Folge 17 揉む!

 翌朝。


「ふあ~、ん、ふえ? あたしいつから寝てたんだろ」


 ツィスカの可愛い声でオレの耳が起きた。


「ねぇカルラ~。起きてる?」

「うん、おはよ」

「おはよ~。あ、兄ちゃんも一緒に寝てたんだ。カルラずるい」

「何が?」

「何がじゃないよう。兄ちゃんにガッチリ抱いてもらってるじゃん」

「そうよ。いいでしょ」

「代わってよ」

「それが、ずっとこうされてて」

「こうって、何されて……」


 ああ、これのことか。

 カルラが嫌がらないからずっと胸を鷲掴みして揉んでた。


「ええっ」

「寝ている間中ずっとなのよ。わたし安心して寝たりびっくりして起きたりで」

「はあ。顔も真っ赤ね」

「そりゃそうよ。サダメからこんなことされたら、わたし達ってどうにもできないじゃない」

「いいなあ。やっぱり代わって」

「だから動けないのよ」

「羨まし過ぎる! 兄ちゃんを起こすしかないのね」


 ん?

 ツィスカが動き出すと大抵何かが起こるんだけど、大丈夫かな。

 先に起きた方が得策か?


「おまえら起きたのか?」

「兄ちゃん起きた! ねえ兄ちゃん。カルラばっかりずるいよ。あたしも同じようにして」

「同じようにって何をどのように?」

「えっと、その、ギュッと抱きしめてえ、あと~、う~んと、……ねを……で欲しい」

「何? 聞こえなかった」


 ははは。ツィスカが恥ずかしがっているよ。

 言えないようなことお願いするのか?

 さあ、言えるかな?


「だからさ、その、ギュッと抱きしめてえ、あと~、う~んと、……ねを……んで欲しい」

「抱きしめるのは聞こえたんだけど、それだけでいいの?」

「んもう。あと~、……ねを揉んで欲しい」


 ははは! 困っているツィスカが可愛すぎるよ。

 そこまで言ったならいつもの猛進で言っちゃえばいいのに。


「揉むの? 抱きしめて腰でも揉むのか? 笑い死ぬぞ」

「兄ちゃんの意地悪! もう分かっているんでしょ! 言わせないでよ」

「じゃあ肩かなあ、こむら返りを治してほしいとか? 頭のマッサージか?」


 カルラの後頭部しか見えていない。

 それでもツィスカの頬が膨れているのが想像できる。


「あああああ! 分かった、言います、言えばいいんでしょ!? 胸を揉んで!」


 女子中学生の妹からはっきりと「胸を揉んで!」なんて聞ける。

 これは少数だろうなあ。

 いや、妹のいる奴の話を聞いたことがある。

 大抵のご家庭では敵対関係でしかないと聞く。

 となると、ありえないことなのかな。


「本当にいいの?」

「だってカルラはずっとそうしてたんでしょ? あたしもできるもん!」

「無理してやってもらうことじゃないと思うけど」

「して欲しいの! もう、優しい兄ちゃんが優しくない! ツィスカのこと嫌いなんでしょ」

「大好き。可愛いもん」

「――――ずるい」


 ああ面白い。

 これが藍原家だよ~。

 これこれ!

 妹とじゃれるのは最高に楽しい。


「カルラ、朝まで掴みっぱなしだったけど大丈夫?」

「大丈夫だけど、その質問恥ずかしいわ」

「ありがと。心が休まりました。それじゃあツィスカに交代してあげて」


 両腕を広げるとカルラがツィスカ側へ転がっていく。

 それを乗り越えてからツィスカがカルラの居た場所に綺麗に収まった。

 ボディサイズが一緒だから抱きしめていた熱の差ぐらいしか違いが無い。

 ジェットコースターの安全バーのように両腕を閉じる。

 離れないようにギュッと抱きしめた。

 抱きしめた感覚は二人共ほぼ一緒。

 なんだけど、何もかもが一緒なわけじゃない。

 ツィスカだ、と分かる匂いや感触があるんだ。

 また新たな安心感に包まれる。


「んふ」


 ご所望通り胸を鷲掴み。

 これ、オレもめっちゃ得しているよね。


「ツィスカ、ぐっすり寝られたみたいだけど、もう大丈夫か?」

「今言われるまで忘れてた。そうだ、あたし怒ってたんだ」

「そのまま忘れな。思い出すことないよ。」


 そう言いながら胸を揉んでやる。


「ひゃっ。く~、恥ずかしいね。これ、カルラずっとされてたの?」

「そうよ。嫌なら代わろうか?」

「嫌なんて言ってない! これってさ、片方だけ大きくなっちゃうとかないよね。よく言うじゃん、揉むと大きくなるって」

「違うらしいけどな。両方が良ければオレは構わないぞ?」

「……兄ちゃんに任せる」


 猪突猛進型なのに敵前でどうすればいいのか悩んで止まる。

 という特殊スキルの持ち主ツィスカ。

 面白いしそこが可愛いんだよね。

 親バカか。

 いや、兄バカって言うのか?

 任されたので、しっかりと両方揉んであげよう。

 オレが癒されるんだー。


「これって、慣れてくると安心する。癖になるかも」

「癖になってくれたらオレは得するからうれしいけど」

「兄ちゃん、あたし達は付き合っているんだよ! もっと彼女扱いして」

「そうか。でもスイッチ入ると止まらないからどっちかが適当なところで止めてくれよ」

「わたし達も止まらないかもだけどね」


 自然に三人で笑い合った。

 いつまでもこんな調子でいられたら。

 話をしている時は毎度そんなことを思うんだ。


「おはようございます」


 ドアの向こうから声がする。

 美乃咲姉妹も起きたようだ。

 途端に妹二人の表情が曇ってしまった。

 二人が対応するわけがないので、オレだけで対応する。


「おはよう。そろそろ起きるからもう少し待っててくれる?」

「いえ、大丈夫です。その、夜中は失礼しました。このままお暇させていただいて、二人で反省会をしようと思っています。どうか私たちのことを嫌いにならないでください。それでは失礼します」

「あ、ちょっと」


 玄関ぐらいまでは見送りしようかと思った。

 だけどツィスカが脇を締めて動けなくしたからそれは叶わなかった。


「今は行かないで。三人の時間を続けようよ。兄ちゃんが持っていかれそうなんだもん」


 またそういう嬉しいことを。

 今日はゆっくり家族で過ごしていつも通りを取り戻すことにするか。

 オレも正直なところ随分と疲れた。

 今までに経験していなかったことが続いたからだよな。

 ということは、弟妹も同じなわけで。


「お前たちの前から消えることは無いから、安心しろ。いつも言っているだろ~。嫌でも一緒にいてやるからな」


 そう言ったらカルラがオレの背中へ回り込んで無理やり抱き着く。

 ベッドの端だから思う様に乗っかることができない。

 ぐいぐいオレの背中を押す。

 ツィスカが尺取虫のように動いてスペースを作る。

 すると、カルラが背中に抱き着いてきた。

 妹が双子である特権。

 このサンドウィッチはいつも最高なのです。


「ところでタケルってどうした?」

「ここにいるよ~」


 びっくりした。

 まさか本人から返事が来るとは思っていなかったから。


「へ? どこにいる?」

「足元」


 ベッドの足元へ目を向けると、ひょこっと顔を出したタケルがいた。


「いつの間に……」

「夜中にドタバタしていたから心配になってここへ来たけど、兄ちゃんたちの雰囲気が声を掛けられない感じだったから、そのままここで寝ちゃった」


 結局ウチの四人は同じ部屋で一緒にいないと安心しないんだな。

 相変わらず、ということで。

 ひとまずゆっくりしよう。

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