん? どうって、普通に」


 さっぱりわからん。

 それにしても、慣れ親しんだこの感覚は安心選手権で優勝だ。

 カルラと熾烈な優勝決定戦をやりそうだな。

 いや、気づくとタケルが優勝してそうなのが笑える。


「くっつくの久しぶりー。兄ちゃん好きー」


 クンクン匂いを嗅ぎながら頭を左右に振り、胸板に顔を擦りつけている。


「今日は一緒に寝よ?」


 横にいる美咲を見てしまった。


「いいんじゃないですか?」

「わたしもそろそろ限界なのよね」


 キッチンから次女の声だ。

 確かに最近妹との接触が、無い。

 毎日一緒に寝ることが日常だった。

 それが絶たれてから随分経つ。

 マズいな。


「今日は一緒に寝ようか。タケルはどうする?」

「寝る時の姉ちゃんたち次第で。どうあれ夜中にこっそり潜り込むけど」


 三人共我慢していたんだな。素直に嬉しいよ。

 風呂まで一緒に入らなかったしね。

 なんだかオレも楽しみになってきた。

 ツィスカが抱き着いただけでこの幸せ。

 弟妹全員と寝たら、この上無いな。


「兄ちゃん兄ちゃん兄ちゃん、好きー!」


 まだ擦りつけている。やたらと妹感が濃いね。

 お?

 妹感をこんなに感じる事っていつぐらいぶりだろ。

 これ、感覚が変わってしまったってことかな。

 日常を変えてしまったから。

 大事なものまで変わっていそうで、怖くなってきた。


「兄ちゃん?」

「ツィスカ、久しぶりだから――な」


 恐怖感から逃げ出すようにギュッと抱きしめた。

 少し背が伸びたか?

 なんだか全体的に変わっている気がする。

 たった数週間でこんなにも違いがあるのか。

 嫌だ。

 別人に触れているようで、嫌だぞ。

 マズいマズいマズい! 元に戻したい。

 うん、元に戻そう。


「兄ちゃん大きくなったね。力も強い」

「そうか?」

「うん、成長したんだね。なんかドキドキする」

「ツィスカも成長していると思う。こうしていると、前とは違うんだ」

「変じゃないといいけど」

「変な事は無いよ。ただ、知らない期間があるのが許せない」


 そう、許せないんだ。

 こいつらの事を知らないなんて許されないんだよ。


「離さないでくれよ。オレもお前たちのことを離さないから」

「えへへ。兄ちゃんがあたし達のことを心配しているね。嬉しい……」

「今はまだ勝てませんね。でも、これからはあのように接しますから」


 隣でこの様子をジッと見ていた美咲。

 引くのではなく、むしろ攻めに徹することにしたみたい。


「そんなに仲良くなったんだ。美咲ちゃん良かったね。でも、渡さないよ?」

「そちらこそ、覚悟してくださいね」


 妹と彼女候補。

 争いはさらに激しくなりそうです。

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