Folge 16 不意打ち
寝始めた時と同じ格好で同じ感触のままいきなり目が覚めた。
明らかに朝ではなく夜中だと身体が訴えてくる。
眠った時間の短いことが分かる感覚。
これは眠れていない。
時間を確認してみようとベッド際に置いてあるツィスカの時計に目をやる。
イルミネーションをピンクにしているデジタル時計が二時七分と教えてくれた。
やっぱり。
朝までたっぷり時間があるじゃないか。
このまま妹を堪能させてくれればいいのに。
よりによって丑三つ時に目覚めさせるとは。
仕方がないのでトイレぐらい済ませるか。
その後は朝までの時間を妹成分の充填に充てるのだ。
「ちょっとの間待っててくれよ~」
と囁きながらベッドを降りる。
寝ているんだから待つも何もそのままいるはずなんだけど。
オレの気持ち的には待っててもらうってのがしっくりくる。
「ふんにゃ。どうしたのお、サダメえ?」
「ごめん、起こしちゃったか。なんか目が開いちゃってさ、起きたついでにトイレぐらい行っておこうかなって」
「そう……また、戻ってくるう?」
「もちろん。一緒に寝足りないからね」
結局カルラを起こしちゃった。
すぐに戻るから許してくれ。
起きたからこそ、一緒に寝ていたことを実感できた。
それも嬉しく感じるな。
そんなことを考えながら廊下を歩いてトイレに向かう。
夜中のトイレって、他が暗いから妙に明るく感じるんだよね。
目が明かりに慣れていないだけなんだけど。
トイレに来るのは気分的なものだから、すぐに用は済んだ。
静かに、そして気持ちはそそくさと妹たちの所へ。
その時、いきなり口を塞がれた。
それも生暖かいモノで。
生暖かいもの。
それはさらに熱を持ったものを、オレの口の中へと捻じ込ませて来た。
突然のことでどう抵抗していいのかわからない。
トイレの明るさに合わせてしまった目。
そのせいで暗闇でのサーチを封じられている。
これではどうにも状況が飲み込めない。
足がつまずいて倒れそうになった――いや、倒れてゆく。
何かに支えられてゆっくりと床に下ろされる。
そして口を塞がれたまま両手両脚でがっちりと抱え込まれた。
そのまま床を引きずられてどこかへ連れて行かれる。
なんだよ、これ。
こんなことをする奴らと言えば、あの二人しかいないだろう。
なんて冷静に予想している場合じゃない!
こんな夜中になんてことをしているんだあいつらは!
引きずられた終点はオレの部屋のようだ。
あの二人が犯人ならば当然だな。
それにしても、オレをホールドしているのは誰だ?
いや、考えるまでもないか。
こんな大胆なことを考える奴は咲乃しかいない。
あ~、せっかく美人な二人なんだからさあ。
もうちょっとムードとシチュエーションを大事にして欲しかったな。
このやり方は、付き合い始めから四か月ぐらいで週に一度か二度?
そんなペースで会うぐらいのカップルだよ。
知らんけど。
それなら部屋に入るなりする行動として納得するが。
と、オレの頭は妄想する。
付き合ってもいない女子から、すっぽんの様に吸い付かれている。
さらにがっちりと抱き締められて、逃げるどころか声も出せないなんて。
これじゃあ胸が熱くならないよ。
全くってのは言い過ぎか。
美人から一方的に攻められる。
百パーセント嫌だと思う男はいないな。
それも同じ歳の知っている女子だ。
あ、顔が浮かんできたら動悸が激しくなってきた。
うわ、傍から見たらとんでもない恰好だ。
男女が、それも高校生が!
激しいアピール合戦をしているようにしか見えないのでは。
咲乃からの一方的なアピールだからね!
オレからは何もしていないよ!
そこ大事!
今度テストに出るから!
って、いつまでオレは口を吸われていりゃいいんだ?
妹で慣れているとはいえ、相手が違うだけに勝手がわからん。
ホールドの力も半端ないから色んな所が体中で確認できてしまって。
ちゃんと彼女と言える人だったら。
それならどれだけの幸せを感じられたんだろう。
この状況でこれだけ冷静に考え事が出来てしまうオレもどうなの?
「ごめんねサーちゃん。乱暴なのはよそうって言ったんだけど、咲乃が聞かなくって。おまけに私より先にサーちゃんとキスしちゃうし。私はちゃんと告白もしているのに」
ふむ。
咲乃の暴走か。
納得できるけど納得できない!
にしてもオレ、いい加減息苦しくなってきているんですけど。
咲乃の口の勢いが止まらない。
今度は口の中が腫れてしまうのか!?
もう怪我はしたくないよ。
「にしても咲乃、ちょっとがっつき過ぎじゃないの? サーちゃん大丈夫?」
あんまり大丈夫じゃないなんだが。
でもね、これだけのキスをされているんだ。
男スイッチが入ってしまいそう。
というかもう入っているかもしれない。
自分にしがみつくように抱き着いて離す気配がない。
必死に口にむしゃぶりついている女子高生。
薄暗い部屋というシチュエーション。
この中での彼女の表情は妙に色気を演出されている。
こんな状態で理性を保てだなんて生き地獄としか思えない。
あ、シチュエーション考えてのことなの!?
いやいや、ムードが無いよムードが!
オレが息苦しさを感じているぐらいだ。
咲乃も息が荒くなってきていている。
それがさらに気持ちを熱くしてくる。
この状態を見ている美咲は、何故止めないんだ?
オレ、このまま美咲の前で公開なんちゃらに持ち込んでしまいそうだぞ。
「サダメどこ? 部屋から音がするわね」
カルラ!?
そうか!
トイレに行ってすぐに戻ると言ったきり戻ってこないんだもんな。
カルラなら当然探しに来るよな。
「何、してるの?」
「あ、その、これは……」
「ちょっと! 本当に何しているのよ! サダメ、なんで。あんた離れなさいよ!」
カルラが必死に咲乃とオレを離れさせようとする。
でも咲乃のホールドがきつくてなかなか離れない。
これのせいでオレも段々変な気になってきていたわけだけど。
「美咲さん! 手伝いなさいよ! あなたの妹でしょ?」
「こうなってはしょうがないわ。咲乃、終わりにしましょ。今日はこれまで」
美咲が咲乃の鼻をつまんだらようやく口が解放された。
マジで苦しかった。
「サダメ! すぐ戻るって言ったじゃない! なんでこんなこと……」
「サーちゃんは何も悪くないわ。今の咲乃の抱き着き方を見ればわかるでしょ? 離れられなかっただけよ」
「何冷静に言っているの! サダメはまだ怪我がやっと治ってきたところで、調子が良いわけではないのに。あなたたちは酷いわ!」
カルラは泣きながら膝にオレの頭を乗せ、両腕で抱え込んだ。
「もう嫌だ。あなたたちに会いたくない! サダメをこんな目に遭わせる人なんて顔も見たくないわ! 帰ってよ!」
ここまで取り乱したカルラは初めて見るな。
オレも反省してしまう。
こんな思いをさせる気なんて全くなかったのに。
「ごめんねカルラちゃん。ボクもここまでする気は無かった、いや、したい気持ちは当然あったんだけど、どうしてもサーちゃんに近づきたくて、抱き着いたら自分が止められなかった。サーちゃんは怪我をしていたんだよね。それなのに自分の気持ちだけで動いちゃった。ごめんなさい」
咲乃は床に座り込んだままカルラに頭を下げていた。
「とにかく帰って。今日は無理」
オレはカルラの腕を軽くポンポンと叩いて話しかけた。
「カルラ、びっくりしたんだよな。落ち着いてくれ。オレも男のくせにどうにもできなかったのが悪いんだし」
「サダメは何も悪くない!」
「まあ落ち着けって。この夜中に女の子だけで外を歩かせるわけにはいかないだろ? とりあえず今日は泊まらせてあげて」
「なんで……本当にサダメは優し過ぎるんだから、バカ」
そう言ってカルラはオレの頭を抱え込んだ。
「二人共、今晩は泊まっていいからね。ちょっと今回はオレも今まで以上に困ってしまったからさ、少し二人で話してみてよ。こっちも受け止められる限界があるからさ」
声が籠ってしまう状態だけど、そのままの体勢で美乃咲姉妹にそう伝えた。
「確かにやり過ぎだよね。二人で話して頭を冷やすよ。ごめんね」
咲乃は反省の言葉を口にするけど、妙に冷静だ。
なーんか信じられない。
「それじゃカルラ、部屋へ戻ろう」
泣き顔のカルラはコクリと頷き、部屋を後にした。
「あれ? 部屋に戻るんじゃないの?」
「ちょっとリビングへ付き合って」
そのままベッドへ戻ると思ったけど、リビングへ。
ソファーの前でカルラを自分の方へ向かせる。
まだ若干べそをかいているカルラの顔を確認して、そのままキスをする。
「ん」
カルラも応じてくれて、しばし二人の世界に没頭した。
「怖かったか?」
「うん。だってすぐに戻るって言ってたし。待ってたから」
「そっか。ありがとう」
とにかく思いっきりカルラを抱きしめた。
色んな思いが湧いてきた。
けど、それをいちいち言葉にするよりこの方が伝わると思ったんだ。
カルラも力いっぱい抱きしめてくれた。
やっぱり安心して気持ちを通わせられる。
それを感じられるのは、この子たちだからなんだと改めて思う。
特に最近カルラへの気持ちは自分の中で少し違ってきているようだ。
なんだろう、この感覚。
「部屋に戻ろうか。ツィスカが起きてしまうし」
「うん」
随分長いトイレタイムになってしまった。
部屋に戻ってからは事件の起こる前と同じ体勢で、改めて眠りに就いた。
あ、ちょっと違うな。
寝始めの時よりもっとカルラを感じられるように抱きしめた。
するとカルラもようやく安心したみたい。
それからは可愛らしい息遣いになったんだ――――
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