森のげえむ屋さん

平野文鳥

第1話 『ぼくはテレビゲームがきらいです』

 その昔、テレビゲームが世の中に登場して人気が出始めたころ。都会の森のかたすみに『森のげえむ屋さん』というとても小さなゲーム会社がありました。これは、その小さな会社で大きな夢を持ち続けた6匹の動物さんたちの、ちょっとレトロなゲーム開発物語です。



■登場する動物さんたち

【ブブくん (ぶた)】  

 この物語の主人公でゲームグラフィックが担当です。イラストレーターになりたくて都会の森へ出てきましたがやりたい仕事が見つからず、仕方なく生活のために『森のげえむ屋さん』にはいりました。


【ファルコン社長 (キツネ)】

『森のげえむ屋さん』の社長です。以前はゲームメーカーの役員でしたが、そこをやめて独立し会社を作りました。現実的でロマンチストです。


【ミーちゃん (ネコ)】

 会社のアイドルです。ゲームグラフィックが担当ですが、会社の事務の仕事を手伝ったり、みんなの面倒をみてあげたりと大いそがしです。


【ゼロワンさん (犬)】

 ゲームプログラムが担当です。頭が良く、まじめで素直な性格なのですが、ちょっと気の短いところがたまにキズです。


【モグリンさん (モグラ)】

 マンガ、アニメ、ゲームが大好きな「おたく」なゲームプランナーです。会社にはいる前はマンガの原作や、アニメのシナリオを書いていました。おフロが大きらいです。


【ピコザさん (鳥)】

 ゲームサウンドを担当しています。むかしロックバンドにいたそうです。ちょっと無口でこわいイメージがありますが、実は心やさしく親切です。




■第1話 『ぼくはテレビゲームがきらいです』

 

 ぼくの名まえはブブ。

 一流のイラストレーターをめざして『田舎の森』から『都会の森』へ出てきました。でも、都会ってきびしいですね。ぼくよりも上手なイラストレーターがたくさんいるせいか、イラストの仕事になかなかありつけませんでした。

 そうこうしているうちに、持ってきた生活費も底をつきはじめ、やばい!このままでは生活ができなくなるぞとあせりながら駅の売店で買ってきた仕事情報誌をパラパラとめくっていると、ある宣伝コピーに目が止まりました。


『イラストレーター募集! 今やテレビゲームはゴールドラッシュ!』


 そこには、あるテレビゲーム会社がイラストレーターを募集する記事が書かれていました。ぼくはさっそくその会社の住所と電話番号をメモしようとしましたが、すぐにその手を止めました。理由はかんたんです。だって、ぼくはテレビゲームがきらいだったからです。その理由ですが——


 ぼくが学生のころ、地元の『田舎の森』にあった小さなゲームセンターに『マンベーダー』というテレビゲームがはいりました。それは宇宙から攻めてくる悪い人間達を大砲でやっつけるという大ヒットゲームでした。すると、それまで一緒に遊んでくれてた友だちがそのゲームに夢中になり、それをプレイするために毎日のようにゲームセンターにひきこもってしまったんです。ぼくもその友だちにつきあって、そのゲームをやってみたましたが、どうもヘタクソなのか、すぐにゲームオーバーになってしまいます。


(こんなもののどこがおもしろいのかなぁ? 外で遊んだ方がずっと楽しいのに……)


 ぼくは『マンベーダー』に夢中になっている友だちの丸まった背中を見ながら、そう思いました。そして、その日から、ぼくから友だちをうばいとったテレビゲームがきらいになってしまったというわけです。まぁ、俗に言う『さかうらみ』というやつなんでしょうが……。


(でも、ゲームがきらいだからといって、せっかくの仕事のチャンスをムダにするのも、もったいないしなぁ。う〜ん……)


 ぼくは悩みました。そして、よく考えてひとつの答えをだしました。


(とりあえずこのままじゃ生活できなくなるから、わがままを言うのはやめとこう。テレビゲームはもうかるらしいから、もうかったらさっさと会社をやめて、そのお金で本当にやりたいイラストの仕事が見つかるまで生活すればいいや)――と。


 ちょっとズルイかな? と思いましたが、ぼくにも『したたかに』生きてゆく権利があるはずだと自分を納得させ、とりあえずその会社の面接を受けることにしました。

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