俺ら、スカイランナーズ 一話
ここからの夕焼けは毎年、見事だ。
今年、ようやく入賞までしてくれた顔も名前も知らない後輩たちには感謝しか無い。特に去年のあの失敗から書類審査を越えてここまで来てくれた。スカイランナーズを立ち上げた時にはまさか、タイムアタック部門で入賞する事になるなんて考えもしなかった。当時はそもそもタイムアタックなんてなかったが。
そんな古巣の最高の瞬間に立ち会えただけでも今年の大会は充分すぎるが、まだ気は抜けない。明日は俺たちの番だ。
太陽に背を向けてスマホを触っていた設計の柿本が突然、立ち上がってそのままどこかに走って行った。どうしたのか声を掛ける余裕も無かった。
「かきもん! 逃げるな!」突然、女の声が響く。
髪が短く、気の強そうな子だ。状況が分からないが、スカイランナーズのTシャツを着ているあたり柿本と同じだった八期だろうか。
彼はあっという間に見えないところまで走っていってしまったので、やむなく彼女に話しかける。
「柿本に何かありました?」
「話したい事がありまして。どこ行きましたか?」
「いや、分からない。どうせなら待っていたらいい」
「ありがとうございます」
彼女から色々と聞いたところ、やはり彼の同期だった。しかも元リーダーの室 茉莉奈だと言う。名前だけはOB向け連絡メールで知っていた。去年のタイムアタック部門への転向に関して柿本と激しく対立し、去年のテストフライト後に彼とは連絡が取れずにいたが、今日、たまたまこのチームにいるのを見つけてやってきたという。
十分程経っても柿本は戻ってこなかったので彼女も痺れを切らし、
「もし戻ってきたら連絡貰っていいですか?」と言って彼女はスカイランナーズの陣地へと帰っていった。
柿本は結局、このタイミングにとコンビニまで買い出しに行っていたらしい。アイスをかじりながら戻ってきた。
「室さんが来てたぞ」
「だから逃げたんです。何言ってましたか?」
「戻ってきたら連絡してほしいって」
そう言ってスマホで彼女に連絡する。柿本は止めてきたが、きいた話の限りだと一度話しておいた方が良いだろう。
「ここで喧嘩する事になるんで辞めて下さい」
「なら、琵琶湖に近い所で話してくれ」
柿本がまた逃げようとする。
「向こうだって入賞したんだから今だと機嫌いいだろう? 明日の後だと結果次第でもっと酷い状態でくるかもしれないぞ」
「入賞したから、合わせる顔が無いんです。去年の自分の機体が墜ちて、今年あんな見事なフライト見せられたら」
「その経験が生きて出来た機体じゃないのか、今年のは」
「それでもです、去年墜ちた時に俺はあいつらといなかったんですから」
「その時の清算だと思えよ」
しばらくこんなやりとりをして彼をこの場に留まらせていた。
「かきもん!」最初に来た時よりも大きな室の声が響く。「いないと思ったらOBチームに行って!」
とりあえず二人を湖に近い方に促して、放っておいた。あとは彼らの問題だ。
柿本は塩をかけたように大人しくなって室の話を聞いているようだった。ずっと彼女の声が聞こえてくる。相当溜め込んでいたものがあったのだろう。彼も珍しく何も反論もしていない。多少は気にしているのは察した。
空の色がオレンジから藍色になっていくまで二人は話し込んでいた。お似合いかどうかは分からないが、沈んでいく夕日をバックに話している二人は絵になる。
人力飛行機をやっていると、色々揉めるよな、なんて思いながら俺は二人のシルエットを眺めていた。
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