Folge 21 ラインを越えたがる弟妹

 ソファーでツィスカとまったりしていた。

 言葉は交わさずに腕の長さ比べをしたり、手のひらを合わせたり。

 相手の片脚に自分の片脚を乗せて、乗せられたら乗せ返す。

 そんな軽いスキンシップをして遊んでいる。

 ミックスジュースを飲み終わる頃、カルラとタケルが風呂から出て来た。


「あ、ミックスジュース飲んだんだ。わたしも飲もうっと」

「僕も飲むよ」


 二人は冷蔵庫へ向かう。

 ソファーの後ろを通って。

 カルラは通りざまにオレとツィスカの間へ黒い封筒を放り込んだ。


「また届いたわ」

「マジか」


 風呂場に二度も出現するとは。

 今度は咲乃なのかな。


『藍原サダメ様。お怒りは承知の上でお願いします。見捨てないでください。 咲乃』


 隣からツィスカが覗き込んでムッとする。


「自分たちが変な事してきたんじゃない。普通にしていればこっちだって悪くはしないわよ」

「そうだな」


 ツィスカの言う通り。

 余りにもインパクトがあり過ぎる接し方。

 これではとても付いて行ける気がしない。


「オレの基準ってさ、ツィスカとカルラになるだろ」

「ふふっ。 はっきりそう言われると照れるわ」

「でさ、二人の接し方が最強だと思っているんだよ」

「ふむふむ」

「あの二人ってさ、二人を超えているんだよね」

「ちょっと悔しい。もう少しレベルアップしようか、ねえカルラ?」


 ミックスジュースをカップに注ぎながらカルラがそれに答える。


「わたしは構わないわよ。でもサダメが壊れちゃうから今ぐらいにしておきたいかな」


 どれだけのパワーを秘めているんだ!?


「そ、そうなの? まだ上のレベルがあるの?」

「あたし達の愛に限界があると思っているの? 兄ちゃん」


 今のレベルで制限かかっていたのか……。

 マジでジムでも通わなきゃいけないかな。


「嬉しいけど……壊れない程度を維持してもらえると助かる、かな」

「たまに暴走するのは許してね! 兄ちゃんもたま~に暴走するけど、ふふふ」


 そりゃスイッチ入りそうになる瞬間が度々訪れるんだぞ。

 スイッチ避けて心の指を何度突き指つきゆびしているか知らないだろ!


「そ、それなりに我慢しているんだぞ!」

「我慢、ね。我慢してたっけ?」


 カルラが人差し指の先を顎に当てて天井を見上げる。


「結構あんなこととかこんなことされている気がするんだけど……」

「なっ!?」


 ツィスカは当然のように抱き着いているオレの腕を引っ張りながら言う。


「あたしにはさ、カルラよりそういうのが少ないと思うんだよね」

「そうかな」

「そうよ。あたしじゃ足りないのかしら? 学校じゃカルラよりモテているんだけど」


 そう。

 学校ではどちらかというとツィスカがカルラよりモテているそうだ。


「サダメは見る目があるってことよ」

「何それ! あたしがカルラに劣るっていうの?」

「劣るとまでは言っていないわ。サダメはあたし派なのよ」


 いつから派閥闘争に!?


「どちらの派閥にも所属した覚えはないぞ!強いて言えば、二人共オレの妹だから同じ!」

「だから駄目なのよ」

「へ?」

「そういうところよね」


 カルラも同意している。

 なんだ?

 空気が怪しくなってきたぞ。


「だから美乃咲姉妹みたいなのが現れるのよ。自覚して欲しいわね」

「ほんとよ!」


 あれぇ?

 まずいこと言ったかな。


「ちょっと、お二人さん?」

「もうね、あたし達だけ見ていればいいの! 美人が言い寄って来たらすぐそっち見ちゃうんだもん。彼女としては許せないわ!」

「うんと、はい、すみません」


 血縁関係とはいえ、二人共彼女。

 でもさ、今までこの二人以外から告白されたことの無い男の子。

 そんな奴が美人二人から告白されたらさ、色々と考えるでしょ。

 健全な男子だと思うんだけど。


「モテるお兄さんは嫌いですか?」

「そりゃ兄がモテるのは嬉しいわ」

「なら悪い話ではないだろ?」

「そこじゃないのよ」


 わっかんねえ。


「例え誰かと付き合うことになったとしても、お前たちを構い続けるって言っているのに」

「いなければ確実に構ってもらえるじゃない」


 そりゃそうだけど。

 オレに男としての楽しみを味わってはいけないのか?

 いや、贅沢なことを考えているのか?

 オレがオレの思う道を歩いて何がいけないんだ!?


「ふう。ちょっと疲れた。あの二人が絡む話は当分したくないな」


 妹同士で顔を見合わす。


「そうね、あの二人が話に出てくるといつもこんな感じになっちゃうね」

「なるべく話さないようにしましょう」

「あたしたちも勝手なことを兄ちゃんに言い過ぎていたかな」


 ツィスカがオレの正面に立った。

 そのまま太ももに座り両手で顔を包む。

 顔を近づけてきて唇を重ねられた。


「これで許して。後はカルラにバトンタッチ。今日はいっしょに寝るんでしょ?」

「そうよ。二人の時間が楽しみ」


 美乃咲姉妹に全てを擦り付ける形で話を終えた。

 オレ的には少々後味が悪いんだけど。


「やっぱり女の子に生まれたかったなあ」

「タケル。兄ちゃんが好きなのは分かるけど、心が女に替わっちゃうから気を付けてね」

「他の男の人を見てもそんな感情は湧かないし、可愛い女の子を見ている方が楽しいから大丈夫だよ」

「二人の妹が入れ込む兄だから、弟も仕方が無いのかしらね」

「やっぱり兄ちゃんは最高なんだよ!」


 ほめ殺しが始まった。

 これを聞くと基準がおかしくなるんだよな。


「タケルにまでそんなに思ってもらえるんだから、自分に自信を持たなきゃだな」

「寧ろそれだけ魅力があって自信が無い兄ちゃんが不思議な人よ」

「周りの女子もシス&ブラコンぐらいで変人扱いするなんて、勿体ないことしているわよね」

「そうすると美乃咲姉妹って見る目はあるってことか」

「それが否定できないから妹としては複雑なのよ」

「ああ待った待った! 美乃咲姉妹話は終わらせたぞ。はい、今日は終了! カルラ弄りをさせろ~」

「サダメが怖いこと言い出したわ。わたし朝まで無事でいられるかしら」

「カルラ頑張ってね! 兄ちゃんのスイッチが入ったらもう止められないから」

「その時は後先考えずにわたしもスイッチ入れるわ」

「こらこら! 勝手に暴走させるなよ。その気になるだろ」


 まだ膝の上に載っているツィスカがオレの頭を撫でながら言う。


「その気になってもいいのよ?」

「こら。変な期待をするんじゃない! 藍原家の大事件になっちまうから我慢ポイントは死守するの!」


 妹二人が笑っている間にタケルが寄ってきた。

 何か言いたそうだな。

 と思ったら――――


「兄ちゃん、これだけ許して」


 タケルにキスされちゃった。

 嫌な気がしない自分が怖い。

 と同時に怖くさせないタケルが怖い。


「おお!」


 妹二人が歓声をあげる。


「タケルやるじゃない。でも家ではいいんじゃない? 好きなものはしょうがない!」


 タケルのスイッチも結構ディープなのに。

 姉がそんなこと言ったらオンされちまうだろうに。


「ほどほどに、頼むよ」

「うん、ほどほどに、ね」


 この子達は日に日にオレへの愛が深まっていくんだな。

 うれしいけど、先行きどうなるんだろ。

 楽しそうだけど不安。

 楽しさ九割、不安一割だけどね。

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